タイトル 犬人間

公開年

2022年

監督

ビルヤル・ボー

脚本

ビルヤル・ボー

主演

ガルド・ロッケ

制作国

ノルウェー

 

以前ご紹介した「ドッグマン」を見た時、「似たタイトルの映画、あったよな」と思い調べてたら思い出したのが本作。それほど間がなかったのにすっかり忘れていたのは、ラストの胸糞性に嫌悪感を持ったせいかもしれない。

本作は、マッチングアプリで出会った完璧なはずの恋人が、人間を“飼い犬”として飼っているヤベー奴で、その事から女性が体験する恐怖を緊張感たっぷりに描いたノルウェー製ホラー映画。原題は「Good Boy」なので結末はだいたい想像がついて、実際その通りの展開だったが、ラストは更に斜め上を行くオチとなりドン引きした。なお、良く参考にするアメリカの辛口映画批評サイトRotten Tomatoesだと、本作は批評家が93%に対して、観客は48%と両極端な結果になっている。もっとも批評家は15しか投票していないし、観客も50程度なのでかなり偏っていると思われるが、個人的には逆のスコアを予想していたので意外な気がした。鬼畜系映画好きにとってもあのラストは悪い意味で予想外だったのだろう。ただ、あのシーンが無かったら、ちょっと変わっているものの普通のスリラー映画として記憶に残らなかっただろうから、監督の意図としては間違っていなかったことになる。

性格が難があるが、たぶんわざとそう設定したのだろう

 

映画の冒頭は、豪邸で一人で済む主人公?若きイケメン・クリスチャンの食事の支度。ステーキを手際よく盛り付け、同じものを犬のエサ入れに入れると「フランク」と言って呼ぶと、犬の着ぐるみを着た人間がやってきて、おいしそうに食べ始める。あまりにも当たり前な様子に、これは犬を擬人化したものなのか?と思ったが、フランクを洗う時は着ぐるみを脱がせているのでそうではない。この時点で不穏な空気が流れるが、これもまだ序章にもなっていない。

クリスチャンはマッチングアプリで出会った女子大生シグリットとデートする事に。めかし込んで緊張気味のクリスチャンだが、シグリットは大幅に遅刻した上に初対面なのにスマホをいじくる非常識人間。普通なら次はないはずだが、どういう訳かこのクリスチャンは、シグリットを家に連れて行き一夜を共にする。しかし翌朝姿を現せたフランクにさすがの彼女もドン引き。その場を後にしようとするが、この家が郊外にあるせいか、クリスチャンに送ってもらうという、非常識行動。私なら、一刻も早く家から遠ざかり見えなくなった辺りでスマホでタクシーを呼ぶ。この部分でクリスチャンは「説明させてくれ」と言っているので、フランクを「着ぐるみを着た男」と認識している事が分かる。

冒頭から不穏率100%

 

帰るとルームメイトに洗いざらいぶちまけるが、彼女からクリスチャンが大富豪だと知り、再び会う決心をする。もうこの時点で嫌な予感しかしない。だってエッチの時も着ぐるみ着た男がそばにいるんだぞ?それに大富豪の若きイケメンが、マッチングアプリで交際相手を探すのは、どう考えても変。私がこの友人なら絶対に勧めたりしないが、シグリットは、顔を引きつらせながらもフランクを犬として扱う。この時点で彼女への感情移入は、雲散霧消する。

こんな豪邸に住むイケメンが、なぜ自分を選んだのか考えるべき

 

やがて二人は田舎にある別荘に行くことになる。当然だがフランクも一緒だ。そこでもスマホいじりの癖が抜けないシグリットは、「週末位スマホなしで過ごそう」とクリスチャンに持ち掛けられ預ける事にするが、この手の映画でスマホを手放していい結果なったためしはない。

別荘での平穏ながらも奇妙な生活は、隙を見たフランクが放った一言。「逃げろ!あいつはやばい奴だ!」で暗転する。気が付けば彼女は別荘に監禁状態。そこから彼女の恐怖の脱出劇が始まる。というのが大まかな粗筋。

 

ちなみに本作の感想は、ネタバレなしに書けないので、ラストに関してもかなりのネタバレをしている。まだ未見の人は、ブラウザバックして戻る事をお勧めする。

本作最大のA級戦犯。別に悪意がありそうに見えないだけに罪は重い

 

本作を最初に見た時、設定は珍妙だがよくある、女性がやばいサイコパスに監禁されるという映画と思ったし、肝心のヒロインも逃げるチャンスが何度もあったのに、どういう訳か逃げようとしなかったりで、ラストも衝撃を受け胸糞悪くなったが、肝心のヒロインの性格も大概で、なんとなく自業自得な印象を持ったので、そこまで惹かれる事はなかった。そもそもフランクも特に体に障害がある訳でなく、クリスチャンが寝ている間にボコったり、逃げたりできそうだし、シグリットと力を合わせれば反撃できるだろう。終盤でシグリットの反撃で一度は倒せたから彼は不死身ではない。この手の映画って、何故倒した後でさらに止めを刺さないのかいつも疑問に思うが、本作でも「まず相手を動けなくすべきだろう」と思わされるが、この時点で脚本は失敗しているといえる。それにシグリットのルームメイトは、彼女がクリスチャンに会いに行っている事は知っているから、行方不明となれば警察に届けその事も伝えるはずだが、最後までそんな事もない。

 

そもそもだが、

何故フランクは逃げないのか?

何故クリスチャンはフランクを犬として扱っているのか?

そもそもクリスチャンとフランクの関係は?

一瞬見える口の中。どうやって食事をしているのか謎は深まる

 

こうした疑問に全く触れていないので、見ているとストレスがたまる。この辺りは、フランクは自分を犬として受け入れているのなら気にならないところだが、中盤でそれはなくなってしまった。そんなこんなで脚本が破綻しているスリラー映画という印象しか持てず、それは今でも変わっていない。

ラストでフランクはもとより、シグリットも彼の飼い犬となっている。しかもそれまでフランクはクリスチャンと同じ食べ物が与えられていたが、そこではドッグフードになっていた。ドライのドックフードは味が無く、とても人間が食べられるものではないので、二人に人間としての理性は残っていないと推定される。その後で犬の着ぐるみを着た赤ちゃんが登場し、観客は一気に凍り付くことになる。

あの赤ちゃんはシグリットが生んだのは間違いなく、今度は幼いころから犬として育てられる事になるのだろう。

元々彼女はフランクと番わせる為に連れてこられたという解釈も成り立つが、二人とも離れて飼われているし、デート初日に二人は事に及んでいる。更にその後シグリットにつわりらしき症状も見られる。つわりが起きるには早すぎる気もするが、二人が別荘に行ったのが付き合いだしてどれくらいなのははっきり描かれていないし、早い人だと4週ぐらいで始まるのであり得なくはない。

それに、我が子を犬と一緒に4年間監禁していた父親がいるくらいだから、普通に父親はクリスチャンと考えるべきだろう。だからと言って、納得は出来ないが。

前に書いた気もするが、最近北欧の映画を見る事が多いが、どこかみんな軽く病んでいる気がする。日本だと一部で「理想郷」のように思われる北欧だが、実態は色々と病的な問題もあるのだろう。と、映画に関係ない締め方をしたりして…