タイトル 好色源平絵巻

公開年

監督

深尾道典

脚本

深尾道典

主演

菅貫太郎

制作国

日本

 

本作は、保元・平治の乱を題材に、双方の大将、源義朝と平清盛の間を往来した薄幸の白拍子常盤御前の性を描く、歴史ポルノ映画。紹介によっては「源平合戦を背景」問い描かれているが、映画は平治の乱収束直後から始まっていて、厳密には保元・平治の乱は源平合戦とはニュアンスが異なる。平治の乱の首謀者は悪右衛門督の異名を持つ藤原信頼で、源義朝は一軍を率いた野戦指揮官に過ぎなかった。それに比べると平清盛は、後白河院の体制の中で、既に確固たる地位を築いており、双方の勢力は大きく異なった。

映画の冒頭で、平治の乱が起こり今から出陣というときに、総大将・源義朝は、愛妾・常盤御前とせっせとことに及んでいる真っ最中。義朝はかつて平清盛と常盤御前をめぐり争い、奪い取ったことがあり、ことさらご執心で、二人の間に今若丸、乙若丸、牛若丸の3人の子供が生まれていた。ここで迎えに来た武士の「刻限でございます」の声に、イキながら、「直ぐに参るぞ!」と絶叫するのは傑作。この義朝を演じているのが唐十郎。若い頃はこんな臭い芝居をやっていたんだなと感慨深くなる。

常盤御前は八並映子が演じている。末期にポルノ路線を取った大映で関根恵子、渥美マリらと看板女優として活躍したが、昭和の特撮小僧にとっては「ガメラ対深海怪獣ジグラ」のビキニを着ていた宇宙人のお姉さんが有名だろう。大勢の人たちの中で、一人ビキニなのがシュールで面白かった。

当時は平清盛と言えばこのイメージだなあ

 

低予算ポルノだから合戦シーンがある訳でなく、次のシーンは平治の乱が終わった所になる。勝利を収めた清盛が得意の絶頂。清盛は頭を丸めた僧形で描かれているが、清盛が出家するのは平治の乱から約10年後の太政大臣を辞した翌年に病に倒れた時。清盛と言えば僧形なので、イメージ重視したのだろうが、清盛が時忠が言ったとされる「平家にあらずんば人にあらず」というのも、イメージ重視か。本作での清盛は、傲慢で尊大な人物に描かれているのは、当時の通説通り。しかし、精力絶倫でどんな女にも満足できないというのが、いかにもポルノ映画といった感じがする。女がイッても自分はイケないことから、従卒に手コキをしてもらい、迸る液が天井にぶち当たり二人の顔に降り注ぐという、今時AVでもない様なシーンがあったり、この頃の映画のある意味のすさまじさは感動すら覚えるほど。

八並映子の醸し出す色気も見どころ

 

他に、継室の時子と行為の真っ最中に、思わず「常盤!」と叫び時子に責められて慌てて取り繕う姿など、現代の浮気亭主と同様の描写がされ思わず親近感がわく。

その後、逃亡中の常盤は西円に諭され清盛の元に出頭するが、すっかり常盤にのぼせ上る清盛に嫉妬した時子は丑の刻参りをする始末。ちなみに時子は、後に壇ノ浦の戦いに敗れた後、安徳帝に「波の下にも都はありましょう」という、日本史上最高の泣ける台詞を言ったとされるあのお方だと思うと、脚本も書いている深尾は相当性格悪いなと思わされる。

常盤に夢中の清盛は、ついに3人の子供を助命してしまうが、この1人が後に平家を滅ぼす牛若丸こと源義経。源頼朝も清盛は助命するし昨今では寛大で温和な性格だったのではとも評されるが、それがことごとくブーメランになっているのがなんとも痛々しい。

その後、さすがの性豪・清盛も常盤に飽きて一条長成に下賜する。長成は頭が弱そうに描かれているが、一男一女を授かっているのでおかしかった訳ではなさそうだ。また清盛の愛妾だったという記録も見つからないことから、最近では疑問視されているが、当時は通説だったのでいまさら言っても仕方がない。

顔にかかるもののの正体は控える

 

本作は感想をアップする予定はなかった作品。当時で500万円とかなりの低予算だが、この頃は時代劇用のセットや小道具、衣装などがかなりあった時代だけにその予算で作れたという背景がある。確かに今見ると、女優たちがちゃんと眉を剃っていたり、華やかな衣装などそれなりによくできているが、だからと言って隠れた名作とは言い難い。それなのになぜ書いたかと言えば、これは主演の菅貫太郎に尽きる。欲しいものはどんな手段を用いても手に入れる傲慢かつ強欲さ。そして常盤を手に入れるとのぼせ上り、遂には子供たちを助命する軽薄さなど、完全無欠の俗物っぽい清盛を怪演している。尊大な権力者なのに、滲み出す小物感。極悪なのにどこか憎めないところがあるこの役は彼でなければ演じられなかっただろう。中盤以降は完全に菅貫劇場。ちなみに菅貫太郎は秋田出身だが、大学時代に東京に出てきているせいか、普段はべらんめえ口調で飾らない性格だったといわれる。

所謂“珍品”に属する映画で、決して人に勧められるようなものではないが、菅貫太郎の怪演と、八並映子の薄幸そうな色気を楽しむ映画。62分と手ごろな尺なので、暇つぶしに見るのは良いと思う。