タイトル にっぽんGメン

公開年

1948年

監督

松田定次

脚本

比佐芳武

主演

片岡千恵蔵

制作国

日本

 

本作は、自動車ギャング団の摘発に挑む警視庁捜査一課の捜査員たちの活躍を描いたサスペンス映画。1948年と、日本はGHQ占領下で時代劇の撮影が「封建的である」という理由で禁止され、時代劇スター達がこぞって現代劇に出演してひたすら捲土重来を夢見ていた時代の映画だ。本作にも主演の片岡千恵蔵をはじめ、月形龍之介や井沢一郎、原健策といった時代劇で活躍していた俳優が大挙出演している。ただ、片岡は現代劇に出演しても「多羅尾伴内」や「金田一耕助」のように、時代劇風の様式美が取り入れられている事が多いが、本作はかなりリアル寄り。服装はいかにもベテラン刑事といったくたびれた様子を出しているし、変装も薄汚れたいかにも刑事がしそうな感じになっている。

現代劇の自然な演技をする片岡千恵蔵。

 

その一方で、ヒロインの折原啓子は現代もので活躍していたし、杉村春子は舞台がメインと多様な人材がそろっているのもこの頃の映画の特徴。後に黒澤映画でブレイクする加藤大介も顔を見せている。また悪役で鈴木傳明が出演しているが、この頃父が経営していた大和炭鉱の社長となっているので、その後1本だけカメオ出演しているだけなので、本作は実質的に最後の出演作となっている。

かなりヒットしたらしく3作が作られたが、それらに相互の関連性はない。

本作の冒頭で、警視庁刑事部長の藤沢が都下で頻発する集団強盗と自動車ギャングの解決するよう刑事達に訓示するシーンから始まる。藤沢を演じるのは月形龍之介で、江藤部長刑事を演じるのが片岡千恵蔵。お二人とも若い。

警視庁捜査一課では江藤、白石、甲野ら手練れを集め特別捜査班を組織して必死の探索を開始した。これがタイトルにもなっている“Gメン”だ。ちょっとわかりにくいが、江藤は白石の家の離れを借りており、白石の妹たか子は婦人警官。普通に考えれば江藤とたか子に恋バナが起きそうだが、最後までそういうことはない。

二枚目を演じる井沢一郎。なかなか堂に入っている

 

捜査は盗品の発見に全力を挙げる事にし、白石は村岡古着店で聞き込みをしたところ盗品と断定し得る時計と背広を発見。しかし調べているうちに不覚にも賊の一味村岡の為に絞殺されてしまう。この村岡を演じているのが原健策。女形崩れのなよっとした演技が珍しい。しかし、女形を「変態」というのには時代を感じる以前に、この時代でもアウトじゃないか?

その頃、Gメンたちの活躍で捜査線上に、キャバレー「モナコ」に出入りする怪しい者たちの中に「参謀」と呼ばれている清川が浮かび上がる。犯人は軍隊式の統率された組織を持っていたのだ。最初は旧軍人出身者かと思ったらそういうわけではない様子。もっともこの頃の日本人男子で軍に行かなかった者はいなかっただろうが。

そこで江藤たちは、たまたま起きた喧嘩にかこつけて清川と、情婦ナオミを逮捕し、激しく追及するが二人はがんとして口を割らない。やがて白石の失踪が明らかとなり、江藤たちは村岡古着店に目星をつけ踏み込むが、既に村岡は逃亡し店の下から白石の死体が見つかった。

村岡は犯人逮捕を誓い清川たちを激しく追及するが、のらりくらりとかわされてしまう。そこでたか子はナオミと話をして、遂に事件の黒幕が曾我部であることを知る。曽我部は防犯協会の一員として常に警察に出入りしている男だった。というのが大まかな粗筋。

痩せているが雰囲気は変わらない

 

警視庁が後援している事もあり、刑事達の様子はかなりリアル。片岡千恵蔵も完全に現代劇の演技をしているのが面白い。これなら現代劇でも活躍できたと思うが、やはり時代劇が恋しかったらしく、GHQが解体されると、さっそく時代劇に帰って行った。餅は餅屋というが、やはり自分が帰るべきところに帰るのがいいのだろう。

正直映画としては少々微妙。前述の通り普通なら江藤とたか子の恋が描かれるはずだが、本作では完全にスルーされ、それ故江藤と白石の関係が、年下の部下の家に年上の上司が下宿するという、妙にわかりにくいものになっている。まともな脚本家なら入り江とたか子の色恋を描くはずだし、その方が物語は盛り上がるはずなので、どこからかクレームがついたとしか思えない。時代劇では主人公が惚れられるのは当たり前だし、GHQが自由恋愛を否定するはずないから、ここはやはり警視庁が問題視したと思われる。職場で乳繰り合っている様に思われるのが嫌だったのだろうが、日本で初めて女性警察官が採用されたのは1946年。それもGHQの指示に基づいたもので、この辺りに女性が警察官になる事への、警視庁の本音が垣間見えるような気がする。

警視庁協力だけあって、典型的な警察官の母を演じる杉村春子

 

他にも民主警察礼賛と思えるセリフがあったり、今見ると少々鼻白むところがあったりするが、片岡千恵蔵のリアル寄りの演技が見られるという点では貴重な映画だ。ただ、この頃の映画にありがちだが、セリフがかなり早口で聞き取りにくいのは欠点。デジタルリマスター版でも出してくれないかな。