タイトル スターリングラード大進撃 ヒトラーの蒼き野望

公開年

2015年

監督

セルゲイ・ポポフ

脚本

エフゲニー・ニキショフ エマヌイユ・カザケヴィッチ

主演

ユーリー・ボリソフ

制作国

ロシア

 

この映画は、第2次世界大戦中の1942年にドイツ軍がソ連南部のコーカサス地方に猛攻を仕掛けた、所謂「ブラウ作戦」を背景に、銃殺刑を言い渡された若き赤軍将校と、その護衛役のカザフスタン人の兵士との奇妙な友情を描いた映画だ。

えらくたいそうな邦題だが、本作は有名なスターリングラードの戦いに至る過程を舞台としているものの、映画の主人公二人は進撃どころか終始後退しているし、「ヒトラーの蒼き野望」も全く意味不明だ。原題は「Doroga na Berlin(ベルリンへの道)」と、これもまた微妙なタイトル。1962年には同じプロップに基づき「草原の二人」として映画化されているが、このタイトルが一番しっくりくる。だからと言って駄作ではなく、むしろ非常に味わい深い映画だ。

人種も性格も立場も正反対の二人に次第に友情が...

 

映画は、主人公セルゲイ・オガルコフ中尉が命令を受領するために司令部に出頭するシーンから始まる。ドイツ軍が迫り後方でも、発狂した兵士を政治将校が射殺する等、混乱状態で若いゼルゲイは内心怯えていた。ようやく退却命令をもらい直ちに部隊に戻ろうとするが、道に迷ったところをドイツ軍に奇襲され這う這うの体で逃げ出す羽目になる。しかしこの事から命令の受領が遅れた彼の部隊は全滅し、軍法会議にかけられ死刑判決が出てしまう。このシーンは見る限り、不可抗力のように思えるが、誰かスケープゴードが必要だったのだろう。

ゼルゲイはカザフスタン出身のズラバエフに伴われ、営倉(と言っても農家の地下室みたいなところだが)に入れられてしまう。しかし、しばらくするとドイツ軍がやってきたからさあ大変。自分ならその場で逃げだすが、このズラバブエ。真面目というか融通が効かないというか、愚直にゼルゲイを連行して大隊本部に向かおうとする。中盤はこの珍道中がメインとなる。

最近のロシア映画によく登場する改造4号戦車

 

負傷した赤軍のパイロットを助け出し、包囲された友軍の決死の脱出作戦に加わり、敵の狙撃兵を倒し友軍を助けたり色々あったが、何とか後方にたどり着く。このシーンの前で、ゼルゲイは祖父の形見の時計で、補給部からズラバブエの為に軍靴を調達してやる。程度のいい軍靴は兵士たちにとって貴重品で、敵の死体から奪うことも珍しくなかった。この包囲網突破戦で二人は大きな武勲を立てて、指揮官から赤星勲章の推薦を受ける。この時、お互いの生存を確認しあった二人の表情が生き生きとしていて、感慨深いものがあった。

後方にたどり着いたゼルゲイは本部に出頭し、あわや銃殺されそうになるがズラバエフは、先ほどの戦闘でそこの隊長から発行されたゼルゲイの赤星勲章の推薦状を取り出して、何とか窮地を救う。

近くの農家に一泊した二人は、翌日ドイツ軍の砲撃によりズラバエフが戦死してしまう。彼を埋葬したゼルゲイは、その遺志を継ぐために大隊本部へ出頭しようとした。というのが大まかな粗筋。

これぞ邦題詐欺!としか言いようがない酷い邦題だが、それを除くと普通に良作で、派手な戦闘シーンこそないものの、とても味わい深くなっている。

独ソ戦初期の赤軍の簡素(というより粗末)な軍装や装備の様子がよくわかる。擦り切れて脱色したような軍服を着て、それでも忠実に任務を果たそうとするズラバエフの愚直には呆れるしかないが、一方のゼルゲイも何度も逃げ出すチャンスがあり、一回は逃げようとしながらも結局戻ってしまう様子がおかしい。これは現在のウクライナ戦争で愚直に命令に従って、バンザイアタックを繰り返し、夥しい戦死者の山を築くロシア軍に通じるのかもしれない。

背景にマチルダ戦車がいるがレンドリースでソ連に供与されている。描写が細かい

 

映画のラストでベルリンにたどり着いたゼルゲイが、包囲を突破し赤星勲章の推薦を受けた時の二人が映った写真が載っている新聞を手にして、沈痛な表情を浮かべるシーン。戦場で育んだ友情のはかなさと、彼への思いが交錯して思わず胸が熱くなる。

邦題に騙されて戦争超大作と錯覚して見ると、肩透かしを食らうが、戦場で一瞬だけ咲いた友情のはかなさを描いた映画として見ると、面白い映画だ。それに当時の赤軍の軍装や装備がよくわかるので、赤軍マニアにはたまらないかもしれない。アクションよりドラマ重視の人に向いていると思う。

劇中何度が言及される赤星勲章。受賞規定は、戦時及び平時におけるソ連の国防と社会安全の確保に大きく貢献した者。とされている。ちなみに、スホーイ設計局の設立者パーヴェル・スホーイも受賞している。