タイトル ゴールデンカムイ

公開年

2024年

監督

久保茂昭

脚本

黒岩勉

主演

山﨑賢人

制作国

日本

 

本作は、「週刊ヤングジャンプ」にて、2014年から2022年まで連載された人気漫画を実写映画化したもの。原作は明治末期の北海道を舞台に、アイヌ埋蔵金争奪戦の行方を描いた野田サトルの大ヒット漫画で、すでに完結しているが、31巻も及ぶ長編だけに映画化にあたっては、序盤のおよそ3巻辺りを基にしている。

元から、漫画やアニメの実写化は大幅な改変や省略が行われ、それ故原作ファンを中心に反発を招く事が多かった。特にSNSが発達した今日は、誰でもすぐさま情報を発信できるため、炎上しやすく、また制作側の的外れな対応から火に油を注ぐ様になっている事が多い。そこまで改悪するなら、オリジナルでやればいいのだが、昨今テレビなど既存メディアの地盤沈下でなかなか製作費が出しづらく、それ故著名な漫画原作を使い、自分がやりたい事をねじ込んで実写化される傾向にある。それが顕著に出たのが、今世間を騒がせている「セクシー田中さん」騒動であることは言うまでもない。

ちなみに私は原作を1話として読んだ事が無く、どの程度再現されているのかは全く分からないので、この感想はすべて「1本の映画としてはどうか?」という視点で書いている。

映画の冒頭は、日露戦争最大の激戦地「203高地」の戦いから始まる。血を血で洗う激しい攻防戦が繰り広げられる中、杉元佐一はいつも激戦に身を置いているにもかかわらず、一命をとりとめ驚異的な回復力を示すことから「不死身の杉元」と呼ばれていた。その激戦の中、幼馴染の寅次が杉元をかばい命を落とす。油断していたので、この203高地の戦いは激しさと、ホラー映画も書くやと思わせるほどの血の領に驚かされた。

 

戦争が終わると杉元は、北海道で砂金取りにいそしんでいたが、既に取りつくされているのか、全く収穫はない。そんな中、酔っ払った後藤竹千代から、アイヌから奪った金塊20貫(現代の価値で8億円)を隠したのっぺらぼうと呼ばれる男が、そのありかを網走刑務所の24人の死刑囚に刺青をして記し、彼らを脱獄させたという話を聞く。

最初は信じていなかった杉元だったが、素面に戻った後藤が自分を襲おうとしたことから疑問を持ち、後を追うが彼はヒグマに襲われて死んでいた。そして彼の体には、地図が刺青してあった。そこにヒグマがやってきて絶体絶命のピンチの杉元を救ったのは、アイヌの少女アシㇼパだった。しかし彼女の話だと、後藤を襲ったのは別のヒグマ。そこで後藤の遺体を餌にして罠を仕掛けようとするが、ヒグマの脅威は凌駕していた。杉元はヒグマと激闘を繰り広げるがアシㇼパの守護者白い狼・レタラの助けもあり、何とが退治に成功する。

劇中で杉元は30年式歩兵銃を愛用しているが、6.5㎜弾だとヒグマには威力不足と思われる。三毛別ヒグマ襲撃事件で活躍した伝説のマタギ・山本兵吉は従軍した日露戦争の戦利品・ベルダンII M1870(7.62×54mmR)を愛用して人喰いヒグマを退治しているが、その際2発を発射。1発目は心臓、もう1発は頭を撃ちぬいてようやく倒した。

伝説のマタギ・山本兵吉。帽子は日露戦争でロシア軍からの捕獲品。

 

アシㇼパの父は、黄金を奪われた時殺されたことが判明し、父の仇ののっぺらぼうを死刑にするため、二人は協力する事にする。二人を追ってきた笹原・白石の二人が、いずれも刺青脱獄囚だと知った二人は、その刺青を模写しているとき第7師団の尾形に襲われ、かろうじて撃退する。白石と別れた二人は第7師団の追っ手を何とか返り討ちにし、アシㇼパの故郷、アイヌの村に逃げ込むことに成功。そこで村人から愛されているアシㇼパをこれ以上危険な目に合わせたくないので、一人で出かける事にする。

その頃、小樽市内で第7師団の捜索部隊と元新撰組副長・土方歳三率いる一味とが激しい銃撃戦を切り広げ、その隙に土方は名刀・和泉守兼定を盗み出す。捜索隊を指揮する鶴見中尉は、市内に潜伏していた杉元の捕縛に成功。協力を持ち掛けるが、杉元は一笑に付す。その頃、白石と出会ったアシㇼパとレタラは、杉元救出の機会をうかがっていた。というのが大まかな粗筋。

涼し気という言葉がよく似合う山田杏奈。一方で天然ぶりも魅力的

 

原作は未読なのでその再現度はさっぱり分からない。しかし、漫画原作ものにありがちなコスプレ感はなかったので、ちゃんと作り込まれているのだと思う。そして1本の映画として見ると、かなり完成度は高い。冒頭の203高地の戦いでは手抜きすることなく、血なまぐさい戦場の様子を忠実に再現しているし、舞台が北海道に移った後も厳しくも美しい北海道の自然が見事に描写されている。最近のハリウッド映画にありがちな、異常なまでに自然を礼賛する様子もなく、ちゃんと厳しさも描いている。

物語は序盤で、むしろこれから本格的に始まるところだが、無理をせずにちょうどいいところで終わっていたと思う。ラストでタイトルがドーンとでたときは思わず胸が熱くなった。ただ、果たして最後までやれるのか心配になる。キャストの年齢を考えると、5年程度で終わらせないと苦しくなりそうだから、次回作から駆け足になる心配がある。それに山崎賢人は邦画もう一つの人気シリーズ「キングダム」にも出ているので、スケジュール調整が難しくなるかもしれない。

魅力的なキ〇ガイを演じた玉木宏の怪演

 

登場人物では、鶴見中尉を演じた玉木宏の狂いっぷりや、土方歳三の舘ひろしのイケシブッぷりはもう最高としか言いようがない。現実にいたとしたら二人とも絶対にお近づきになりたくないが、狂気をはらんだカリスマ性を見事に演じていた。勿論体重を増やして役に望んだ山崎賢人は、激しいアクションをこなして「キングダム」と並び、日本の若手アクションスターの地位を確固たるものにしている。ヒロイン・アシㇼパの清楚さと強さを表現した山田杏奈も文句がつけようがない。ラストの桜鍋を食べる表情が、これ以上ないくらいいい。主役二人は、ほぼ極寒の中のロケだったから苦労がしのばれる。

また、原作漫画は、北海道アイヌ協会の理事長を務めた加藤忠氏が絶賛する程、アイヌの文化が正確に描かれていたが、本作でもその描写は丁寧だ。その辺の知識が乏しい自分が見ても、違和感は全く感じない。特に劇中に登場するジビエ料理はいかにもうまそうで、リスやカワウソ、ヒグマなどの料理が食べたくなった。勿論オソマをたっぷりと入れて。