タイトル 江戸川乱歩の美女シリーズ 初期4作

話数

放送日

タイトル

原作

主演

脚本

監督

1

1977年8月20日

氷柱の美女

吸血鬼

三ツ矢歌子

宮川一郎

井上梅次

2

1978年1月7日

浴室の美女

魔術師

夏樹陽子

宮川一郎

井上梅次

3

1978年4月8日

死刑台の美女

悪魔の紋章

松原智恵子

宮川一郎
井上梅次

井上梅次

4

1978年7月8日

白い人魚の美女

緑衣の鬼

夏純子

宮川一郎

井上梅次

 

本作は、名探偵明智小五郎を主人公に、毎回美女との絡みを軸に描いた官能・推理ドラマ。それまでテレビドラマだと、明智小五郎が登場する作品は、少年探偵団の活躍を描いた子供向き作品が多かったが、本作では思いきりアダルトな雰囲気で大人向きに描いたもの。かなり冒険だったと思うが、大成功を収めた。

原作の大半は、大正から昭和初期を舞台にしたものが多いが、ドラマ化にあたり製作当時の時代が舞台となっている。

当然だが、原作でも人気のあるものから映像化されるので、後半になると短編を膨らませ、ほぼオリジナルストーリーとなっているものまであるが、初期はある程度原作の流れに沿っているものが多い。今回はその最初期の4作を中心に描いてみたい。

このシリーズはだいたいパターン化されていて、事件が起きる前に明智がゲスト女優と会うシーンから始まり、そこで明智によるゲスト女優の美貌についての描写がモノローグで語られる。この辺りは当時“マダムキラー”と呼ばれた天知茂らしい演出。その後中盤のカーチェイスを経て、女優のヌードが出てくる。そしてラストは、別人に成りすました明智が変装をとくと、ビシッとしたスーツ姿で現れるというもの。ここがクライマックスとなるが、これは、監督の井上によるアドリブだった。第1作の脚本だと明智がそのまま現れ謎解きをするはずだったが、それだけだと外連味に欠けると判断しその場で変装させたら好評だったので、その後パターン化することになる。もっとも、後にこのシーンはお約束として定着して、全身タイツの下にスーツ姿が現れるというギャグとした思えない事もあったりする。

お約束の変装をといてさっそうと登場!

 

また、女優のヌードが目玉の一つとなっているが、元々江戸川乱歩の原作は、エログロ描写が色濃く出ているものが多いので違和感があるものではない。とはいえ、ゲスト女優のヌードはほぼ吹替。カメラワークでそれっぽく見せかけているが、さすがに誤魔化しきれないと思ったのか、第3作目以降は、毎回お色気担当の女優が用意されることになる。ただ、ゲスト女優たちの中には映画や写真集ではすでにヌードを披露している人も多かったが、この頃は映画や有名写真家による写真集では脱いでも、テレビドラマで脱ぐのは躊躇われた様だ。

初期の4作は原作でも人気の高いものを使っているだけに、ドラマとしても完成度が高い。

ヌードの女性と幼い少年が...。これが許されたことに驚愕!

 

「氷柱の美女」

シリーズ第1作でほぼその後の流れが完成している。本作の独自要素として、明智の相棒が稲垣昭三が演じる恒川警部補だという点。そして明智の助手として大和田獏が演じる小林少年(当時20代後半でとても少年と呼べないが)が出ている点がある。その後小林は第6話から再登場するが、柏原貴に変更されていた。

本作のお笑いポイント。さすが西村晃!

 

「浴室の美女」

原作の「魔術師」は文代と明智の出会いを描いた記念碑的作品だが、前作ですでに助手として登場しているので、文代に相当するのは高橋洋子が演じる綾子に変更されている。原作だと、文代は後に明智と結婚するが、本シリーズではスルー。しかし、文代が明智に思いを寄せていて、その事を浪越警部らに揶揄われる描写もあるし、明智も憎からず思っている様子もある。本作から、荒井注が演じる浪越警部が登場。コメディリリーフの引き立て役なのは、前作の常川警部補と変わらないが、明智とは堅い友情で結ばれていて、明智の依頼の調査を手早くやったりと、何かと頼りになる存在。より相棒らしくなっている。本作でも明智は自分の生存を浪越だけに打ち明けていた。本作で、その後のシリーズが形作られたといえる。

珍しい五十嵐めぐみのサービスシーン

 

「死刑台の美女」

原作だと明智の登場は後半になってだが、本作ではがっつり冒頭に登場。ただ、友人の犯罪学者・宗像教授の依頼で香港に行っていて本格的な登場は中盤以降。そこから明智と宗像の対決となるが、視聴者は宗像が怪しいとはかなり早い時点で気が付くはず。それに、親の代の復讐というのは前作と同じなので、そこは少し変えるべきだったと思う。本作ヒロインの松原智恵子が脱ぐとはだれも思っていないので、本作からお色気担当が配置されるようになる。その代わりなのか、五十嵐めぐみはヌードこそないが、下着が露となるサービスシーンがある。

「白い人魚の美女」

原作には明智が登場しないが、大人の事情で登場する。原作は前半と後半で探偵役が交代することになり、後半登場した探偵に犯人ではとの疑惑が沸き上がるという二重構造になっているが、本作では終始明智が推理する。そのせいか、前半の明智がやや精彩を欠いている様に見えるのはご愛敬。

五十嵐めぐみとかたせ梨乃という、豪華なツーショット

 

本作の成功は主演の天知茂にあることは間違いない。その頃他の銀幕のスター達同様、斜陽を迎えた映画界からテレビに比重を移し、「非情のライセンス」でクールでニヒル。そしてストイックさで成功をおさめ、その後本シリーズと出会い人気を不動のものとする。特にそれまで、子供のヒーローという立ち位置だった明智を大人向きの作品でも活躍しうる事を証明したのは大きい。終盤まで一定のクオリティを維持したが、特に初期の作品は評価が高い。また19話まで明智の美人助手を演じた五十嵐めぐみのボーイッシュで中性的なイメージが、クールな天知と親和性が高かった事も良かったといえるだろう。

基本引き立て役だが、時折有能さを垣間見せるのが高ポイント

 

本シリーズは天知が没するまで続き、その後は北大路欣也。そして西郷輝彦が後を継いだ。いずれも天知に劣らぬ人気スターで視聴率もそれなりにとれていたが、結局根付かず終了することになった。コンプライアンスの変化で、テレビでのサービスシーンを出しにくくなったのもあるが、視聴者が望んでいたのは天知茂の明智小五郎であって、それ以外のものではなかったという事が大きいと思う。