タイトル FLY! フライ!

公開年

2024年

監督

バンジャマン・レネール

脚本

マイク・ホワイト

声優

クメイル・ナンジアニ

制作国

アメリカ

 

本作は、「ミニオンズ」「スーパーマリオ」等で知られるイルミネーション・スタジオによるオリジナルの長編アニメーション映画だ。渡り鳥なのに小さな池から一度も出たことがないカモの一家が、初めての大移動に乗り出す姿を描いている。

昨年から予告編が流れていたが、実を言うといまいち興味が持てずスルーしようかと思っていたが、昨年のストライキのせいかこれと言ってみたい映画が見つからなかったので、見に行くことにしたのだが、これが良い意味で期待を裏切ってくれた。

映画の冒頭で、マックが二人の子供、ダックスとグゥエンに冒険する事に危険を諭す昔話をするが、それと妻のパムが遮ろうとする。ここで、主要キャラの性格が浮かび上がる様になっているのはお見事。舞台は、アメリカ北東部、ニューイングランドの小さな池。池から離れると危険を想っているマックの影響で、一家は一度も池から離れた事が無い。そんなある日渡り鴨の一家が池に立ち寄り、その娘のキムにダックスは一目ぼれ。何とか一緒について行こうとするが、マックは相手にしない。しかし、池を離れた事が無いダンおじさんに自分の未来を見たマックは、池を離れて南のジャマイカに向かう決心をする。

途中で様々なアクシデントに見舞われながらも一家はとある農場に降り立つ。そこは、アヒルたちが伸び伸びと暮らす“楽園”。やや疑問に思いつくもそこで羽を休めるマックたち。しかしこの“楽園”には恐るべき裏があった。というのが大まかな粗筋。

鳥って、時々こんなおかしな表情をするな~!

 

前述の通り、最初は興味が持てなかったのだが、それはファミリー向けのゆるーい冒険アニメと思っていたからで、適当にハラハラさせてみんなで目的地について大団円!という映画だと思っていたが、見て見るとかなり突っ込んだ描写が見られる。

最初の危機は、サギのエリンの小屋に招かれるところで、ここはガチでホラー。逃げようとしたら、その前にエリンが立ちはだかっていたり、まるでテキサスチェーンソーが潜む小屋に閉じ込められたかのように緊張感が半端ない。一応親切なサギのおばさんということで落ち着くのだが、あの魚が手に入らなかったらどうなっていたのか?と、やや含みを持たせた描写になっているのが面白かった。ちなみにエリンの声は、レジェンド声優の野沢雅子が当てている。

鳥にとってはヴィランでラスボスだが、人から見ると単なる料理人

 

次の危機は大都会そのもの。都心を歩いていると、よく鳩などがビルの谷間を滑空している姿を目にするが、見ているとのびのびと飛んでいる様に見えて実は命懸けだと気付かされる。事実、窓にぶつかって鳩や烏が死ぬことは結構ある。ただ、本作で鴨たちが空を飛ぶシーンは本当にダイナミックで美しく描かれていて、見どころとなっている。

そして、ここで本作のヴィランのシェフが登場する。こいつは一言も台詞を話さないし、逃げても逃げても執拗に追いかけてくるところなど、ホラー映画のスラッシャー・ヒーローそのもの。そしてこのシーンでちらっと映ったヘリが、クライマックスの伏線となっているところは心憎い。

これをを見て以来、フォアグラが食べられなくなった。食べる機会も少ないが

 

そして本作最大の恐怖はこの後の“楽園”のシーン。あえて“楽園”と書くが、他に表現しようがない。一見ユートピアに思えるが、まるで「ミッド・サマー」や「ウィッカーマン」のように最初から不穏な空気が漂い、「これは絶対何かある」と思わされ、それはアヒルが餌を飲み込むように食べているところで半ば真相は明らかとなる。そして逃げた後にも本当のラスボス戦が待っている。ここで本作のテーマである、「家族の絆」と「挑戦する意気込み」が試されることになる。

こうして見ると本作には、最近よくあるがヴィランは人間で、同じ動物に害されることはない。本作で人間は一言も台詞を話さないだけに、不気味さが出ているが、あのシェフにしても“楽園”の農夫にしても、別にマックたちを害しようとやっている訳でなく、彼らは自分が生活ために仕事としてやっているに過ぎない(フォアグラの作り方は嫌いだが)。自覚なきヴィランなのだが、それ故ヘイトをためやすくなっている。これもうまく作った設定だと思う。

本作を見ると、キャラもそれぞれ立っているし、家族みんなにそれぞれ役割が割り振られている。娘のグゥエンだけ特にいなくても話は成立するが、マスコットとしての存在感は圧倒的なので、いなかったらかなり味気なくなる。こうしたアニメにとってはキャラクターの魅力が第一で、これさえちゃんと作れば物語は自然と付いてくると思う。それとこれはあまり触れたくないが、最近のディズニーはここが疎かになっている。「ストレンジワールド」にせよ、「実写版リトルマーメイド」にせよ「ウィッシュ」にせよ、キャラクター設定がおざなりで、主人公は最初から完成されていて成長しない。その為どうしても感情移入しずらくなっている。ディズニー社は、まずここから考えるべきだと思う。