タイトル 牛首村

公開年

2022年

監督

清水崇

脚本

保坂大輔 清水崇

主演

Kōki,

制作国

日本

 

本作は、日本のホラー映画の巨匠、清水崇監督が手がける「犬鳴村」「樹海村」に続く、「恐怖の村シリーズ」第3弾で、今のところは最終作となっている。

最恐の怪談と呼ばれる「牛の首」と、北陸地方の有名心霊スポット坪野鉱泉など実在の心霊スポットを舞台にした映画で、実際に現地でも撮影が行われた。なお、撮影にあたっては現地でお払いが行われたという。その霊験があったのか無事に撮影は終了したが、木村拓哉、工藤静香夫妻の娘Kōki,の初主演作品という大きな話題があったにもかかわらず、映画の方は前作を下回る5億6000万円の興行収益で終わった。どうやら御利益は、撮影が無事に終了した事で使い果たしたようだ。

余談だが、「牛の首」という怪談は「怖すぎて、聞いたら正気ではいられなくなる」ということで、誰も聞いた事が無いという代物。2chで話題となった「鮫島事件」と同じで、ぶっちゃけて言うとそんなもの存在しない。

一度ぐらい、ヒロインをさせてやりたいアッキーナ

 

このシリーズお約束の、大谷凜香演じる動画配信者のアッキーナの配信から始まる本作。彼女は映画公開時でもう22歳と、JKを演じるには少々無理があるせいか、派手なウイッグをつけて誤魔化そうとしている。彼女がいるのは坪野鉱泉で、そこで牛の被り物をした友達を無理やり異世界に繋がるという建物内のエレベーターに閉じ込める。無論無事に済むはずもなく、エレベーターの中から彼女の姿は消えていた。

時系列だと少し後だろうが、JKの奏音はバイト先でBFの蓮から、アッキーナが上げた動画を見せられる。そこには自分そっくりの詩音と呼ばれる少女が映っていた。冒頭の牛の被り物をかぶせられた少女は詩音だった。いや、分かってたけど。

最近変な夢を見る事が多い奏音は、自分そっくりの少女がいる事に興味を持ち、蓮と動画の舞台となっている坪野鉱泉へ出向く決心をする。途中で知り合った山崎の車で坪野鉱泉の廃ホテルへ連れて行ってもらう。つまりこの二人は、長距離バスを降りて坪野鉱泉まで行く手段を用意していなかったことになる。人里離れた廃ホテルまでどうやって行くつもりだったのか?

道中人を轢いたり現地では飛び降り自殺に遭遇したりするが、周囲を見渡してもそのような痕跡はないのはお約束。廃ホテルを後にすると、アッキーナのSNSに上がった写真に写る海岸へ行く二人。そこで詩音の恋人だった将太が自殺しようとする現場に偶然遭遇。本当に都合がいい。落ち着きを取り戻した彼は、詩音の実家へ二人を連れていく。しかしそこには出張していたはずの奏音の父がいた!なんと奏音と詩音は、生き別れになった双子の姉妹だったのだ~~!いや、たいていの観客は想像ついてたし。

これほど意外でないサプライズは少ないだろうな

 

奏音は小さいころに誰かに連れ去られそうになり、それを助けてくれたのが詩音であることを思い出す。

詩音の家に泊まった奏音の枕元に、牛の首をかぶった女が出現。詩音かと思ったら、そこにいたのはかつて自分をさらおうとした女。その顔を見た瞬間、彼女の頭にタエコとアヤコという双子の姉妹の記憶がフラッシュバックし、そのタエコが自分の祖母だったという、説明はしょるのに持ってこいの展開。この村ではかつて双子は忌み児として嫌われ、7歳になると村はずれの穴に捨てられる習慣があったのだ!チョイ待て、奏音の祖母の時代にその習慣があったのなら、それは控えめに計算しても戦後の事。江戸時代、100万歩譲って明治初期なら可能性があるが、既に戸籍制度が確立して以降、7歳まで育てた双子の片割れを長年処分し続けるなんと事は可能なのか?

怖くなった蓮は、帰りのバスの中で双子の呪いにより殺される。そしてその手には牛首地蔵の首が握られていた。このシーンが分かりにくく、その前の駅で蓮は奏音に一緒に帰るよう促しているが、次のカットで奏音は実家の詩音の部屋にいる。したがって蓮は奏音を見捨てて帰ったことになる。自分が誘ったのにこの態度は如何なものか。この後、奏音のバディは将太に代わる。

逸材ぶりを発揮したKōki,だけに、本作の出来は残念

 

シリーズ通してみている人には、主人公たちが乗っている車が人をはねたり、目の前に自殺者が飛び降りてきたりと既視感だらけ。冒頭のアッキーナと言い、怖がらせるポイントが3作とも変化が無い。ストーリーも主人公が自分の血統のいわくに気付き、調べているうちに呪われた村に迷い込んで、終盤はそこからの脱出劇。そしてカクカクした変な動きをするラスボスとの対決を経て、いったん大団円を迎えた後で、更に…と全く変化が無い。ひょっとしたら清水監督は、やりたくなかったのに最初の「犬鳴村」が予想外のヒットとなったので、引くに引けなくなって続けているのでは?と思う程脚本にも映像にも工夫が無い。ただ、そんな中にも良い面が無い事はない。

主演のKōki,の演技は悪くない。いやむしろ、初出演にして初主演ということを思えば、双子の両方を演じるという難役にも拘らず、非常に良く演じているといっていい。見る前は最大の問題点と思った部分が一番の収穫になるという予想外の展開。ただ、それぐらいしか本作にはグッドポイントがないのだ。

本当に双子を集めた様だが、その努力を他に使え

 

演技上の最大の問題は、奏音の前半のバディの蓮を演じた萩原利久の、わざとらしいチャラ男ぶりにある。見ているだけでイライラが増すほどうざく、どう見てもキャラ設定のミス。と言って本人の演技力が劣ったわけでなく、監督の演技方針がこんな感じだったのだろう。チャラいけどいいやつにしては、怖くなり途中で奏音を置いて帰るなど、とても“いい奴”に思えない。後半のバディ・将太と対比しようとしたのだろうが、比較対象にするには無理がある。

そもそもの設定に疑問がある上に、本作は「村」にする必然性はない。それに牛首村と坪野鉱泉の関係性も不明。あの穴の上に坪野鉱泉を建てたと考えるのが自然だが、劇中でそのような描写は一切ない。実在の心霊スポットを管理者の許可を取って撮影している以上、そんな描写は出来ないという「大人の事情」が垣間見え、それが映画の最大のモヤっとするところに繋がっていると思う。