タイトル 名探偵コナン 100万ドルの五稜星

公開年

2024年

監督

永岡智佳

脚本

大倉崇裕

声優

高山みなみ

制作国

日本

 

新型コロナの感染時期を除き、毎年公開されている「劇場版・名探偵コナン」も、既に27作目を数える大ヒットシリーズとなった。本作は、「令和の魔術師」の異名を持つ怪盗キッドや、キッドとは「キッドVS高明 狙われた唇」以来因縁のある「西の高校生探偵」こと服部平次が登場し、北海道・函館を舞台に、謎に包まれた星稜刀をめぐるミステリーが展開する。

今回は平次ばかりかキッドも熱くなる展開で、ちょっと影が薄かったか?

 

今回のメインは「から紅の恋歌」以来7年ぶりとなる服部平次&遠山和葉、そして「紺青の拳」以来5年ぶりとなる怪盗キッドの二組にスポットを当てる。なお、キッドと平次が劇場版に同時に登場するのは「天空の難破船」以来14年ぶりとなる。もっともこれまで平次はキッドと直接かかわることは少なかったが、「キッドVS高明 狙われた唇」でキッドが変装しているとは知らずにキスを迫ったことで、恥をかかされたという遺恨(自業自得だが)以来となり、その伏線は本作でしっかりと回収されている。

なお、劇場版につきもののゲスト素人声優だが、本作は大泉洋ぐらいでなかなかの好演。その為余り違和感がなかった。大泉洋が演じた川添刑事はかなり重要や役で、正体がつかめないところを大泉洋は上手く演じていた。

「許さん!」「いや、お前の早とちりだろう!」「それでも許さん!」的な?

 

北海道・函館にある斧江斧江財閥現当主斧江拓三の元に、怪盗キッドからの予告状が届いた。ここでの攻防戦から本作は始まる。今回キッドが狙うのは、幕末を生きた新選組副長・土方歳三にまつわる日本刀だという。ビッグジュエルを追い求めるキッドが、なぜ刀を狙うのか?まんまと中森警部らを出し抜いて成功したかと思われたが、その前に「奪われた唇」での雪辱に燃える平次が出現。二人は真剣勝負に及び、その際キッドのモノクルは取れ素顔を見てしまう。ファンなら知っての通り、キッドの素顔は新一と瓜二つ。動揺した隙に逃げられてしまう。

時を同じくして、胸に十文字の切り傷がつけられた遺体が函館倉庫街で見つかる。コナン達と旧知の西村警部から、アジア一帯で武器商人として活動する日系アメリカ人のブライアン・D・カドクラが怪しいと伝えられる。彼は斧江家初代当主斧江圭三郎が函館のどこかに隠したとされるお宝を探していた。それは、太平洋戦争時に敗色濃厚だった戦況を一変させるほどの強力な兵器だといわれている。そして、そのお宝とキッドが狙う刀はどうやら関係があるようだ。カドクラからまんまと刀をせしめたキッドの前に、謎の凄腕の剣士が現れる。平次とコナンの助力で何とか難を逃れたキッドは、自分とお宝の因縁を語る。キッドにカドクラ。そして斧江拓三に謎の剣士。更にキッドとお宝をめぐる戦いが北海道を舞台に繰り広げられることになる。

本作は快斗と盗一の親子の物語でもある

 

本作では、原作でもまだ明らかとなっていない重大な謎の一つ明らかとなっている。これは今後の原作の展開を想えば、かなりリスキーな事だがあえて加えたところを見ると、既に原作に入れる事は確定しているのだろう。

本作の脚本は、ミステリー作家の大倉崇裕が担当している事もあって、アクションに傾きがちな最近の劇場版の中ではかなりミステリーに力を入れている。冒頭の殺人事件の犯人などは、いつもはおざなりになりがちだが、本作ではその動機も含めてしっかりと描写されている。そして本筋のお宝さがしも、一つ一つの謎が丁寧に描写されているから、謎が明らかになった時のカタルシスは半端ない。

本作では和葉の良いところが全部詰まっていた

 

そして本作の重大なテーマは親子の関係。これは犯人側と同時にコキッドと盗一、中森警部と青子などと対比されている。他にも優作と新一、そして一瞬だが園子と両親も映されている事からも明らか。そして悪役側の親の思いを一方的に子に押し付けている歪んだ親子関係と対比して、コナンサイドは子供達もちゃんと自分の思いを持っている健全さが際立っている。そして犯人達がそうまでして求めたお宝が、現代では何の意味のない代物だという事にして、歪んだ親子関係を構築するまで、生涯をかけた者のむなしさを表現している。

