タイトル 大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン

公開年

1966年

監督

田中重雄

脚本

高橋二三

主演

本郷功次郎

制作国

日本

 

本作は、「大怪獣ガメラ」のヒットを受けて大映東京が、ゴールデンウイーク用映画として通常の作品の倍の予算が投じられた特撮怪獣映画。昭和ガメラ・シリーズ初のカラー作品である。同時上映は大映京都の「大魔神」だったので、日本で唯一新作長編怪獣映画の2本立てを行った作品となった。

その事もあり大ヒットしたが、予算がかかりすぎたため赤字になってしまったという。また、本作はドラマを重視し、昭和ガメラ・シリーズで唯一子供が登場しない映画となり、バルゴンの登場は約40分ほど経過したのち。ガメラも、冒頭に登場した後同時刻位まで登場しなかったことから、主な観客である子供から飽きられたと判断された。これは同時上映の「大魔神」も抱えていた問題で、その事もあり次回作は子供をメインとしたシナリオに変更されることになる。

杏子姐さんが「モスラ~や、モスラ~」と歌っていたら黒歴史か?

 

前作、謎のZ計画で火星に飛ばされたガメラが隕石に衝突して、地球に舞い戻り、黒部ダムを破壊するところから始まる本作。これから半ばあたりまで怪獣の出番が無いので、子供を飽きさせないための苦肉の策だろう。その後、パイロットの平田が戦争中に、兄がパプア・ニューギニアに隠したオパールを探すため、足が悪い兄を残し兄の仲間の小野寺、川尻と共に現地に到着。早速近くの村を訪れ道案内を頼むが、誰も答えてくれない。村には恐ろしい言い伝えが残されていたのだ。そこで3人だけで向かい、何とかオパールを発見するが、ここで小野寺が独り占めしようと画策。川尻にさそりが憑りついているのに放置して見殺しに。さらに平田も爆薬で入り口を塞ぎ、自分だけ意気揚々と日本に向かう。

神戸の港で停泊中に、小野寺は水虫治療の為赤外線をあてていたが、それがオパールにあたると、そこからバルゴンが出現し急速に巨大化してしまう。バルゴンは関西を蹂躙しつつ東に向かって進み始めた。

その頃、原住民により助けられた平田は、オパールが怪獣の卵であると知り、原住民の娘カレンと帰国していたが、バルゴン出現のニュースに接する。

主演の本郷功次郎はデビュー7年目で本作の出演となったが、当時はまだ怪獣映画への偏見が強く、何とか逃れようと仮病まで使った様だ。しかし、他の主な俳優たちが軒並み断ったので、仕方なく引き受ける羽目となった。その後も「大魔神怒る」や「大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス」「ガメラ対宇宙怪獣バイラス」等の特撮映画への主演が続くが本人はずっと不本意に思い、プロフィールに特撮映画を入れなかったが、後年になってもこれらの映画が愛されている事を知り考えを変えた様だ。約30年後に「ガメラ 大怪獣空中決戦」の出演オファーが来た時は快諾した。

ヒロインの江波杏子は、同年から始まった「女賭博師シリーズ」で人気となり、任侠映画のイメージが強いが、本作出演時は悪女や情婦が多かった頃だけに、子供向け特撮映画のヒロイン役はかなり珍しかった。

その頃ガメラが飛来し大阪でバルゴンと、壮絶な戦いが繰り広げられるが、バルゴンの冷凍液に凍らされて倒れてしまう。その後、自衛隊の攻撃を跳ね返しさらに進むバルゴン。ここで、自衛隊はカレンや平田の助言から、ダイヤを使ったバルゴン誘導作戦や、バルゴンが放つ虹色光線を鏡で跳ね返してバルゴンを攻撃する作戦を立案するが、前者は小野寺の妨害で、後者は打撃を与えるもとどめはさせずに失敗する。万策尽きた時、ガメラが生き返ったという知らせが届くのだった。というのが大まかな粗筋。

広大なミニチュアセットが組まれたのも本作の特徴

 

大人向きとして作られ、主演の二人も落ち着いた雰囲気で、また主なシーンが夜間が舞台ということもあり、全般的にアダルトな雰囲気が漂う。ラストシーンから二人のラヴストーリーとの見方もできる。それにもかかわらず大ヒットした事で、当時の怪獣映画の人気の高さがうかがえるが、その一方で主な顧客だった子供からの評判はいまいちだった事は反省点となった。その事から特撮監督の湯浅憲明を中心としてチームを結成して対策を考えたが、湯浅はやはり子供をメインとすべきとの結論で、次回作からは子供中心のストーリーとなり、そして子供の味方という明確な描写がされるようになる。ただ、ライバルのゴジラは1969年の「ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃」まで、子供を主人公とした話を作らなかったので、これはゴジラとの明確な差別化を図る事が出来たと思う。

左から2番目の女性自衛官。「こんなダイヤがあなたの部落にたくさんあるのですか」と思わず口走る

 

そのせいもあってガメラ・シリーズの中では異色作となっているが、人間の欲望が大惨事を起こすという構成など、脚本はしっかりと練り込まれていて見ごたえがある。本作のヴィランである小野寺は厚顔無恥として描かれていて、事件の発端を招いたばかりか、終盤に自分勝手な欲望から、せっかくの作戦を妨害する挙動に出るなど、怪獣映画全般を見ても稀に見る悪人となっている。その一方で自衛隊の司令官は、冷静沈着に作戦指揮を執り、門外漢の平田とカレンの意見も真摯にくみ取るなど度量の広い人物に描かれている。これも昭和の頃の特撮映画としては珍しい事だ。

前作のヒットを受けて予算がアップしただけに、大規模なミニチュアセットが決まれ、映画に奥行きと迫力を加えている。バルゴンの虹に絡むようにガメラが飛び、それをジープの自衛隊員が見上げるというカットなど、カットが考えられているのも見どころ。それに中盤ガメラが登場しない分、自衛隊との攻防戦が見どころとなっているのも面白い。その後もガメラ・シリーズは大映のドル箱となっていくが、残念ながら本作が出た時は、もう大映の経営は傾き始めていた。

すべてが終わりたたずむ二人。この辺りは二人の持つアダルトな雰囲気があっている

 

本作と、次の「大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス」がシリーズ屈指の名作と思っているので、未見の方はぜひともこの2本だけは見てほしい。