タイトル 沈黙の戦艦

公開年

1992年

監督

アンドリュー・デイビス

脚本

J・F・ロートン

主演

スティーヴン・セガール

制作国

アメリカ

 

本作は、核弾頭ミサイルを狙ってテロリストに乗っ取られたアメリカ海軍の戦艦ミズーリを、元海軍特殊部隊の指揮官でミズーリのコックを務めていたケイシー・ライバックが奪還を目指すアクション映画。公開当初は海洋版「ダイ・ハード」と呼ばれ、大ヒットした。もっとも、「ダイ・ハード」のジョン・マクレーンは普通のニューヨーク市警の刑事で、火事場の馬鹿力でテロリストを翻弄するのだが、本作のライバックは元々スキルの高い元特殊部隊員なので違いがある。本作のヒットを受けて、続編も製作された。日本ではセガール出演作をくくって「沈黙シリーズ」と呼ばれているが、これは本作のヒットを受けての事で日本固有の事。唯一の正統続編の「暴走特急」は、何故か「沈黙」がついていない。もっとも、本作公開時には「沈黙シリーズ第3弾」というサブタイトルがつけられたが、これは本作と「暴走特急」の間に「沈黙の要塞」が公開されたことによる。なお、「沈黙の要塞」の原題は「On Deadly Ground(死の地にて)」となる。

”戦艦”と付いていても、戦艦出ない場合が多いが、本作は本物の戦艦が出てくる

 

本作の冒頭で、セガール演じるライバックと副長のクリル中佐がアダムズ艦長の前でバチバチやり合うが、この後の展開を予想させるいいオープニングだ。そして一介のコックに過ぎないはずのライバックとアダムズ艦長との絆を感じさせ、後にアダムズの遺体にそっと礼服をかけるシーンに繋がる。

そのあとは観客の予想通り、クリルがいろいろと画策し艦長の誕生日を祝うとの名目で、プレイメイトを始め余興のタレントたちをミズーリに乗艦させる事に成功。そして大半の乗員をパーティ会場に呼び寄せる。当時の米海軍の艦上勤務はほぼ男祭り状態。そこにセクシーなプレイメイトがやってくれば、鼻の下伸ばして集まるだろう。更にクリルが女装して歌うというおまけまであるが、さすがに海軍の中佐があんな真似をするのは異常。あそこで、クリルの狂いっぷりも表現している。

やって来たタレントや給仕たちは、プレイメイトを除けば当然テロリスト。プレイメイト登場の前座に熱狂する乗員たちは、いとも簡単にテロリストに制圧される。一方厨房ではクリルに反抗して冷凍庫に監禁されたライバック以外はパーティに呼ばれ、見張りで水兵が一人つけられていたが、テロリストにあっさり殺され冷凍庫に突入するが、ライバックの逆襲で返り討ちに会う。パーティ会場で、乗員たちのほとんどが監禁されている事を知るが、そこに巨大なケーキの中からプレイメイトがヌードで出現。彼女は本物で、船酔いが酷いので酔い止めをもらったら、ケーキの中で寝てしまったという。隠れるように言うが、恐怖のあまりかライバックについていくと言ってきかない。仕方なく彼女を同行させる事にする。プレイメイトのジョーダン・テートを演じるのはエリカ・エレニアックで本当に女優業の傍ら、プレイボーイ誌で活躍していた。チョイ役だが「E.T」にも出演した事があるし、以前紹介した「ブロブ/宇宙からの不明物体」でもヌードを披露している。脚本上最初は騒ぐだけの典型的な馬鹿な女だったのが、セガールが難色を示した事で次第に頼もしさを出すように修正された様だ。

テロリストの首謀者は、ストラニクスで、ミズーリに積んである核搭載の巡航ミサイルを強奪し、闇市場で売りさばくのが目的。かつてはCIAに協力していたが、その危険性に気が付いたCIAに殺されかかるも逃れ、今回はその復讐も兼ねている。演じるは、名優トミー・リー・ジョーンズ。この頃はあまり役に恵まれていなかったが、本作のエキセントリックな演技が評価され注目を集め、その後「逃亡者」で主演のハリソン・フォードを押しのける人気を得る。親日家としても知られている。

その頃、ストラニクスをかつて雇っていたCIAのトム・ブレーカーは、彼が首謀者と知り動揺を隠せず見苦しい訳に終始する始末。「暴走特急」でも同じ役を演じ直接顔を合わせる事はないものの、ライバックにとっては天敵となっている。

出演者で他に目を引くのは、ストラニクスの片腕を演じるコルム・ミーニイ。「新スターとレク」や「スタートレック:ディープ・スペース・ナイン」の人気キャラ、チーフ・オブライエン役で知られる。オブライエンは愛妻家で子煩悩で温厚な役だったが、映画では悪役・敵役を演じる事が多い。

名優二人の狂った演技も見どころ

 

かなり好きな映画だったが、戦艦の艦内で銃撃戦をやっているのに、全く跳弾しないし、1500人いるはずのミズーリを少数のテロリストであっさりの制圧しているし、そのテロリストたちもプレイメイトの存在を忘れていたりと、今見るといろいろと気になる部分があるのは仕方のない事。平凡なコックが実は…というのはよくある展開なので、そのあたりの意外性はない。しかし、冒頭から中盤までの展開はスリリングで、主要キャストはみんなキャラが立っている。何よりセガールの演技とアクションは素晴らしいの一言。この頃はまだ痩せていて、鋭利な刃物のような鋭さを感じさせる。繰り出す独特のアクションもスタイリッシュでいい。対するトミー・リー・ジョーンズの狂気を秘めたテロリストも魅力的。ただ、クリル中佐のゲイリー・ビジーの役柄がストラニクスと被るので、ここは少し考えるべきだったと思う。それ以外のキャラは、こうしたアクション映画のお手本と言っていいほど魅力的だ。

この頃のセガールは、こんな格好してもよく似合う

 

それと、セガールの出演作は酷評されることが多いが、本作は、セガールが脇に回っている「エグゼクティブ・デシジョン」や「マチェーテ」とともに、米映画評サイトRotten Tomatoesで「フレッシュ」と認定された数少ないセガール作品の1作。その後、様々な亜流を生んだことからも、面白さは保証付きと言っていい。