タイトル 巨人ゴーレム(1920年版)

公開年

1920年

監督

パウル・ヴェゲナー

脚本

パウル・ヴェゲナー   ヘンリック・ガレーン

主演

アルベルト・シュタインリュック

制作国

ドイツ

 

本作は、ドイツ表現主義の初期の作品で、タイトルの怪物ゴーレムを演じたパウル・ヴェゲナーが監督も務めた。なお、共同監督はカール・ベーゼ。なおヒロインは、後にヴェゲナーと結婚するリディア・サルモノワ。もっともすぐに別れてしまうが。

ヴェゲナーはゴーレムを気に入っていたらしく、1915年と1917年にそれぞれ映画化し、ゴーレムも自分自身が演じている。従って本作は3度目となるが、後世の映画に多大な影響を与えたとされている。今回見直してみて後世の映画に与えたことは十分に分かったが、その一方で翌年の「吸血鬼ノスフェラトゥ」等に比べると、本作自体に評価があまり芳しくない理由もなんとなくだが分かった気がする。

CGのない時代だけに、本当にこれだけの人間が集められた

 

プラハのユダヤ人ゲットーに住む、高名なラビ・レーフは占星術で「ユダヤに危機が迫っている」と予言。人々は一心不乱に祈りを捧げ、災難を逃れようとする。その頃、皇帝ルホイスは騎士フロリアンに「ユダヤ人たちよ。プラハから出ていけ」という命令書をユダヤのリーダーであるレーフに渡すように命じられる。

映画では皇帝ルホイスとなっているが、伝説では神聖ローマ帝国皇帝のルドルフ2世とされている。政治には全く関心を示さず、即位してすぐにプラハに籠って科学文化芸術の研究にいそしむ。ジュゼッペ・アルチンボルドによる肖像画。「ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像」で有名だ。ともかくこの頃皇帝はプラハにいたのは事実。

ジュゼッペ・アルチンボルドによる「ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像」。趣味が良いやら悪いやら

 

何とか撤回してもらうように皇帝に手紙を託し、「何らかの魔術を披露して楽しませてくれれば許す」との言質を得る。これを受けてレーフは魔術を使い、土人形に命を吹き込むに成功。これをゴーレムと名付けた。その間、レーフの娘ミリアムは騎士フロリアンと恋仲になり隠れて乳繰り合うようになる。しかし、ミリアムに恋慕するレーフの助手には面白くない。

その後、ゴーレムを伴い皇帝に拝謁したレーフは、皇帝から「なんかやって」というのでユダヤの歴史を記した映画を上映。もちろん魔術だから映写機があるわけではない。ただ、「絶対にしゃべらないように」と言っていたのに皇帝たちは大爆笑。初めて見るのだから、分からない事はない。すると城が揺れ始めた。皇帝から「助けてくれたらユダヤ人追放はしない」との言質を得て、ゴーレムで崩れる城を支えたのだった。要は皇帝を脅して、命令を撤回させたわけだ。

その頃レーフの留守中にミリアムとフロリアンは絶賛デート中。そこにレーフが戻り「ユダヤ追放は取り消されたのだ」と伝えたから、ゲットー内はお祭り騒ぎに。みんな出ているからフロリアンは帰るに帰れない。そこで二人で密かに隠れていたのだが、それに嫉妬した助手がゴーレムを動かしてフロリアンを塔から投げ落とす。しかしその後ゴーレムは暴走し、家に放火。町を恐怖に叩きこむのだった。というのが大まかな粗筋。

上記の通り本作が後世の、特にホラー映画に与えた影響は絶大なものがある。終盤は「フランケンシュタイン」に丸ごとパクられていると言って良い。また、清らかな乙女に手を出さない辺りも「大魔神」が影響を受けている。しかし物語の展開ははっきり言って平凡である。

上映時間は100分とかなり長めだが、普通に撮ればもっと短くできたはずだ。

主な登場人物は、ゴーレムの創造主であるラビ・レーフとその娘ミリアムに、レーフの助手。そしてミリアムと恋に落ちるキリスト教徒の騎士フロリアンと、ゴーレムを除くと4人しかいない。ゴーレムの伝説は単純なため、それだけでは尺が持たないのでミリアムを中心としたフロリアンと助手の三角関係を付け加えたのだろうが、すべての元凶を作ったレーフの助手(どういう訳か重要人物なのに名前が設定されていない)が何ら罰を受けることなくのうのうと生き残るなど、脚本の不備ともとれる部分もある。サイレントだから出演者の演技は大げさで無駄な身振り手振りが多く、それが余計な尺を取っている。また表情も過剰すぎる。特にゴーレムは感情のない土人形のはずなのに、かなり表情豊かで、終盤の少女と対するところは明らかに和んでいる。そうした点を差し引いても、余り出来がいい映画とは言えないだろう。

ゴーレムは〇リ〇ンだった?

 

 

 

その一方で大掛かりなセットや群衆シーンなどの迫力は見事。またサイレントにしては、割りてテンポがいい事もgoodポイント。あまり過剰な期待をせずに「『フランケンシュタイン』や『大魔神』の元ネタを見て見よう」ぐらいの気持ちで見るのがいいと思う。