タイトル アナと雪の女王

公開年

2013年

監督

クリス・バック ジェニファー・リー

脚本

ジェニファー・リー

声優

クリスティン・ベル

制作国

アメリカ

 

本作について、今更説明する必要もないだろうが、2013年から翌年にかけて世界中で大ブームを巻き起こした、ディズニーにとって53作目の長編アニメーション映画となる。興行収入は12億ドルを超え、日本でも254億円と、規格外の大ヒットとなった。また、主題歌「レット・イット・ゴー」も、英語版に加え、全世界43の言語で歌われることになり、世界中で大ヒットした。

本作の原作はアンデルセンの「雪の女王」で、原作だと悪魔が作った鏡が刺さったことで、優しさを無くした少年を雪の女王が連れ去り、彼の幼馴染の少女が何年もかけて探し、ようやく発見したことで悪魔の呪いが解け、元の優しさを取り戻し雪の女王のもとを去るというもの。行方不明になった人を、少女が探し回ること以外は、ほぼ原形はない。この事から当初エルザがヴィランになる予定だったことは有名。しかし大幅にストーリーを変更し、これまでは王子のキスで魔法が解けることが多かったが、本作では姉妹愛を前面に出すことで、幅広い層で支持されることになった。その分割を食ったのが、ディズニープリンスにあたるハンス王子で、珍しくヴィランを務めることになる一方で、プリンスの立ち位置になるかと思われたクリストフも、アナと相思相愛ながらも本編では彼の恋愛はわきに追いやられることになる。もっとも、続編の「アナと雪の女王2」で紆余曲折の末結ばれるが。

現在でもその人気は根強く、2023年7月に「アナと雪の女王3」の製作が発表された。

映画は氷結した湖から氷を切り出す作業を幼い少年クリストフが、見よう見まねで作業を手伝っているところから始まる。

その頃お城では、王女のエルサとアナが遊んでいた。エルサは凍らせる不思議な力があったが、それ以外は優しい普通の女の子。その魔法の力を使ってアナと遊んでいたが、誤ってアナの頭に魔法が当たってしまう。両親の王と王妃は急いでトロールの長パピーの元を訪れ、魔法を解くことに成功する。しかし胸に当たったら命に係わる事から、アナからエルサの魔法の記憶を消し、エルサは魔法を封印しアナとは離れて暮らすことを進める。たまたまその現場を見た少年は、トロール達に気に入られ仲間になるのだった。

クリストフは、スカンジナヴィア半島等に住む先住民サーミ人という設定。狩猟や放牧を主とするいわゆる遊牧民だが、現在では都市への定住が進んでいる。

月日は経ちエルサは21歳。アナは18歳になる。すでに両親は他界し長女のエルサが王位を継ぎ女王となる事が決まっていた。今日はその戴冠式で、久しぶりに姉に会えるアナは、朝からうきうきして街に繰り出すが、その際サザンアイルズ王国の第13王子ハンスト出会い、意気投合してしまった。一方魔法の力は成長とともに大きくなり、もはやエルサにも制御できなくなっている。その為、エルサはみんなの前で魔法を使ってしまうことを恐れ、戴冠式も手短に済ませていた。久々にアナと会い喜ぶが、その席で急にハンストの婚約を告げられ逆上。うっかり魔法を使ってしまった。みんなの魔女を見るような視線に耐えられず、彼女は王宮を離れ山へ逃げていくのだった。ノースマウンテンにたどり着いたエルサはそこに魔法で氷の城を建て、自分を抑えつけるのをやめて独りで生きていく決意をする。

ここで歌われるのが、あの「レット・イット・ゴー」。それまで自分を押えて生きてきた彼女が、それを捨て去り自由に生きようと決意する姿を歌った歌だ。しかしそれは同時に、国民を苦しめることになるが彼女はその事を知らない。本作は自由には責任を伴う事を、ちゃんと描いている。

アナは後事をハンスに託すと、姉を追って山へ向かう。

アナに後事を任されたハンス王子だが、冒頭に書いたとおり彼は本作のヴィラン。彼はアナに接近しアレンデール王国乗っ取りを企んでいる。中盤までは、理想的な王子に見えただけに後半、本性を現してからのギャップが凄かった。陰謀が露見後、祖国に強制送還されるが、その後を描いた短編「アナと雪の女王 エルサのサプライズ」で、厩舎で馬の世話をしている姿が確認できる。他国でクーデターを企んだのだから、普通なら死刑になってもおかしくないだけに、温情判決と言えるかな?

