タイトル ハンテッド 狩られる夜

公開年

2023年

監督

フランク・カルフン

脚本

グレン・フライヤー フランク・カルフン

主演

カミーユ・ロウ

制作国

アメリカ・フランス

 

本作は、2015年のスペイン映画「シャドウ・スナイパー」を原案に「マニアック」のフランク・カルフンが監督を務めたワンシチュエーション・スリラー映画。

粗筋を呼んでなんとなく既視感があったが、オリジナルの「シャドウ・スナイパー」は未見。感想を読み限り、オリジナルは狙われるのは男で、犯人とも会話が無いなどかなり話を膨らませているようだ。

ただ、身を乗り出したら死ぬとか、音を立てたら死ぬとか、この手のソリッドシチュエーション・スリラーに割とよくあるな展開で、この手の映画が好きな人にとってはそれこそ、親の顔程見た話。今更ちょっとやそっとでは観客を満足させることはできない。果たして、どのようにしてマンネリ化を防いでいるのか?それが問題となるが、話が誰ダレない様にかなり工夫している。映画を見た限り、それがうまく行っている部分もあるし、ずべっている部分もある様に感じた。

外から撃たれたのだ柄、こっち向きに血痕が付いていなくてはおかしいが?

 

映画の冒頭は、主人公で製薬会社フィンザーでSNSマーケティング副部長のるアリスが、旦那とスマホを使ったテレビ電話でお話し中。どうやらアリスト旦那は子供が出来ないらしく、不妊治療を受ける予定の様子。そのせいか、彼女は同僚と不倫しているが、あまりラブラブといった感じではなく恋人とも冷めている様子。

モーテルを出た二人は、アリスの夫のもとへ家路を急いでいたが、前日満タンにしたはずのガソリンが尽きかけて、仕方なく途中のガソリンスタンドに立ち寄り、アリスはコンビニに立ち寄るが誰もいないので、お金を置いて立ち去ろうとした瞬間、アリスは腕を負傷し、帰りが遅いアリスに気になって店に入ってきた不倫相手が射殺されてしまう。

スマホも壊され店内の電話や警報器は線が着られていて、助けを呼ぶ手段はない。カウンターの裏に退避するとそこには女の死体があった。トランシーバーから声がして助かったと思ったのもつかの間、実は彼は狙撃犯だった。散々アリスを嘲笑する犯人。だがそこに一人の男がやってくると、何故か狙撃も声も消えこいつが犯人ではを怪しむアリス。男に車のスマホを取りに行かせるが、あっけなく射殺されてしまう。というのが大まかな粗筋で、彼はアリスが殺したのも同様なので、私はこの時点で彼女が助かる事はないと確信した。

本作でのアリス最大の犠牲者

 

この手の話は、ともかく被害者がその場から脱出できては意味が無いので、そこにいる必然性を考えなくてはいけないわけで、それさえうまくいけば、ソリッドシチュエーション・スリラーは、10中8.9上手くいったようなもの。その点、本作は中盤あたりまでは上手く行っている。陳列棚を移動させたり、電気を落としたり、傘を広げたりして、ある程度安心して移動できるポイントを確保したり、普通の人が思いつくことはやっている。ただ、日本のコンビニだったらレジ裏に、カーテンで仕切られたスタッフルームへの入り口があるし、店のいちばん奥にトイレがある。ガソリンスタンドに建物が無いし、店員がいるからトイレは必ずあるはずだが、何故か見当たらない。本作では、スタッフルームはレジから離れたところにあって、施錠されているという謎仕様。しかも中に事務所も無ければ商品の在庫もなく、ガレージのように外向きにシャッターがついている。確かに商品を搬入するにはいいだろうがこのガレージをコンビニの中に収めるには広すぎる。

普通のコンビニを忠実に再現すれば、物語が成立しないので、映画の中だけのファンタジーコンビニを作ったのだろうか。この辺りは、コンビニの知識が多少でもあれば、気になる部分だ。

奥にシャッターが見えるが、明らかにガレージを納めるには狭すぎる

 

それと中盤になると、いったん主人公は外に出るが(犯人の目に触れずどう出たのかは突っ込まない事にする)、自分の車で帰ることに拘り失敗すると、また店内に戻るというバカな行動をする。パニックになっていたからかもしれないが、私ならそのまま店舗の裏手に隠れて、そのままコンビニと盾にして逃げる。主人公がちょっとでも馬鹿な行動を取れば、没入できなくなる。

中盤で無意味な会話をだらだらと続けすぎる

 

もう一つは犯人の正体だが、「ワクチン陰謀論」だの「米議会突入事件」だのQアノンめいた陰謀論を叫び続けるが、どうも覚めて言っているようだし、突然それをひっくり返すようなことを言ったり、陰謀論者を装っているだけという気がする。劇中でヘンリーという店員が示唆されているが、なんとなくだが違和感を覚える。アリスの乗る車のガソリンタンクに穴がいていたのが発端だが、昨日までは開いてなかったようなので、誰かが開けた可能性もある。すると、その人物はアリスをあのコンビニに誘い込むのが目的だったことになるが、トランシーバーを置いていたり、他の被害者はほぼ1撃なのにアリスだけ執拗になぶりものにしているところなど、犯人は一人しかいない。犯人がアリスの事を妙に詳しいことなど、その推理を裏打ちできるだろうが、犯人はアリスの本名をトランシーバーで知っているので、インスタなどで情報を入手した可能性もあり、断定とはいかないところ。プロデューサーのアレクサンドル・アジャは「劇中に犯人のヒントはいれた」と言っているので、この二人のうちどちらかだと思うが、断定できないので「アリスに起きた事は誰でも起こりうる」という、少々使い古されたことで締めるしかない。

フラグとしてしか機能していない少女

 

中盤までは非常に面白かったが、「客がやってくる」「異変に気付く」「殺される」の繰り返しで、中盤以降ダレが来た。それに犯人が喋り過ぎでこれも中盤うざく感じるが、この辺り脚本に工夫が無かったのがなんとも残念。ラストも「母性覚醒」というよくある展開。中盤に少しでも謎が明らかになるなら、また集中力を維持できたが、絵面に変化が無くて後半は完全に醒めてしまった。変に政治的な事をはさまずに、なぜアリスが狙われたのか?という謎が次第と明らかとなるのなら、もっと面白くなったはず。決して面白くない訳でなく、割とよくできていたと思うが、どうもこの監督は社会的メッセージに力を入れすぎたような気がする。