タイトル キラー・ナマケモノ

公開年

2024年

監督

マシュー・グッドヒュー

脚本

ブラッドリー・フォウラー

主演

リサ・アンバラバナール

制作国

アメリカ

 

本作は、殺人ナマケモノが大学の女子寮で大暴れするホラーコメディという、どう考えてもトチ狂ったとしか思えない映画だ。

現在B級アニマル・パニック映画と言えばサメ映画と相場は決まっている。あとは人食い鰐を扱ったものがある程度だったが、最近は「コカイン・ベア―」で熊が登場し、「キラー・カブトガニ」ではカブトガニと、やや変則的な動物も登場する様になっている。

あざと可愛さ全開のアルファ。ホラーに新境地を開くか?

 

果たしてそうした流れの中、本作もそうしたビッグウェーブ?に乗り遅れまいとして制作されたのかどうかは不明だが、かなり変則的にアニマル・パニック映画と言っていいだろう。だいたい、鮫は勿論、クマやワニなどは人を襲って当然の動物。カブトガニは見た目のグロテスクさから、ありえない話ではないだろうが、ナマケモノはどう考えても人に害為すイメージはない。よくこんな設定思いついたなと、ある意味感心する。

配給はこの手の映画としては安心・鉄板のアルバトロスとくれば、どんな作品かはだいたい想像できるだろう。

ちなみに原題は「Slotherhouse」。「ゆっくりの家」と訳すればいいのか?ただ本作に登場する怪物は、とても“ゆっくり”ではない。

女の戦いに動物が加わると、ろくなことにはならない

 

映画の冒頭は、パナマのジャングルで木にぶら下がるナマケモノを鰐が捕食するシーン。次のカットでは皮から上がったナマケモノを、密猟者が麻酔銃で眠らせ捕獲する。だが、その背後で川に鰐の死体が浮きあがり、その腹部には3本の爪痕がついていたのだ!ここで重要なのは、本作に登場するナマケモノは軍によって殺人兵器に改造されたものでも、ブードゥー教の呪いをかけられたものでも、異星人の影響で狂暴化したものでも、怖い放射線を浴びたモノでもない、ごく普通の野生のナマケモノという点。後半明らかとなるが、棒でぶん殴られても、銃弾を浴びても、刀で切られてもなかなか死なない不死身の体はどうやって得たのか、またたく明らかにされない。

アルファの造形はなかなかよくできている

 

場面は切り替わって、主人公の大学の女子社交クラブ“シグマ・ラムダ・シータ”に所属するエミリーは、リアルでもSNSのフォロワーもバズることない地味な学園生活を送っていた。彼女の母親は、かつて同じクラブで名会長として名をはせていたので、焦りを感じている。一方親友のマディソンと武闘派のゼニーは“そのままでいい”と慰めてくれるが、量の女王様ブリアナに嫉妬の炎が燃え上がる。そんなある日、エミリーはペット業者のオリヴァーと出会い、「 人気者になりたいならナマケモノを飼わないか」と、悪魔のささやき。調べてみるとナマケモノは自宅で飼っても違法ではないらしい。ただ、相当飼育は難しいようだが。一度は断ったものの、寮母でアル中のミス・メイフラワーに母の事を聞き、会長選挙の人気取りのため、ナマケモノを手に入れようと、オリヴァーの家へ。しかし前夜、オリヴァーは狂暴なナマケモノに殺されていたのだが、そうとは知らぬエミリーは、ナマケモノを勝手に連れ出す。正直このヒロインは、強すぎる承認欲求と言いあまり好きになれない。もっとも彼女が常識人なら、映画は始まらないが。

キュートなアルファにみんなメロメロ。殺されるとも知らず

 

エミリーの作戦は当たり、寮生たちはたちまちナマケモノに夢中となって “アルファ”と名付けられ寮のマスコットとなる。その勢いでエミリーは会長選挙に立候補。女王様のブリアナとバチバチやり合うことに。危機感を抱いた彼女は、取り巻きの1人サラに命じてアルファを寮から追い出そうとするが、自力で寮に舞い戻ったアルファは、サラを血祭りに上げる。そこからアルファにより寮生は次々と倒されていくが、どういう訳か、会長選挙に気を取られて誰も気にする様子もない。変わっていくエミリーにマディソンは警告し、それに折れたエミリーはアルファを保護施設に入れる決心をする。それを聞いたアルファの魔の手は。マディソンにも伸びようとしていた。

何やら宗教儀式めいた会長選挙

 

見る前は可愛い見かけに騙されて近づいたところを、鋭利な爪でグサリ系かと思っていたら、このナマケモノは意外と頭脳派。スマホを盗んで道路にポイして取りに行ったマディソンを車に轢かせたり、シャワー室にいる女学生を感電させて一網打尽にしたり、女子大生たちの方が明らかに知能が劣る様子。昨今のフェミニストたちにぜひとも感想を聞いてみたいところだが、ヒロインの彼氏もあまり頼りにはならない点では50歩100歩。とはいえ、さすがに車の運転をするのはやりすぎでドン引きした。

映画を見た感じは案の定というか、終始ゆるーい笑いに包まれた感じ。そして要所要所に、ホラー映画ばかりでなく様々な映画の小ネタが含まれて笑いを誘う。見ているこっちとしては、まさか終盤で「スターウォーズ」ネタや「E.T.」ネタが入って来るとは思わず、劇場で声を出して笑ってしまった。ただ、主人公がSNSにとらわれ過ぎて、承認欲求モンスターになってしまい、それにより自分を見失ってしまうところや、ライバルも学園カーストのトップに君臨する事が当然とみなして、歯向かうものには容赦しない(さすがに人には手を出さないが)ところなど、社会問題にも辛辣に切り込んでいるところなど、単なるおバカ系ホラーコメディと切り捨てられないところもある。

ただ万人受けするかと言えば、そんな事はなくかなり観客を選ぶことになるだろう。まあ、「キラー・ナマケモノ」というタイトルと、アルバトロスの配給ということを承知で見に来る人に刺さることは間違いない。