タイトル 悪魔がはらわたでいけにえで私

公開年

2024年

監督

宇賀那健一

脚本

宇賀那健一

主演

野村啓介

制作国

日本

 

本作は、独自の世界観でジャンルにとらわれない作品づくりをしている宇賀那健一監督が、海外の映画祭で注目を集めた自身の短編映画「往訪」に新たな登場人物と展開を加えて長編映画として完成させたバイオレンスホラーコメディ。

短編を長編化したホラー映画と言えば、最近見ただけでも「みなに幸あれ」や「サウンド・オブ・サイレンス」等があるが、いずれも長編化に失敗している感がある。

ロイド・カウフマンがカメオ出演している事は知っていたから、Z級映画だと想像は付いていた。だいたいあのタイトルであのポスタービジュアルだから、Z級映画以内のモノであるはずがない。だからZ級対応モードに切り替えて見たので、期待外れということはなかったが、見終わった音で何とももやもやした以後琴を悪さを感じた。

わたしならこの時点で回れ右をする

 

60分程度しか尺が無いのに、何故か3部作構成となっている。

第1部は、しばらく連絡がつかないバンドメンバーのソウタを心配して家を訪れるハルカ、ナナ、タカノリの3人。しかし、ソウタの家は窓という窓が新聞紙で塞がれているところから始まる本作。異様な雰囲気にしり込みしつつも、とにかく呼び鈴を鳴らすと感情のない様子ながらもソウタが出てきて一同を家に招き入れる。室内も、外に負け時劣らずのゴミ屋敷っぷりにドン引きする一同だが、肝心のソウタは「お茶を出すね」と言って奥に行くなど異変を感じさせない様子。床の緑色のゲロのようなものを踏んだナナは、奥に進み壁に貼ってあったお札のようなものを剥がす。完全なフラグ行為なだけに、私がこの場にいたらぶんなぐってでも止めさせる。

ハルカとタカノリは奥から重々しい音が断続的に続くのを不審に思って見に行くと、そこには壁に自分の頭を何度もぶつけるナナがいた。二人に気が付いたナナは、奇声と共にタカノリに襲い掛かり、ハルカが人間なら当然死んでいるはずの打撃をしてももびくともしない。そうした阿鼻叫喚の地獄絵図の中でも、ソウタはまるで目に入らない様子で淡々とお茶の用意をする。この時、タカノリの口からゴキブリの大群が出てくる。見たときはCGと思いそのリアルさに感心したが、これはアルゼンチンモリゴキブリ。そして、ゴキブリ操者という謎の人が撮影協力しているようだ。世界は広いと実感させられる。ソウタにチェンソーを借りて二人を倒したハルカは、血まみれになりながらお茶を飲んでその場を後にする。

第2部はそれから3か月後。とある地下のバーのようなところに、音楽プロデューサーのコウスケが所謂亀甲縛り状態で横たわっている。近くには見知らぬ男レンが横たわっていて、コウスケは必死に呼びかける。連の後ろにはナイフがあったのでそれを伝え、戒めを切るとようやく起き上がるレン。しかし、彼は顔の左半分は皮が剥けている状態だった。どう考えても生身の人間とは思えない。レンからナイフをもらい縄を切ることに成功するが、この時の二人の会話が実にシュール。最初は理性的だったレンだが、大量に緑色のゲロを吐いた後に豹変。悪魔の形相となりコウスケに襲い掛かってくる。それを救ったのは、両手にチェンソーを仕込んだハルカだった。

このシーンで笑える人は、本作を楽しめると思う

 

第3部になると、世界は悪魔に憑依された化け物で溢れかえっている状態の様だ。そんな中、コウスケは助けてくれたハルカを探して旅をして、田舎の畑でハルカを見つけるが、彼女は化け物になっていた。彼女に連れられソウタの家に行くと、そこには第1部で倒したはずのナナとタカノリが化け物になって、何故か人間のままのソウタと普通に暮らしている。この時の5人の生活がシュール、かつ何故かハートフル。コウスケが持ってきたラジカセの音楽を聴きながら踊るなど、奇妙な温かさに満ちている。そんな時、ラジオから人類の反撃が始まったことを伝えるニュースが流れる。というもの。どうやらこの世界はまだ化け物に一部しか支配されていないようだが、そうした考察は本作に関してはやるだけ無駄だ。なんせその後本作は、急にSFへと変貌するのだから。

テーマは「音楽は世界を救う」???

 

最初の書いたとおり、本作ではトロマ・エンターテインメントの創業者、ロイド・カウフマンがカメオ出演している。この事からもトロマの様なZ級のエログロ映画を目指している事は明らかで、実際に見るとそのようになっている。第1部のグダグダのスプラッター惨劇に、第2部で亀甲縛りで縛られている点等、この悪乗りはまさにトロマそのもの。

ただ第3部になって、急にハートウォーミングな作風に変化。化け物と人間が仲良く?共存するという微妙な均衡がとれた世界となる。そして、作風はゆるーい温かさに満ち、スプラッター要素は急激になくなる。この均衡が崩れるのは、化け物狩りのハンター出現が原因。この辺りが妙な説教臭さを感じてしまう。ここで、宇賀那監督をはじめこの映画のスタッフは、トロマの様なZ級映画を目指したはずが、そこまで馬鹿になり切れないもどかしさを感じた。もっと振り切れば面白かったのに。ちなみに本作にはグロ要素はてんこ盛りだが、エロ要素は皆無。この辺も、本作に何とも言えない居心地の悪さを感じた点だ。