タイトル エージェント・マロリー

公開年

2012年

監督

スティーブン・ソダーバーグ

脚本

レム・ドブス

主演

ジーナ・カラーノ

制作国

アメリカ

 

本作はスティーブン・ソダーバーグ監督が、全米女子格闘技界でトップクラスの人気・実力を誇る女性格闘家ジーナ・カラーノを主演に迎えて描くスパイアクション映画、という事になっているが、アクションは控えめ(少な目ではない)で、余り重きを置いておらず、妙に乞ったカメラワークや現在と過去がフラッシュバックするいつものソダーバーク節全開の映画。美貌の女スパイが男ども相手に無双する映画を期待すると、完全に肩透かしを食らうだろう。

正直言って、感想を書くつもりはなかったのだが、見た後でどうにも納得いかずに色々調べてみて、せっかくだから書く気になったという次第。だから、あまり肯定的なレビューではないので、ソダーバークやジーナ・カラーノのファンの方には読むことをお勧めしない。なお、個人的にはジーナ・カラーノは割と好きで、「マンダロリアン」を政治的な理由で降板させられたときは、見るのを辞めようかと思った。結局見たけど。

映画の冒頭は、ニューヨーク州北部にあるドライブインで一人の女がお茶している。そこに男がやってきて言い合いを始めた。よくある痴話げんかかと思ったら、突然乱闘を始める二人。当初は男が優勢だったが、居合わせた客のスコットが女に加勢したことで形勢が逆転。女は命の恩人のスコットを拉致して、彼の車でその場を離れる。車中で女は名前をマロリーと言い、政府関係の仕事をしていること、厄介な事件に巻き込まれていることをスコットに伝えるのだった。

ここは最初の見せ場だから、まずはマロリーの強さを観客に示すべきだが、ド素人のスコットが加勢するまで彼女は押されっぱなし。それと何故か一般人のスコットを拾って同道させるのだが、普通に考えたら、彼は何らかの役割を果たすことが予想されるが、傷の手当てをするぐらいで特に役割はない。ただ、これまでの経緯を話して聞かせるだけで、いわばそのためだけの存在。それなら彼女の回想でも十分のはず。だいたい、エージェントが会ったばかりの民間人に、べらべらと任務のことを話だろうか。そもそもこの過去パートが、要領よくまとめられておらず、とっ散らかっているので話の流れが掴みにくくなっている。

思わず「うらやましい」と思ったのは秘密だ

 

非常にわかりにくいが、ここから過去パートになる。民間軍事企業のケネスは、米国政府機関のコブレンツとスペイン政府関係者のロドリーゴから人質救出作戦の依頼を受け、マロリーを指名される。彼女はケネスの部下の中では飛び切り優秀なエージェントだった。

バルセロナに渡ったマロリーはアーロンを含む3人の工作員と合流。軟禁されていたジャーナリストのジャンを救出し、ロドリーゴに引き渡す。実はこのミッションの主要メンバーのマロリーとアーロンは初対面。普通こうしたミッションはチームプレーを重視するのではないかと思うが、この会社は初対面同士でチームを組ませるらしい。この救出ミッションでも、特にマロリーの格闘スキルは発揮されず、一見無駄と思える逃亡犯をずっと追いかけている。しかもやっと捕らえた犯人は、殺すことなくぶちのめしただけで終わらせている。何の為に追いかけたのか。

 

帰国したマロリーに前に、ケネスが現れMI-6絡みの新たな任務を指示。一仕事終えたばかりなので断るが、仕事がすんだらマヨルカ島へ行こうといわれ渋々引き受ける。実はこの時点でマロリーはケネスの会社を辞める決心をしているのだから、断るのならここで辞めるべきだがマヨルカ島でのバカンスに惹かれたのか引き受けてしまう。

新たな相棒ポールと新婚夫婦になりすまし、ターゲットに接触するが、何故かケネスからもらったのと同型の目印のブローチを握ったジャンの死体を発見。更に、ホテルの部屋でポールに襲われ大乱闘に。何とか返り討ちにするが、ポールは意味深な事を言う。遺品の携帯でケネスに電話するとポールからの電話と勘違いしたケネスは、ついつい余計なことを話してしまう。ケネスが怪しいと目星をつけたマロリーは、父親に電話。翌日、警察に追われ、ダブリンを逃げ回る羽目に。その後で、ようやくケネスが黒幕との情報をつかんで帰国する。

構図だけは妙にこだわるが、映画の面白さに繋がっていない

 

ここで物語はようやく冒頭に戻り、マロリーは事情をケネスに聞くためにレストランで待っていたが、やって来たのはアーロンで格闘となったわけ。その後逃走中に州警察に捕まるが、襲撃した武装集団を振り切り逃走。父のもとに身を寄せて、ケネスへの復讐の機会をうかがうというのが大まかな粗筋。

州警察から追われる時に、狭い田舎道を逆走するシーンがあるが、ここが二人が乗った車の後部から、定点カメラでずっと同じカットで撮影するという手の込んだ技法が使われているが、全く迫力を感じずただただ「へえー」と思うだけ。本作はこうした無駄な凝り方をしている部分が多い。

ソダーバークはジーナ・カラーノに惚れこんで、彼女を主演に映画を撮りたいと申し出たらしいが、それなら彼女の特技つまり格闘スキルの高さを最大限発揮できる映画になるとだれもが思うだろう。ところが出来上がった映画は、何とも不完全燃焼と言える代物。その理由は明らかで、いつものソダーバーク作品の中にカラーノを無理やり捻じ込んでしまった事にある。

そして対して複雑な話でもないのに、やたらと構成をややこしくして、複雑というよりも分かりにくくしている。そしてそれらの謎が明らかになるのは、もう終盤に差し掛かってからでそれもすっきりとは終わらない。

個人的に彼女の魅力を引き出した映画を作るなら、一見ごく普通に見える女性が何らかの陰謀に巻き込まれて、事件の真相を求めて動き出す。悪党どもは「ちょろい相手」と思っていたら、相手は元海兵隊員の戦闘のプロで次々と悪党どもは血祭りにあげられていく。といった話がいいと思うのだが、こうした妙に話が入り組んでいる映画は向いていないと思う。2019年公開の「テイクバック」がそうした映画で、これは見事にはまり役だった。

キャストが豪華な割には、それぞれの役割は不明瞭。てっきりマイケル・ダグラスがラスボスかと思ったら、まさかのユアン・マクレガーとは。どういう冗談なのか。どう考えてもカラーノより強いとは思えず、実際に逃げ回ってばかりで最後は自業自得的な最期となった。

尻切れトンボのラストといい、彼女にとっては不本意な主演デビュー作になったのではないだろうか。それでも彼女のアクションは見事で、見る時はカラーノだけに注目することをお勧めする。