タイトル ヒマラヤ無宿 心臓破りの野郎ども

公開年

1961年

監督

小沢茂弘

脚本

松浦健郎

主演

片岡千恵蔵

制作国

日本

 

本作は、世紀の怪作「アマゾン無宿 世紀の大魔王」に続く片岡千恵蔵の無宿者シリーズの第二作で最終作。このシリーズが2作だけというのがなんとも残念だが、それでも数多い片岡御大の出演作の中でも異彩を放っている。本作でもノリと勢いで突っ走っているところは同じで、更にヒマラヤの雪男という奇妙奇天烈な題材を取り上げて、ある意味では前作以上の特異な作品に仕上がっている。

まさかこのあごひげが伏線とはw

 

映画の冒頭はオープニングに合わせて、雪男がヒマラヤの登山キャンプを襲うシーンが挿入される。ちなみに本作で雪男を演じているのが台湾出身で力士だった羅生門綱五郎。巨躯を生かして怪人物の役が多い。台湾人だが完璧な日本語を話せるので、本作以外の出演作ではちゃんと台詞を話す役もある。一番有名なのは、黒澤明の「用心棒」に登場した大柄のヤクザの役だろう。

その後、日本の土門教授が雪男を捕らえたというニュースが世界を駆け巡る。その為教授らを乗せた旅客機が到着すると、黒山の人だかりとなるが、当の土門教授は人を食ったような受け答えで聴衆を煙に巻く。妹で新聞社のカメラマンの道子ですら教えてくれず、密かに土門の後をつけていると、不審な男たちに遭遇し拳銃を突き付けられるが、何とか逃走に成功する。道子が家に戻ると、風呂場に大量の氷とともに雪男がいることを発見する。慌てて写真に撮るとそれを恋人の雄次郎に託すのだった。

翌日大々的に、新聞に写真が載ったことから土門は不機嫌となるが、美智子が怪しい男たちの話をすると機嫌が直り、何やら考えがある様子だ。

本作の悪役にして真面目枠のお二人

 

その頃、雪男に扮してキャバレーで営業をしていた熊三とジーナの二人に、経営者の大竹は「本物が現れたらお前たちの商売は終わりだな」と告げられ大慌て。大竹にそそのかされ、本物の雪男を殺そうと企てる。この大竹こそ、道子を脅した男だった。その時高名なジャスシンガーのヨッチイ三谷が土門を訪ねてくる。実は彼女、本当は国際警察の捜査官。二人の利害が一致し、協力する事になる。

ヒロイン道子が佐久間良子で、雄次郎が江原真二郎。熊三は進藤英太郎といずれも前作の出演者。一方大竹は山形勲。ジーナは筑波久子が演じている。彼女はこの頃肉体は女優として人気を博し、本作でも色っぽい演技で魅せるが、元々身体が弱く、早々に女優をあきらめアメリカに渡ると、チャコ・ヴァン・リューウェンの名義で、プロデューサーとして活躍。「ピラニア」等B級映画を中心に活躍する。ちなみに「殺人魚フライングキラー」の監督に、当時無名だったジェームズ・キャメロンを抜擢したのは彼女とされている。ヨッチイ三谷は水谷良重(現水谷八重子)と相変わらず出演者は豪華。

当時の東映看板女優が一堂に!

 

熊三は東京タワーの前で開かれる雪男コンテストに出場するが、彼を破り土門が優勝。商品は3頭の山羊で、それは生肉しか食べない雪男への土産だった。その頃、三谷の手配りで雪男をホテルに隠すことに成功していた。早速山羊を連れていくが、ボーイが下げた皿には山羊の骨だけが乗っている。それを見たボーイは恐怖でへたり込んでしまう。

そこに、雪男を仕留めようと熊三が現れるが、土門の空手チョップで眠らされてしまった。

気が付いた熊三は、土門から話を聞くと協力を申し出た。遂に第1回雪男会議が開かれ、そこで土門の真意が明らかとなるのだった。実は雪男というのはヒマラヤに住む少数民族で人間。大竹のボスのチャン博士が、ウラン鉱石を見つける為にヒマラヤを調査した時、首尾よく発見するがその際荷物運びの原住民を、秘密保持のため皆殺しにしたが、その唯一の生き残りが来日した雪男だったのだ。というのが大まかな粗筋。

粗筋だけ読むと前作よりはまともに見えるが、実は前作以上にはじけている。雪男を連れ帰るという発想がトンデモだし、突然脈略なくぶっこまれる「雪男コンテスト」もぶっ飛んでいる。ここは片岡御大と進藤英太郎の悪乗り合戦。しかもその審査員として前作ヒロインの久保菜穂子に三田佳子に山東昭子。そして星美智子・小宮光江ら当時の東映看板女優が実名で出演。片岡御大と進藤英太郎の胸毛を触りまくるという、実に羨ましい状況が出現する。

そして、雪男評論家として度々登場する堺駿二もいい味を出している。

終盤は完全に多羅尾伴内のパロディで、髭を剃りイケオジに変貌した御大による、推理ショーのはじまりはじまり。ほとんど確たる証拠もないが、いいのだよ。御大が言うのだから間違いない。そしてお約束の銃撃戦を経て事件は大団円を迎える。悪乗りに徹する片岡御大と進藤英太郎に対して、山形勲と三島雅夫はひたすら真面目に悪役に徹するが、それが笑いを呼ぶというある意味好循環。

本作の被害者...もといヒロインの佐久間良子

 

2作だけというのがなんとも残念な位、片岡御大の進藤英ちゃんの悪乗り合戦が見られる怪作。そのせいか、なかなか見る機会は少ないが、もし配信等で見かけたら、ぜひ見てほしいところ。これもAmazonプライムの東映オンデマンドでは見る事が出来るので、契約している方は探して欲しい。人生にとって全く無駄な、それでいて有意義な87分を過す事が出来ると思う。