そのお宝だが、たぶん「エニグマ」を解読した英国の「ウルトラ」がモデルと思われる。「たかだか暗号解読ぐらいで戦局を変えられるのか?」と思われるかもしれないが、英国では「エニグマ」の暗号を徹底的に解読することで、ドイツ軍の行動が手に取るようにわかる様になり、作戦立案に大いに役立った。勿論、現代ではコンピュータを用いたデジタルな暗号に切り替わっているので、当の昔に陳腐化している技術。

閑話休題…

不満点を言えば、時々だれか分からなくなる程作画がかなり不安定。目についたところで、最初の方の和葉の作画はかなり変なところがある。最近ではこんなことはなかったので、恐らく作画上のトラブルがあったか、やり直すほどの変更があったと思われるが真相は不明だ。ただ、ラストのあのシーンの時の和葉は超絶可愛い。ひょっとしたら、あそこは青山先生の原画かもしれない。それに、女の子のちょっとしたしぐさなどは、可愛さが良くでていて、ラブコメ要素やキャラクターの掘り下げは良かったけど、肝心のミステリーの描写はちょっとおざなりに感じる。この辺は、女性監督ということも大きいと思う。永岡智佳監督は「紺青の拳」や助監督を務めた「から紅の恋歌」等のラブコメ色が強い作品は得意だが、「緋色の弾丸」のような、ハードな作品はあまり得意ではないようなので、その長所と欠点が同時に出たように思える。

今回は、ひたすら和葉のプッシュに徹し、優しさ全開

 

実際に、終盤はもう少し派手にしても良かったように思ったが、今回はほぼ実在の施設ばかりなので、まさか函館山の展望台をぶっ壊すわけにもいかないので、仕方ない面もあったと思われる。それにこれも含まれると思うが、紅葉達が意味もなく札幌、小樽、稚内など北海道の名所旧跡をめぐらせているが、これはタイアップなどの大人の事情が絡んでいそうだ。

完璧に変装するが、方言は苦手なキッド。もっとも、コナンも大阪弁は駄目だったが

 

コナンはキャラクター映画なので、それぞれにキャラが魅力的なら万事OKなところもあるが、本作でもそれぞれのキャラの活躍を描くのは大変だったと思うが、かなりうまく処理していたと思う。前作ヒロインの哀ちゃんの出番が少ないのは残念だが、博士と少年探偵団ともどもは短い出番でちゃんと活躍していた。今回はないかと思っていたダジャレもちゃんとあったし(いや、別になくてもいいんだが)。また蘭が今回はラブコメで活躍したのも良かった。もっともラストでは、武闘派の本領を発揮して、恋路の邪魔者を眠らせていたが、あそこで劇場は笑いに包まれていた。ラブと言えば、日頃冷静でどこか人をおちょくるような態度をとるキッドが、中森警部の危機に我を忘れて行動し、その後駆けつけた青子の傍にこっそり寄り添っている姿が印象的だった。キッドも、なんだかんだ言っても年相応の高校生。好きな女の子の父親の危機を見て、我を忘れる姿がちょっとだけ微笑ましく思った。

北海道の観光案内役を務めた紅葉

 

そして「まじっく快斗」と並ぶ、青山先生の代表作「YAIBA」から沖田総司と鬼丸猛の登場。沖田は、以前原作に登場しているが劇場版は初。そして、鬼丸の登場シーンではテンション爆上げ。この二人、いらないっちゃいらないし、そもそもテレビアニメしか見ていない人にとっては、「どなた様ですか?」状態なのだが、「まじっく快斗」のヒロイン、青子の登場など本作はかなりヘビーなファンを対象にしていて、一見さんにはちょっと入り込みにくいかもしれない。ちなみに大岡紅葉が失恋する事は確定している訳だが、だからと言って「振られて万歳」と思える程、紅葉は悪い子ではないからファンの間では「鬼丸と引っ付くのでは?」という考察もある様だ。鬼丸はその伏線としての登場なのかもしれない。それなら美男美女カップルで沖田と引っ付けばと思うかもしれないが、沖田には好きな子は他にいて、コナンにも写真だけだが登場している。ちなみに見た目は灰原哀そっくりだ。というより、彼女の元ネタなんだが。

沖田が好きな鉄諸刃。コナンに登場するときは、誰が声優を務めるのか?

 

本作を見た直後は、前作より一段落ちると感じたが、それは前作が神過ぎたわけで、本作も非常に面白い事に変わりない。特に、今度のシリーズに重大な影響を与えそうな秘密が明らかとなり、原作の105巻のキッドの登場回に影響を与えそうだ。あの中で新一とキッドの顔が似ている事が話題となり「先祖が同じじゃないのか」等と、ふざけたセリフがあったが、あのエピソードがアニメ化された時はふざけて見る事が出来なくなる。

ミステリーを軸に随所にアクションを盛り込み、更に平次と和葉のラブコメを随所に織り込みながら、北海道の観光案内を2時間の枠の中に収めているのは見事。このクオリティを27作も続けているのはには頭が下がる。コナン映画はやっぱり面白い!