タイトル 黄龍の村

公開年

2021年

監督

阪元裕吾

脚本

阪元裕吾

主演

水石亜飛夢

制作国

日本

 

本作は、ホラー映画専門の動画配信サービス「OSOREZONE」が出資した第1回作品として製作されたホラー・アクション映画だ。やばい習慣に支配された、人里離れた山奥にある秘境村にたどり着いて若者が、恐怖の体験をするという王道秘境ホラーと見せかけて、後半に突然大きな転換を見せる事になるが、その転換がすさまじく呆気にとられること必至。上映時間が66分と中編程度だが、これ以上長かったら破綻するという絶妙な尺に収まっている。

見る前から、「ファミリー☆ウォーズ」や「ベイビーわるきゅーれ・シリーズ」などアクションを得意とする阪元裕吾監督だけに、まともなホラー映画じゃないと思っていたので、多少身構えて見ていたけど、その予想の斜め上に行くほどぶっ飛んだ映画だった。無論これはほめ言葉だ。

ここまであからさまだと普通はミスリードだが、本作は特にそうな事はない

 

序盤は大学生と思しき仲良し8人組が、キャンプ場へ向かうまでの様子が、如何にも今どきの映画の導入部っぽくスマホ映像風で描かれているが、画質がクリアで商店もちゃんと当てているあたりプロの技だとバレバレ。事実、村に入ると縦長画面から映画サイズに広がる演出が撮られるが、ごく自然なので何やら胸騒ぎがしたがその予感は的中する。

それに、仲良しグループに見えて、内部にカーストがある様子も見て取れる。陽キャの男女4人はカップルで、陰キャの男3人女1人は陽キャとは特に親しくない様子。これがのちに伏線となっている。所かまわずいちゃつき、キスしまくる陽キャ2組カップルだけに、「早く殺されろと」不穏な考えを抱くが、それは監督の狙いでもあるのだろう。

手前の陽キャ。奥の陰キャと見事に別れているが、実は手前はフラグ

 

案の定というか、途中で車がパンクし携帯圏外。仕方なく近くの村へ助けを呼びに行くが、途中で馬に乗ったおっさんが「あんたら。うちで休んでいきや」と何故か関西弁で親切に誘う。東京の近くで関西弁?という突込みを胸の奥に仕舞いながら、関西弁おっさんの家に行くと、3人の美女が三つ指ついてお出迎え。更に、ちゃんと彼らの分まで鍋料理が用意され、布団も8人分敷いてあった。普通なら「電波が通らない村でどうやって知らせたのか?」と疑問に思うところだが、この能天気な若者たちは食卓に着く。その間、出迎えた美女3人は部屋の隅で粗末な食事をしているので、さすがに見かねた一人が問いただすが「あいつらヴィーガンなんや」と、これも分かった様な分からん様な返事。

目を覚ました陽キャのリーダーがふと外を覗くと、異様な白装束集団が、通り過ぎるのを目撃。そのうちの1人は彼を睨みつけた。さすがにやばいと思い、みんなに警告するが誰の気に留めずそのまま朝飯タイム。気もそぞろの陽キャリーダーをよそにみんなすました顔で朝飯を食うが、3美女の1人が突然もう一人の陽キャ男を背中から刺し、ありえない動きの後に絶命する。パニックに陥る7人の前に、先ほどの白装束集団が乱入し一行を拉致して神社の前に来る。なんとこの村では、迷い込んだ旅人を解体して食べる食人族の村だったのだ!

いちばんヤバい奴

 

何故そんな事をするといわれ「そんなもん、昔からの習慣に決まっとるやないか」という村長。そんな中、陽キャリーダーは隙を見て猟銃を奪い脱出を図るが、次々と仲間は倒されていく。遂に一人となった陽キャリーダーは、彼らに復讐を誓うのだった~~!!普通ならここから陽キャリーダーが巧みな罠を仕掛け、村人を次々と血祭りにあげていく展開となるが、本作はその直後陽キャリーダーは殺されてしまう。そして、ここから本作が本格的に始まることになる。まあ、あとは見てのお楽しみになので、まだ未見の人は多少のネタバレになっているので、この先は鑑賞後に見る事をお勧めする。

 

 

本作を一言で表現すれば、「オタクの厨ニ患者が授業中に妄想するやつ」になるだろう。みんな一度は「やばい奴らに囲まれて絶体絶命のピンチになった時、自分が秘めた能力を発揮してヤバい奴らをフルボッコにする」なんて妄想をしたことないだろうか?本作は、そうしたオタクの妄想をそのまま映像化したような映画だ。

ただ、それだけだと、ショーもない事になるが、本作は脚本と演出、そして見事な構成でエンタメとして面白く仕上げているのが特徴。序盤のスラッシャー・ホラーの王道展開が、主人公と思っていた陽キャのリーダーの死をきっかけにがらりと変わる中盤。そして後半は、添え物と思っていた陰キャの大逆襲。王道秘境ホラーから、バイオレンス・アクションへと大きく変化する。

本作の真の主人公である陰キャリーダーこと梶原が前面に出てくるのがそこからで、彼の目的は”かつて、祖母を殺した龍切村への復讐”というもの。真琴、睦夫兄妹と工藤はそれに賛同して計画に参加していたもの。何故賛同したのかは清々しいまでにスルーされている。

本当はい奴だった?ラスボス

 

そんな梶原たち4人の陰キャたちが、必死の鍛錬で身につけた格闘術で、村人を次々と血祭りにあげる姿が、カタルシスそのもの。

特に、ムエタイや柔術、キックボクシングなど、多彩な格闘術を得意とする伊能昌幸のアクションは見所の一つだ。

突っ込み所は多々あるものの、テンポと構成がいいのであまりに気ならない。そして後口も良くて、スカッとした気分で映画を見終える事が出来る。特にあいつが最後に出てくるのはなかなかのサプライズだった。ある意味彼も犠牲者だから当然か?