タイトル 静かなる兇弾

公開年

1959年

監督

関川秀雄

脚本

鈴木岬一

主演

高倉健

制作国

日本

 

本作は、作家・菊村到の「不法所持」を映画化したもので、ベテラン刑事と新米刑事が、銃撃事件に使われた銃の行方を追う犯罪映画だ。作者の菊村到は元々読売新聞の記者だったが、1957年「硫黄島」の芥川賞受賞を機に読売新聞社を退職し、専業作家となる。ミステリーを執筆した理由は、江戸川乱歩に勧められたのが原因と言われる。ちなみに「不法所持」は第3回文學界新人賞を受賞している。

なんでもないカットだが、今見ると超豪華なメンツ!

 

いちゃつく若いカップルが盛り場でタクシーに乗ったら、運ちゃんが殺されていたという、衝撃的でかつコミカルな幕開けの本作。時代が変わっても、バカップルが事件の幕開けを告げるのは変わらない。

現場にやって来たのが牧主任を筆頭に野田巡査部長と田口刑事ら。鑑識から拳銃が日本では珍しいベルギー製だと告げられ困惑する一同。野田と田口は拳銃の不法所持者を探がした。野田はバー「テキサス」の踊り手カラミティのなじみ客の小林が、出所不明の拳銃を持っているということを聞き付ける。カラミティの協力で二人は張り込んだ結果、小林の逮捕に成功。しかし拳銃は夜の女のものだった。

久保菜穂子の妖艶かつ姉御肌なところは必見

 

田口啓二を高倉健が演じているが、この頃はまだ「網走番外地」で新境地を開く前。青臭いほどに若々しい、融通の利かない刑事を好演している。野田刑事はベテランの名優・志村喬。東宝畑の志村と東映の健さんが共演するのは珍しい。いかにもいぶし銀の志村喬と、高倉健の対比が面白かった。牧主任にはこれもベテランの神田隆。小林には山本麟一。そしてカラミティには久保菜穂子という豪華な顔触れ。

捜査は暗礁に乗り上げたが、娘の早苗とカトリック教会を訪れ、神父の佐藤から重大なヒントを得る。犯人は運転手かもしれない。実は早苗はこの教会で島岡技師と付き合い婚約をかわしていた。

佐藤神父には山村聰。早苗は中原ひとみ。島岡は今井俊二。今井は後に悪役として大ブレイクするが、この頃はまだ二枚目役で売っていた頃だ。後のすごみのある悪役を知っているから、この頃の今井を見ると笑いがこみあげてしまう。

その頃、金子というタクシー運転手がバーテンの水越を脅迫したという情報が入る。金子もカラミティの馴染み客だったことから、野田と田口は金子のアパートに踏み込むが、金子は小林から拳銃の密売を依頼されていたが応じなかっただけだという。野田は金子の名を使った男がいると直感。カギを握るのはやはり小林であると、彼を厳しく追及した結果、ついにタクシー運転手の倉井の名前が浮かび上がる。しかし、彼は意外な人物に拳銃を預けていた。というのが大まかな粗筋。

この頃の東映は中原ひとみのヒロイン率は高い

 

拳銃の所有者特定までの紆余曲折をスリリングに描いたドラマ。意外な人物からのヒントで、予想外の人物に罪が生まれるという展開に引きつけられる二転三転しつつも、じわじわと地道な捜査で犯人に迫る二人の刑事の姿や、最後に意外な人物が拳銃を所持していたところなど、皮肉が効いている。

何よりも本作最大の見どころは、後に名優と呼ばれることになる個性的な俳優たちの若き日の姿を見る事が出来るという事だ。高倉健を筆頭に、今井俊二、山本麟一、梅宮辰夫。また本当に目を凝らしてみていないと分からないところに、室田日出男が出ていたりするので、古い邦画ファンには応えられない。

左があんちゃんが梅宮辰夫

 

主役二人のキャラもしっかりとしているので、尺の短さもあって最後まで見せてくれる。この頃の邦画のレベルの高さを実感できる映画だが、終盤になって急に宗教色が出てくるのはどうにもいただけない。それさえなければ、もっとエンタメとして楽しめたのだが。