タイトル ジャングル・ブック(1942年版)

公開年

1942年

監督

ゾルタン・コルダ

脚本

ローレンス・ストウリングス

主演

サブ―

制作国

イギリス

 

最初この映画を見た時、製作年が1942年と知りアメリカならともかく、第2次大戦の最前線にあったイギリスでファンタジー映画、それもカラーで作られたことに衝撃を受けたが、後に本作はロンドン・フィルムの総師アレクサンダー・コルダがハリウッドに渡って製作した事を知り、少しほっとした。とはいえ、プロパガンダと無縁の本作の様な児童文学をベースにした映画をイギリスが作っていた事は、敗戦国の一員としては打ちのめされる思いがするのには変わりがない。やっぱり自分より強い相手にけんか吹っ掛けてはいけないのだ。

主演のサブーはこの後もファンタジー映画を中心に活躍する

 

見た範囲で分かったのは、ルドヤード・キップリング原作の世界的な名著「ジャングル・ブック」の中から「モウグリの兄弟たち」「虎よ、虎よ!」そして「続・ジャングル・ブック」から「王の突き棒」等をベースにしているようで、ローレンス・ストウリングスが脚色、アレクサンダーの弟ゾルタン・コルダが監督に当った。ゾルタンは現実的な映画を好んだのに対し、アレクサンダーはファンタジーを望んだため、兄弟間で意見が食い違っていたが結局アレクサンダーが押し切る形となった。

原題は「Rudyard Kipling's Jungle Book(ルドヤード・キップリングのジャングル・ブック)」

北米や英国では大ヒットし、戦後にはフランスやソ連でも公開され、こちらもヒットする。

今回見たのはU-NEXTの配信で、劇場公開版は110分の尺に対して75分とかなり短いが、冒頭部分のモウグリがジャングルで動物たちと暮らす部分が丸ごとカットされている。吹き替え版しかなかったので、恐らくテレビ放映版なのだろう。ディズニー版と違い、本作ではほぼ動物たちは話さずこの部分は伝道師バルディオのナレーションで処理されている。

映画の冒頭で、本来ならストーリーテラーを務める講釈師バルディオの語りから始まるが、その部分はカットされている。

猟師ラオは村を襲った猛虎シェア・カンに喰殺され、彼の赤ん坊はその騒ぎでジャングルの中へ迷い込み、父狼アケラと母狼ラシュカに育てられるところから始まる。その後、ジャングルの動物達に助け励まされてモウグリと呼ばれる逞しい少年に成長していくのだが、この部分もまるっとカット。いきなり十数年後に逞しい少年に成長したモウグリが、シェア・カンに追われて偶然生まれ故郷の集落に紛れ込む。モウグリが偶然人間の村を目にしてしばらく観察するシーンもあるが、ここもカットされ、いきなりモウグリは村に紛れ込んだようになっている。

バルディオらはモウグリを悪魔の使いと信じ込んだが、これも予期せず本物の母のメッシュアに引取って育てることにした。いつの間にか、人語を話すようになったモウグリ。どのくらい時が流れたかは不明だが、話せないと物語が進まないという大人の事情が垣間見える。余談だが、狼少女として有名なアマラとカマラのうち、保護後9年間生きたカマラは、せいぜい単語を話せる程度だった。もっともこの二人に関して、今では二人を保護したとされる伝道師による寄付金欲しさのフェイクだったことがほぼ確定している。

モウグリはバルディオの娘マハアラと親しくなり、彼女をジャングルの宝庫に案内するが、そこにはコブラに諭され、金貨一枚だけを持って帰ることにした。ディズニー版に登場するニシキヘビのカーは悪役だが、本作のコブラは然として描かれている。

マハアラが金貨を持っている事に気が付いたバルディオは問いただし、モウグリに宝の在処を教えろと強要したがモウグリは承知しない。更にモウグリはシェア・カンを倒したので、村人から畏敬の念で見られるようになる。焦ったバルディオはモウグリを焚殺そうと図る。その上でわざと逃がして、宝のありかまで案内させる。守備よく宝のありかにたどり着くが、持つ者の命を奪うといわれるルビーを手にしたことで、彼らの仲間の間に深刻な疑心暗鬼を生むのだった。

CGのない時代、猛獣と言えど調教に頼るしかなかった

 

「ジャングル・ブック」と言えばジャングルに住む愉快な動物たちとのユーモラスなやり取りというイメージがあるが、本作にはその要素はほぼなく、人間社会に戻ったモウグリが、差別や偏見に出会いながらも、たくましく生き抜く姿が描かれるのがメイン。そしてラストで彼は森に戻る決心をするのも、ある意味当然の結末と言える。今回見たバージョンではカットされるが、冒頭とラストに登場する伝道師は、本作の悪役のバルディオが年老いた姿で、彼も自分の行いを反省して、モウグリの物語の語り部となる事で人間を戒めようと考えている。U-NEXT版ではこれらがカットされ制作側の意図はあまり伝わらない。一応廉価版のDVDはあるが、画質は相当ひどい。ただ、現時点でYouTubeに完全版が出ていて、日本語字幕も付けられるし画質もかなりいいので興味を持たれた方は、YouTube版を見る事をお勧めする。

 

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何といっても本作の魅力は、動物たちの生き生きとした演技。言うまでもないがこの時代CGはないから、すべて本物の動物を調教したもの。黒豹や虎、そして狼などちょっとしくじれば命にかかわりかねない危険な猛獣たちが、本当に演技している様に見える。この頃ハリウッドの動物調教師はマジにすごい。

そしてもう一人、欠かす事が出来ないのがモウグリを演じたサブ―だ。主演のサブ―はインド出身。撮影中のクルーから抜擢され「カラナグ」で主演デビュー。その後、本作プロデューサーのアレクサンダーの目に留まり渡英。更にプロモーションでハリウッドに渡り「アラビアン・ナイト」や「バクダットの盗賊」等に出演し、44年には米国籍を取得して陸軍航空隊の爆撃機機銃手として従軍した経験もある。戦後も精力的に活動していたが、39歳の若さで突然死したのは残念でならない。