タイトル 三つ首塔

公開年

1956年

監督

小林恒夫 小沢茂弘

脚本

比佐芳武

主演

片岡千恵蔵

制作国

日本

 

本作は、横溝正史の同名推理小説を映画化したミステリー・アクション映画。片岡千恵蔵の金田一耕助シリーズは、松田定次がメガホンを取っていたが、前作「犬神家の謎 悪魔は踊る」は渡辺邦夫が監督を務め、本作では小林恒夫との小沢茂弘の二人が共同で監督した。

またこのシリーズお馴染みの金田一耕助の美人助手、白木静子は高千穂ひづるが演じた。

1952年にGHQは職務を終えて解散していたので、本作公開時にはすでに時代劇が復活していたので、現代劇に出演する意味はなくなっていたが、それでも「多羅尾伴内」や「ニッポンGメン」等には時代劇とは違った役をやりたかったのか出演していた。そして片岡御大が金田一耕助を演じたのは、本作が最後で、その後東映はもう1本、シリーズの流れを受けた作品を制作するが、それが悪名高い「悪魔の手毬唄」だが、これについては以前紹介している。

この写真見せられて、金田一耕助と思う人はいないだろうな

 

このシリーズはすべて原作と犯人や動機が異なるのが特徴だが、以前は「明るい戦後。暗い戦前」としてGHQを肯定するような内容とされていたが、さすがにこの頃となるとそうした視点はなくなっているものの、犯人は別となっている。

映画は莫大な遺産を残した佐竹玄蔵の相続人は、主人公の宮本音称であることが判明するところから始まる。相続の条件は玄蔵の友人高頭省三の孫で行方不明の高頭俊作と結婚すること。音称は原作だと“音禰”だが変更されているが変換が面倒なので“音禰”で統一する。演じているのは東映ニューフェイス第1期生中原ひとみ。なお、同期の山本麟一は刑事役で、そして南原宏治はもう一人の主人公の堀井敬三役で出演している。更にこの話を伝えた弁護士の黒川に小沢栄太郎。養父の上杉欣吉に宇佐美淳と、ここだけでお腹いっぱいになるほど豪華キャスト。

なお、佐竹玄蔵の遺産は原作では百億円だったが、映画では現実的に十億とされている。もっとも、1956年時の10億円は現在では50億円位にはなるので、どっちにしろ目もくらむような大金に違いない。

他に、原作とは年代や、人物の系譜などが微妙に異なっているが、これは観客に素直にわかりやすくするための変更と思われる。

稲葉義雄、小沢栄太郎、南原宏治の面々

 

その後、上杉欣吉の還暦祝いの席で踊り子の1人が殺される。その夜音禰は堀井敬三を名乗る男から声を掛けられるが、その直後その男も殺されてしまう。堀井敬三の死によって第一の遺言は失効し、第二の遺言となるが、それは全財産の半分は音禰が相続し残りは6人の親類たちによって分割されるというもの。ちなみにその価格を現在に当てはめると、大体4億円ほどになる。私ならこれで満足するが、そうなったらミステリーは成立しない。業突く張りが遺産を独占しようと、次々と相続人を敵賭け連続殺人事件が起きる事になる。事態を重く見た黒川弁護士の依頼で、名探偵金田一耕助が助手の白木静子を伴い、事件解明に乗り出すのだった。といっても、もう調査を進めているんだが。依頼もないまま事件解明に乗り出して、果たして報酬はどうなっているのかは、突っ込んではいけない部分だ。

原作だとヒロインの音禰の視点で物語が進行し、金田一耕助の出番はわずかにすぎないが、それでは困るので本作に限らず、その後の映像化作品だと金田一耕助の視点で物語が進むようになっている。ただ原作のヒロイン、それも事件の容疑が掛けられている人物視点というのは斬新で、容疑者から見ればいくら無実でも、アリバイや口裏合わせを次々と見破る金田一耕助が、如何に不気味な存在なのかよくわかるようになっているが、それが無いのは残念な点。そして、本作では中盤にヒロインが姿を消し、その状態で連続殺人事件が起きるので、音禰に容疑がかかる事はないのが、物足りない部分だ。もっとも原作だと彼女は堀井に犯され彼を憎むとともに惹かれだすという、昭和の価値観にのっとったヒロイン像なので、現代では再現にくい。もっともそうしたことを含めて、金田一耕助ファンの間では、鬼頭早苗に次ぐほどの人気がある様だ。やり方によっては、彼女を黒幕とすることもできるので、そうした脚色をやればよかったのにと思うが、さすがに売り出し中の新人女優に汚れ役をやらせるわけにはいかなかったから、どっちにしても無理か。

それと本作のラストは明らかに「多羅尾伴内」を意識している。現在見ると笑うしかないが、この頃の観客はこうしたカッコいい片岡千恵蔵を期待していたので、たぶん好評だったのだろう。

前述の通り本作をもって「片岡千恵蔵の金田一耕助シリーズ」は終了で、「八ツ墓村」「悪魔が来りて笛を吹く」「犬神家の謎 悪魔は踊る」は現在フィルムが失われているとされている。ただ以前「獄門島」で書いた通り「悪魔が来りて笛を吹く」はフィルムが見つかったので、そのうちに見られる可能性がある。

このシリーズは、金田一耕助ファンにとっては、見る価値がある映画とは思えないが、映画ファンとしては無いといわれれば見たくなるのが人情。かつて失われたはずの大蔵映画の映画が、ごっそり見つかった例もあるので、他の2本もどこかで見つからないかと切に願っている。

金田一耕助探偵事務所の内部。一応原作だとマンションの洋室なので間違ってはいないのだが?