タイトル ウルフガイ 燃えろ狼男

公開年

1975年

監督

山口和彦

脚本

神波史男

主演

千葉真一

制作国

日本

 

本作は、平井和正の代表作、「ウルフガイ・シリーズ」から、「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」の「狼は泣かず」より「虎よ!虎よ!」を映画化したSFアクション映画。原作は、狼族の末裔である犬神明を主人公にした大長編シリーズだが、後半に入ると中学生だった犬神明が、成人男性になりかつ作風も一変する。それは平井が宗教法人GLAにはまり、その影響を受けたためとされている。後にGLAと距離を置き始めたが、その作品には思想が色濃く反映されることとなった。

ちなみに原作タイトルの「虎よ!虎よ!」はアメリカのSF作家、アルフレッド・ベスターによる同名の代表作からとっている。

原作は読んだことが無かったが、知識として主人公・犬神明は狼族の血を引き満月になると人狼に変身し、驚異的な能力を持つようになることは知っていた。そこで、映画のクライマックスでは主人公が特殊メイクで変身すると思っていたので、すっかり面食らうことになる。主演が千葉真一だから、当然なのかもしれないが。

映画の冒頭は、逃げる白スーツの男がフリーのルポライターとして活躍する犬神明の目の前で、ずたずたに引き裂かれて死ぬシーンから始まる。この白スーツ男を演じているのが若き日の安岡力也だから、堅気でない事は明らか。

この事件に興味を抱いた明は、彼はグループサウンズのモブスのメンバーだった事と、かつて人気歌手だったが、今では場末のキャバレーでその日暮しをしている歌手・緒方ミキが、事件に関係している事をつきとめた。

彼女は政界の大物、福中の息子・純一との結婚する予定だったが、結婚に反対する福中の手でミキが以前所属していた芸能プロダクションの社長の真鍋が、グループサウンズのモブスの連中にミキを強姦させたのだった。その際彼女は梅毒を移されヤク中になるほど転落していた。余談だが、梅毒は抗生物質で完治するから、彼女が放置していたのかは謎。

ストリップ劇場でこんな辛気臭い歌を聞かされたら、罵声の一つぐらい浴びせたくなる

 

その後、明は真鍋の手の者に襲われるが、ケティー青木という女が救った。実意は彼女はJCIA内閣情報部員。彼の超能力を利用するために近づいたのだった。このJCIAは当時韓国にあった情報機関KCIAがモデルだろう。勿論CIAの韓国版だが、CIAは本国内での活動が禁止されているが、KCIAはお構いなしで、当時のパク政権に敵対する活動家を取り締まっていた。

JCIAの主任・加藤は明に協力を求めるが断られ、彼を生体解剖した上に、生き血を取り部下に輸血することで人造人狼を作り上げる。このシーンはもろにショッカーの改造手術そのもの。

しかし月齢15日、満月の日、彼の体は超能力を発揮して復元し組織を脱出。その際手助けしたケティーが殺されてしまう。一方、JCIAにより人殺しの道具と化していたミキは自分を凌辱した者たちを次々と殺していた。その事を知った明は、故郷の村に逃れようとするが、そこにも加藤の魔の手が伸びていた。というのが大まかな粗筋。

ヒロイン3名中二人にサービスシーンがあるのはgood

 

原作未読なのでどの程度反映されているのか分からないが、横溝正史が江戸川乱歩から「本陣殺人事件」が映画化される時、「およそ活動屋に何を言っても、まず自分の意見は通らないものと思え」と言われたようなので、本作も登場人物と設定だけ借りたような映画なのだろう。だから「これは『ウルフガイ』ではない」等と、大上段に振りかぶるつもりはなく、1本の映画としてどうなのかが重要だが、これがまたかなり微妙な作品になっている。

主人公の犬神明を演じる千葉真一だが、狼男に変身しない事とちりちりパーマなのは置いておくとしても、精彩に欠ける印象だ。見どころのアクションシーンも引きの画像が多く、スタントマンを使っているのではないかと思う程迫力がない。中盤の見せ場の人造狼男との戦いもあっさり終わるし、撮影時に何か事故でもあったのだろうかと勘繰ってしまう程、かつて狼族を皆殺しにした猟師たちや、終盤のJCIAの特殊部隊との戦いも、体を這ったアクションではなく銃撃で片づけている。

秘密情報機関なのに看板を掲げるのは親切だ

 

それにヒロインが、これと言ってヒロインらしい扱いを受けていないのも問題で、輪姦された上に梅毒を移されヤク中という、この世の不幸をすべて背負わされているような女だが、余りにも救いが無さすぎる。また演じている奈美悦子は演技力はあるが、この手のアクション映画のヒロインとしては華やかさに欠ける。むしろ中盤に登場した田口久美の方が彫の深いハーフ顔で、脱ぎっぷりも良くヒロインらしい。犬神明を助ける為、組織を裏切るなど見せ場もあるが、そこで殺されてしまうのは脚本のミスとしか思えない。後半に登場する渡辺やよいの見せ場を描くためなのかもしれないが、あのまま二人で逃避行を続けた方が映画としては締まったはずだ。

他に日本の情報機関のボスを室田日出男が演じているが、黒幕的なすごみが感じられないのも欠点。

千葉ちゃんのアクションを多めにし、最初からヒロインを田口久美にして、奈美悦子はヴィランの立ち位置にしたうえで、黒幕を佐藤慶にしていればそれなりに面白くなっていたはずで、何とも残念な映画だった。