タイトル DOGMAN ドッグマン

公開年

2023年

監督

リュック・ベッソン

脚本

リュック・ベッソン

主演

ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

制作国

フランス

 

本作は、リュック・ベッソンが実際の事件に着想を得て監督・脚本を手がけたサスペンス・スリラー映画。本作は純粋なフランス映画だが、舞台もアメリカなら大半の出演者もアメリカ人で言語も英語。無論興行面を考慮した結果だが、この辺りの貪欲さを日本も見習った方がいいと思う。

元ネタになった実際の事件が気になるところだが、リュック・ベッソンによると、5歳の男の子が父親に犬のケージに閉じこめられて、4年間も繋がれていたというもの。それでここまで膨らませたリュック・ベッソンの想像力たるや恐るべしといったところ。

日本版の予告編を見ると、なんだかホラー映画のような趣があったが、スラッシャー要素もほぼなく、問題なく見る事が出来たが犬嫌いの人は絶対に向かない映画。

この冒頭は本当に名作の誕生を予感させgood

 

ニュージャー氏―州で検問にあたっていた警察官が、傷だらけの女装した男が運転するトラックを発見。荷台には数十匹の犬が積まれていて、異様さに男は警察に留置される。警察が出向くと、彼の家にはおびただしい死体が転がっていた。

警察の依頼を受けた精神科医のエヴリンは、男と面談を重ねると彼の異様な生涯が浮かび上がってきた。

男の名はダグラスで、幼いころに愛するよりも支配する父と、その腰巾着の兄により酷い母親ともども虐待を受けてきた。やがてダグラスは犬の檻に入れられるようになり、唯一の味方だった母親は出て行ってしまう。そこでダグラスは犬と意思の疎通が出来るようになった。この経緯がはっきり描かれていないのだが、ともかくそう言うことと納得しないと話は進まない。

エヴリンに心を開くにつれ、ダグラスもメイクを落としていく

 

ある時、子犬が産まれた事から父親は逆上。子犬を撃とうとしてダグラスは父に撃たれ指を失くし、跳弾で腰を傷つけ立てなくなってしまう。そこでダグラスは犬に、指をパトカーに持っていくように命じ、その事でようやく長年の監禁生活から解放され施設に預けられる。施設で孤独に過ごしていたが、演劇を教えに来たサルマという女性と出会い彼女の熱心な指導で演劇をやる様になる。次第に熱中し同時に彼女を愛する様になるがやがて彼女は本格的に演劇を始め施設を辞める。彼女はブロードウェイに出るようになり、成長したダグラスは彼女に会いに行くが、既に彼女は結婚していた。失意の彼に追い打ちをかけるように、働き先の犬の保護施設が予算不足で閉鎖されてしまう。

ダグラスはその前に収容されていた犬を連れ出し、廃ビルで犬との共同生活を始めるが、障がい者の彼になかなか仕事はない。ある時、ナイトクラブで歌うと秘めたる才能が開花し大好評。週に一度歌うようになる。

実を言うとここが本作のピーク。

しかしそれだけでは犬を養うことは無理。そこで犬たちを使って金持ちから宝石類を奪うことを計画。最初は上手くいったが、やがて保険の調査員がその事に気が付き、彼の周囲に迫りつつあった。というのが大まかな粗筋。

前述の通り、ナイトクラブでの歌唱が本作のピークで、この後はエピソードが断片化していってしまう。金持ちから奪い、貧しいものに分配するのを富の再分配と言っているが、これはよく考えるまでもなく間違い。リュック・ベッソンの家に貧しい人が泥棒に入ってれば、確実に警察に通報され捕まるはず。更にそれを調べただけの保険調査員を犬に殺させるなどは、どう考えても擁護できない。やるなら犬を使わず自分でやれ。

終盤に出てきたギャングも、ドックマンが戦わなければならない必然性は乏しい。ラスボスはダグラスの父親が逃走してギャングの親玉となっていたというなら、ダグラスが戦う意味はある。また、ダグラスがギャングから金を奪っていて、それがばれたから襲われたというのでも納得できる。そもそもこの話は、冒頭で犬を連れだ女装男が警察に捕まるというビジュアルが先にあって、そのビジュアル優先で脚本を書いたのではないだろうか。リュック・ベッソンならやりそうだと思う。

その一方で、主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズの演技は素晴らしい。人間よりも犬を愛し犬と意識が共有できるという、魔法使いじみた設定だが、そんな荒唐無稽さも納得させられるほどの圧倒的な存在感がある。どことなくジョーカーに似ているが、彼ほどサイコパスな部分が無い。ただ、犬とお互いに寄り添っているのではなく、ダグラスによって犬が支配されている様に見えるところが気になるところ。一応ダグラスの行動は、犬たちの事を想っての事だが、この辺りが、どうも納得いかないところだ。それにもう一人、真相を知っているものがいるのだから、遅かれ早かれダグラスの事は発覚したはずだが、何故か彼の事は完全にスルーされている。リュック・ベッソンらしいが。

このヴィランも物語にうまく溶け込んでいない

 

もう一人の主役が、彼と相対するジョージョー・T・ギッブス演じるエヴリン。終始冷静でダグラスとしっかり対峙しているが、彼女もDVの夫から逃れているという過去がある。ある意味二人は似た者同士で、最初は被疑者と医師の関係だったのが次第とお互いに通じるものを感じるようになるのが良い。ラストは彼女へのさりげないお礼なのだろうか。

ラストは様々な解釈が出来るが、懺悔のようにも見えるし、神の許しを得たとの解釈もできると思う。

後半失速した感があるが、最近のリュック・ベッソン監督作品の中ではかなり面白い。続編がある様な気もするが、本作は、崩れかかっているバランスの上に成り立っているので、下手な続編を作ればただのダークヒーローものになってしまうので、やるなら相当注意が必要。とりあえず、エヴリンのエピソードなら大丈夫だろうが。

犬たちの名演技があっての本作