タイトル 処刑遊戯

公開年

1979年

監督

村川透

脚本

丸山誠二

主演

松田優作

制作国

日本

 

本作は、松田優作が演じる殺し屋・鳴海昌平の活躍を描く、遊戯シリーズ第三弾。このシリーズは本作をもって、ラストとなった。前2作に比べ評判も興行成績も落ちた事が原因だが、その理由は路線の変更にある。このキャラクターは魅力的だからさらに路線変更して続けても良かったと思うが、同じ年に「蘇る金狼」、翌年に「野獣死すべし」と後年代表作とされる映画と巡り会っているので、松田優作が興味を無くしたのかもしれない。

ある廃屋の一室に監禁されている鳴海が、必死の脱出を図るところから始まる本作。その合間に昨夜の回想が挿入され、昨夜のバーで知り合ったピアニスト直子と過ごした帰路、何者かに拉致された事が判明する。本作は初っ端からハードボイルド色が全開。

鳴海は次々と襲いかかる敵を潜り抜けるが、出口の前で襲い掛かる敵に銃撃を浴びせても平気で捕らえられてしまう。彼を拉致したのは、特務機関で彼の手腕を試すテストだった。よくある展開だが、こいつら鳴海の右手を怪我させている。仕事を依頼するのに右手をケガさせてはいかんだろう。おかげで怪我が治るまで待つ羽目になったぞ。

青木義雄の渋さは見所の一つ

 

組織のボス藤田は、機関の秘密を知り過ぎた殺し屋岡島を殺すように命じる。依頼料でごたごたがあるがともかく仕事を引き受ける鳴海。岡島を追ううち、直子は鳴海を呼び出す囮だった事が判明。鳴海は、モーテルで直子と密会する岡島を狙撃した。

その後、藤田からスパイ容疑の大使館員で、某国大使館の要請で警視庁から移送車で護送される男、本庄の狙撃依頼が来る。「護送車はここで必ず止まる」と大見えを切る藤田だけにどんな手腕かと思えば、老人に化けた部下がよろよろと横断歩道を渡るという、子供だましのような方法に思わず失笑した。しかも計画は失敗は失敗。弾丸は移送車の運転手、時任を貫き即死、本庄は助かるがこの経緯が分かりにくい。もう一人、恐らく機関のスナイパーが潜んでいたがそれがバックアップ要員なのか。それとも鳴海に罪を擦り付けるための罠なのか。

その後機関員を捕らえ本部にやって来る鳴海。ここで機関対鳴海の壮絶な攻防戦が始まる。というのが大まかな粗筋。

無茶苦茶にわかりやすい罠に失笑してしまった

 

前2作は、コメディ要素とシリアス要素が絶妙に絡み合って、それが松田優作のカリスマ性と相まって観客を魅了していたが、本作ではそのコメディ要素をごっそりと切り取って、シリアス一辺倒としたが、それが失敗の原因であることは明らか。

これまでは、前半の鳴海はコミカルなお惚けキャラで、あくどい依頼人とも丁々発止のやり取りで、主導権を握る。というキャラで、後半依頼人に裏切られることで冷徹な殺人者に変貌し、それは鳴海の魅力となっていた。そして最後はお約束のギャグで終わっていたのだが、本作では終始シリアスでクールなキャラに変更されている。その為物語にタメや遊びが無くなり、終始息詰まるものとなっているが、面白さに繋がっていないのが致命的。

さすがに山本麟一がラスボスとはだれも思わない

 

そもそも悪役に魅力がない。山本麟一や佐藤慶に魅力が無いわけではなく、国家権力の側にいるのに何がやりたくて鳴海を雇ったのかはっきりしない。特に2度目の狙撃は、ちょっと間違えたら、黒幕が殺されかねないような状況を作り出したのは、何とも理解できない。主役にフォーカスしすぎて、他の事がおろそかになってしまったという印象だ。ヒロインのりりィも魅力があるとは言い難く、特に出演シーンの多くが回想シーンになっているのは問題。本作は全2作と違いお色気も抑えているし、女性への暴力もないが、ラストの自殺の強要はそれ以上にいただけない。

そうした中唯一良かったのは、森下愛子が演じるアンティークな時計店の主人。素直で可愛らしい雰囲気。そして鳴海に惹かれている様子だし、鳴海も彼女が気になっている様子だったが、結局それ以上はなかった。このすれ違い具合も良かった。いっそりりィを悪女にした方が収まりがついたと思う。

色々問題がありシリーズを終わらせる結果となった路線の変更だが、それは松田優作の「次は『サムライ』でやりたい」という一言が原因で、それ故主人公を寡黙でなキャラに変更することになったが、急な変更でバランスが悪くなったと思う。とは言え、この頃の松田優作は既に次の一手を見ていたようなので、本シリーズはいずれにせよ終わっていたかもしれない。