タイトル 江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間

公開年

1969年

監督

石井輝男

脚本

石井輝男 掛札昌裕

主演

吉田輝雄

制作国

日本

 

このブログは、エンタメ性に富んだB級映画を主に取り上げているので、良く取り上げる監督もいれば、全く取り上げない監督もいる。黒澤明や鈴木清順を取り上げたらファンから文句を言われそうなのでやめている。個人的には取り上げたい作品もあるのだが。

その一方でよく取り上げる監督の代表は、石井輝男だろう。初期の作品も好きだし後期のカルトに振り切ってからも好きだから、取り上げる確率は高くなる。本作は、その石井輝男の代表作とも言われる映画。正直これを代表作とするのは、ちょっと釈然としない気もするが、今でも多くのファンを魅了している事は間違いない。

本作は、1年半の間に9本というハイペースで制作された、石井輝男監督による所謂“異常性愛路線”の最終作。

当初、東映の岡田茂による閻魔大王と首切り浅があの世で残酷対決をする「地獄」が予定されていたが、色々あって没となった。その後、石井が江戸川乱歩を提案した事から企画が始まる。一方共同脚本の掛札昌裕は、横溝正史が当たると「八つ墓村」を推したが、結局石井輝男の企画が通り、乱歩をやることになった。当時は影丸穣也作画による「八つ墓村」が人気を集め、若者を中心にブームの萌芽が出始めていた頃なので、実現していれば、後の横溝正史ブームの先駆けとなっていただろう。

本作を最後に東映の“異常性愛シリーズ”は終わりを告げるが、それは警視庁が本作と初の成人アニメ「秘)劇画 浮世絵千一夜」に、ガサ入れをすると警告を発したことがきっかけだった。その後、実際に警視庁より勧告が出されたが、「秘)劇画 浮世絵千一夜」ばかりで、本作への警告はなかったとされる。

本作公開時には、ごく一部の評論家を除いて全く見向きもされなかったが、その後リバイバル上映を通して口コミで広がり、現在では「キング・オブ・カルト」として映画ファンを中心に、高い人気を保っている。

映画は精神病院の1室で、主人公の人見広介が半裸の女性入院患者にナイフで刺されそうになっているところから始まる。広介は何故ここにいるか理由がさっぱり分からない。職員がやってきて割って入ってくれるが、実はそのナイフは刃が引っ込むおもちゃ。広介は、職員によって自分の部屋に監禁されてしまう。ちなみにこの職員をやっているのが、「吸血鬼ゴケミドロ」で最初に寄生される男を演じたシャンソン歌手の高英男。病院の職員と言うより、刑務所の看守のような格好をしていて時代を感じる。この精神病院の様子が、いかにも昭和のキ〇ガ〇病院と言った感じで、見ていて実に楽しい。

左の和尚が由利徹。右が大泉滉。二人のパフォーマンスをご覧あれ

 

広介は、毎夜病院の外から、聞いた事があるがどうしても思い出せない、子守唄が聞こえてくるのが気になってたまらない。その歌を聞くと、美少女と醜い男の二つの顔を持った怪物の姿をフラッシュバックする。彼にはその理由がさっぱり分からなかった。

その後、入院していた禿げ頭の患者に殺されそうになり脱走する広介は、何故か知っている子守唄を歌っていたサーカスの少女と出会い、彼女から色々と聞き出そうとするが、目の前で少女は殺されてしまう。いつも思うのだが、殺すんなら話す方じゃなく聞く方を殺した方が手っ取り早いと思うが。

コロンボの声とは違う、小池朝雄の怪演も見どころの一つ

 

少女の残した言葉を基に、裏日本が怪しいと見た広介は裏日本に向かうが、その道中で自分そっくりの地元の資産家、菰田源三郎が死んだとの記事を目にする。これは何かあると見た広介は、自分は死んだことにして埋葬されたばかりの源三郎が生き返ったことにして入れ替わりに成功する。しかし、一面識もない赤の他人と入れ替わるのは困難で、何かと失敗してしまうが何とか取り繕いながら暮らしていくが、妻の千代子が殺されてしまう。更に異形の男たちが家に侵入する騒ぎが起きる。そんな中、広介は女中からの話から、例の唄は沖に浮かぶ島に関係がある事を知る。島には源三郎の父、丈五郎が菰田家の資材を傾けてまで、何かを作っているという。そこで広介は。執事の蛭川と遠縁の娘静子。そして新しく雇った下男を連れ、島に渡る決心をした。

島に渡った広介は。そこが丈五郎によって恐るべき奇形人間の王国となっている事を知る。更に丈五郎は広介の父親でもあった。彼は広介を医師にする事で奇形人間を生み出そうと企んでいたのだ。そしてそこには夢に出てくる美少女と醜い男もいた。彼らは、丈五郎により無理やりくっつけられた人造シャム双生児だったのだ。と言うのが大まかな粗筋。

“江戸川乱歩全集”と名乗るだけあって、ベースとなる「孤島の鬼」ばかりでなく、「パノラマ島奇譚」「人間椅子」「白髪鬼」「屋根裏の散歩者」などが組み込まれて、カオスな様相を呈している。

前半は精神病院に入れられている広介や、子守歌の謎。そしてサーカスの少女を殺した犯人をめぐるミステリーが主。中盤は、屋敷に潜り込んだ広介が真相に迫る一方で、身元がばれるのではないかという緊張感と言うサスペンス要素が主。しかし、前半はミステリーの組み立て方が雑だし、中盤は特に広介が危機に陥るシーンもないうえに、すべての謎が離れ小島を指しているのになかなか島に渡ろうとしない点がもやもやさせられ、どちらもうまくっているとは言えない。

昭和の見世物小屋的ないかがわしさ

 

そのうっ憤を晴らすかのように、後半になると丈五郎役の土方巽が主催する、土方巽暗黒舞踏塾によるトチ狂ったパフォーマンスが繰り広げられる大カルト大会と化してゆく。本作に見どころはここからであって、前半から中盤にかけては前振りと言って過言ではない。とはいえ、特殊メイクの技術が当時は低かったこともあって“奇形人間”の造形は、かなりチープで、ただ、裸の女が色々と妙な飾りを付けて踊っているだけに見えるのはご愛敬。本作の後半は、ヌードの女がこれでもかとばかり文字通り鬼のように登場するが、エロさはあまり感じない。むしろ、昭和の見世物小屋における、化け物屋敷的ないかがわしさが盛り込まれているといった感じだ。

ちなみに左を演じているのが、当時まだ無名だった近藤正臣

 

そしてラストに突然明智小五郎が登場し、強引に謎解きをしていって観客をねじ伏せるが、この推理には全く根拠を示していないので、こちらはぽかんとするしかないが、ここでも強引に「人間椅子」とくっつけるなど、乱歩的ないかがわしさが全開。ここで急に改心する丈五郎や彼と仲直りするときに至っては開いた口が塞がらない。その後の笑撃のラストと言い、まさに日本映画界の“キング・オブ・カルト”と呼ぶにふさわしいカルト作品だ。

海外でも人気が高く、イタリアのウーディネで開催されたウーディネ極東映画祭で上映されるや、会場はスタンディング・オベーションに包まれた。その一方で日本では2017年になるまでソフト化されず、長らく低画質の海賊版か名画座などでしか見る事が出来なかったが、2007年にアメリカのSynapse FilmsからDVDが発売され、リージョンフリーだったこともあり、Amazonなどで日本でも入手できた。ちなみに私が持っているのも、このアメリカ版だ。