タイトル ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人

公開年

2023年

監督

マイウェン

脚本

マイウェン、テディ・ルシ=モデステ、ニコラ・リヴェッチ

主演

マイウェン

制作国

フランス

 

本作は、18世紀フランスで国王ルイ15世の最後の公妾ジャンヌ・デュ・バリーの波乱に満ちた生涯を映画化したもの。ルイ15世の公娼と言えばポンパドゥール夫人が有名だが、デュ・バリー夫人はポンパドゥール夫人の死後に出会った最晩年の公娼。ルイ15世は既に50代半ばですでに老人と言って良い年齢だったが彼女に夢中となり、その後5年間共に過ごすことになる。

ちなみに日本人にとってデュ・バリー夫人の事は「ベルサイユのばら」で知った人が多いだろうが、作中で描かれた幼少期に孤児になったことや、宮廷で権力をかさにした横暴な振る舞いは全くのフィクション。パリには母親に連れられたし、明るく愛嬌がある親しみやすい性格だったので、宮廷の貴族たちからは好かれていたという。

監督のマイウェンが主演を演じ、ジョニー・デップがルイ15世を演じた事で話題となった。見終わると、このキャストにはちょっとした思いを抱くことにいなる。

 

映画は主人公ジャンヌの幼少期から描かれる。貧しいお針子の私生児として生まれたジャンヌは、子供のころから類まれな美貌と知性を持っているが、それ故波乱万丈の生涯を送る。そして大きくなると性への関心を抱き、修道院を追い出され、母親とともに向かったパリでは娼婦にまで実を落とすが、その美貌と治世が知られたことでデュ・バリー伯爵の過去割れ物となったことで社交界の寵児となり、リシュリュー侯爵の勧めで、国王ルイ15世に引き合わされた。

彼女の類まれな美貌と豊かな知性に魅了されたルイ15世は、ポンパドゥール夫人以来絶えていた公娼とすることを決める。王の公娼は既婚者しかなれなかったので、便宜上デュ・バリー伯爵と結婚してベルサイユ宮殿に入ることになる。宮中の堅苦しいしきたりに捕らわれない彼女は、多くの者を魅了するとともに敵を作ることになる。最大の敵は王の娘アデライードで他の娘たちと共同して抵抗するようになる。更に、王太子にオーストリアから妃を迎え入れると、妃を抱き込んで対抗する。

史実によるとアデライードは前公娼ポンパドゥール夫人とも対立し、夫人の死後は王宮を取り仕切る様になる。そこにデュ・バリー夫人が現れたので、対立は激しいものとなった。マリー・アントワネットと王太子ルイ(ルイ16世)との婚姻も、デュ・バリー夫人は推進しアデライードは反対していた。しかし結婚が実現すると、マリーを取り込みデュ・バリー夫人と対立するようになる。その後、デュ・バリーが王宮を出ると、彼女たちは、新しい王宮の主となったマリー・アントワネットと対立するようになる。本作でアデライードはインディア・エールが演じかなり滑稽に描かれていたが、実際の彼女はかなり美人だったようだ。

劇中のマリー・アントワネットと同時期の肖像画。よく似ている

 

この対立は国王の介入でマリー・アントワネットがジャンヌに短い声掛けをするまで続いた。一度は未遂に終わったが、その後無事に声掛けは成功する。あまりの嬉しさにジャンヌは会議中の国王の元に駆け寄るほどだった。

映画ではマリー・アントワネットは子犬に気を取られ声掛けを忘れたように描かれていたが、史実だとここでもアデライードが邪魔をしたようだ。その為、国王と娘の関係は決定的に悪化してしまう。いるねえ。敵を憎むあまり、自分の立場を悪化する奴。

ジョニー・デップは老いた国王を好演

 

平穏な日々が戻ったと思ったのもつかの間、ルイ15世は天然痘に倒れてしまう。それはジャンヌにとっても宮中から追われることを意味した。というのが大まかな粗筋。

余談だが、この頃ヨーロッパでもオスマンから初歩的なワクチンである人痘が伝わっていたが、フランスでは危険とみなされていた。しかしルイ15世が天然痘で没したことにより人痘をルイ16世は奨励し、まずは弟たちに摂取させ様子を見ようという周囲を押し切って自ら摂取する事で広げる事に尽力した。もっともこれには裏があると言われ、王妃マリー・アントワネットは摂取済みだったので、ルイ16世はその事を知っていたと考えられる。ともかく、人痘が早くフランスで取り入れられていたら、ルイ15世ももう少しは長生きしていただろう。

ベンガル人奴隷ザモールは後にジャコバン派に与し、彼女を告発する

 

本作は、フェミ映画という扱いも見られるが、本作は権力に保護された女性が主人公で、その最大の敵もまた女性という点でフェミ映画とは言えない。あくまで低い身分のヒロインが、機知と美貌を生かして貴族社会でのし上がっていく様を痛快に描いた映画なのでサクサクと見る事が出来る。それだけに、ちょっと問題を抱えている部分もあるが、それが前述のキャストだ。

ある意味本作最大の問題点だが、主人公ジャンヌを演じたマイウェンで、確かに美人だが国王が一目ぼれする様に見えないし、類い稀な知性の持ち主にも見えないという点。ルイ15世ともなると美女は見飽きていたはずだし、単純な美人に惹かれるとは思えない。そうした観客の疑問にマイウェンは応えられていない。これはルッキズムではなく、適材適所という映画で一番重要な問題だ。

ジョニー・デップはオーラを封印して、徹底的に助演に徹していたのでそれだけ良くも悪くも彼女が目立つことになる。それと、マイウェンとジョニー・デップは13歳差だが、デュ・バリー夫人とルイ15世は28歳差とかなり違いがあり、ジョニー・デップは老けメイクをしているようだが、見ていると二人にそれほど歳の差を感じないのもマイナスポイント。

その一方でやはり地の利を生かしたベルサイユ宮殿のロケや、豪華な衣装は目を見張らされる。衣装はシャネルが監修したというので、これは納得。物語はあまりドロドロした骨肉の争いにはならず、割と気楽に見ることは出来る。それだけに、“歴史じっくり系”の人には向かないと。ただ、フランスの王宮でフランス語が話されるという、当たり前の事が、ハリウッド映画で世界の歴史劇を見ているので、そこは新鮮に感じた。これを新鮮に感じること自体、いかに我々がハリウッド映画に毒されているかなのだが。