アナはその過程でクリストフと知り合い同行。そして雪だるまのオラフと出会う。子供の頃、最後に二人で遊んだ時に作った雪だるまがオラフで、今回は2代目。エルサも覚えていたから、あの時の事は大切な思い出だったのだろう。

氷の城でようやくエルサと出会えたアナ。そこでアレンデール王国の実情を教えると、エルサは激しく動揺。エルサは魔法を解く方法を知らなかった。その際暴走しアナの胸に魔法を当ててしまう。更に、エルサが生み出したマシュマロウによってクリストフ、オラフと共に城から追い払われてしまう。

クリストフはアナを家族同様に過ごす、トロール達の村に連れていくが、長は「胸に当てた魔法解くには真実の愛が必要」といった。クリストフはアナを救うためにハンスに届けるべく城へと急ぐのだった。

その頃ハンスは、城の兵士たちを連れて氷の城に出向く。その中にはアレンデール王国を狙うウェーゼルトン国のウェーゼルトン公爵から密かにエルサの暗殺を命じられていた側近二人が入っていた。二人はエルサを襲うが何とか交わし、ハンスの手で気絶し城に連れ戻される。

城についたアナは、ハンスに事情を話し彼のキスを求めるが、ここでハンスは本性を現す。瀕死のアナを冷たい部屋に放置。そのうえで大臣たちにはアナがエルサに殺されたと告げ、エルサを死刑にすると決める。一方、クリストフだが、トナカイのスヴェンに叱咤されてアナへの思いを自覚。同時に城に怪しい雪嵐が迫っている事に気が付き、急ぎ城に戻るのだった。というのが大まかな粗筋。

本作はディズニー王道のように見えるが、「真実の愛」が姉妹愛だったり、王子様のキスが魔法を解く事が出来なかったり、結局アナは誰とも結ばれなかったり、昨今の多様性に配慮したような描写が見られるのが特徴。しかし、最近のポリコレと違い特定の人種や価値観に肩入れすることなく、万人が納得できる多様性を訴えているから、見ていて違和感を覚えることはないし、異常さも感じない。実際アナとエルサの真実の愛が「姉妹愛」ではなく「同性愛」だったら、炎上していただろう。

本作はそうした現代の価値観を、絶妙なバランスで配置しているからこそ、多くの人に愛される作品になった原因の一つだろう。ただ、そうした事よりも一番の原因は、魅力的なキャラクターにある。(本作では)ディズニープリンスになり損ねたクリストフやさりげなく彼を後押しするトナカイのスヴェン。トロール達に2面性を持ち屈折したヴィランのハンスなど、それぞれキャラが立っていて、魅力満載。忘れちゃならないのが、雪だるまのオラフ。終始とぼけた調子でムードメーカー。自分よりも相手を大事にする性格で、その為溶けかかったこともある。彼のひたむきさはアナとエルサが和解するきっかけとなった。余談だが、雪だるまは日本では2段が当たり前だが、彼を通して、欧米では雪だるまが3段であることを知った人は多いのではないだろうか。

そして、ダブル主演のアナとエルサ。対照的な性格の二人だが、特にエルサの造形が秀逸で、それゆえ妹と離れて暮らさざるを得ない、そうした苦悩や悲しみがきちんと描写してあり、それゆえ、いきなり妹から婚約を打ち明けられ爆発するところに、むしろエルサに同情してしまう。ここまではアナはちょっと「困ったちゃん」みたいだが、その後命に代えて姉を救おうとする姿に次第とアナにも感情移入するようになる。この「先にエルサ。続いてアナ」というバランスが、絶妙だ。

前述の通り「3」の製作が発表出され今から楽しみだ。ただ一つだけ非常に残念なのは、次だとアナの声が変わってしまうことだが。