タイトル ゴルゴ13 九竜の首

公開年

1977年

監督

野田幸男

脚本

中島信昭 松本功

主演

千葉真一

制作国

日本・香港

 

さいとうたかをの代表作「ゴルゴ13」を実写映画化した作品で、高倉健主演の「ゴルゴ13」に続いて制作されたが、特に続編という訳でもなく主演は千葉真一に変えられている。原作の第32話「帰ってきた標的」、第55話「ANGRY WAVES」、第57話「キャサワリー」、第62話「九竜の餓狼」などが参考にされているが、ほぼオリジナルストーリーと言って良い。

アメリカ麻薬組織の代表の依頼を受けたゴルゴが、香港支部長暗殺のため、九竜に潜入し、香港から麻薬を一掃するべく命を賭ける捜査官スミニーと、対決する姿を描く。

映画の冒頭はなぶり殺しにされた香港警察の潜入捜査官が、香港湾に全裸死体となって浮かぶところから始まる。男の全裸死体なんて見たくもない。香港警察は麻薬の元締めとして有力者の周雷峰に目星を付けていたが、証拠が無くて手が出せないでいた。

その頃、マイアミではアメリカ最大の麻薬シンジケートのボス・ロッキーの元にゴルゴ13が現れる。ロッキーの乗ったクルーザーに海パン一丁で現れる千葉真一演じるデューク東郷。結構シュールだ。彼はシンジケートの香港支部長の周が麻薬を横流しにしているので、何人か刺客を送り込んでいるがことごとく返り討ちにされているので、ゴルゴに依頼したのだ。このロッキー。世界の麻薬シンジケートを束ねる立場なのに、ゴルゴの出現にうろたえまくり威厳もクソもない。

千葉ちゃんの肉体美アピールタイム!

 

香港警察のスミニーは、部下の林玲を潜入させ麻薬工場を、突き止めようとしている。首尾よく発見するが、逃走している最中に撃たれて捕らえられてしまう。その際、通信機をこっそり車の下に隠すが、こいつがとんだポンコツで翌日子供が拾って遊ぶまで全く場所を教えてくれない。

スミニーを演じるのが香港のスター・嘉倫。本作は彼が代表を務める嘉倫電影有限公司が制作にかかわっているので、本作では彼の出番が多く、ほとんど千葉ちゃんとダブル主演状態。もっともこの頃香港の映画界は、黒社会が牛耳っていたので、現地を知る者の協力は必須だ。一方、林玲を演じる志穂美悦子の出番は少なく、前半で殉職してしまう。珍しく超ミニスカートをはいているシーンがあったから、もっと見たかった。

周の情婦が経営するナイトクラブではポーラニア領事のポランスキーと娘のマリアを歓迎するパーティーが開かれ、そこにゴルゴも様子を探るため現れるが、帰りに江蘭が妹を売り飛ばして自殺に追い込んだ男を射殺する現場に遭遇し、何故かかばうゴルゴ。原作だと、こうした場合目立つ行動はしないと思うが、案の定この件でスミニーに目を付けられてしまう。

 

その後、ゴルゴは周がスポンサーとなるプール開きの式典で、彼を殺そうとするが、一足早く金髪の白人女に殺されてしまう。この事から周は下っ端で本当の黒幕は他にいることを悟ったゴルゴは、ロッキーから黒幕の処刑を依頼される。ここは本作最大の疑問点で、黒幕はゴルゴに周が狙われている事を知っているのだから、素直に彼に殺させ、しくじった場合の保険で自分の暗殺者を用意していれば、自分の存在を悟られずに済んだはず。

この頃の東映の狙撃銃は、大体このタイプ

 

一方、その本当の黒幕であるポランスキーは、アメリカへの亡命を考えて日本に渡り、京都でアメリカ大使館員と接触を図るが、既にゴルゴは彼が黒幕だと見抜いていた。というのが大まかな粗筋。

このポランスキーを演じているのはジェリ―伊藤。アメリカと接触するなら香港でも良さそうに思うし、わざわざ京都に出かけるのも不明。このシーンではスミニーの妹役で新藤恵美が登場しているが、出番はここだけですぐに分かれてしまう、完全な特別出演。多分彼女の出番を作るために、京都のシーンを入れたのだろう。また香港の調達役として、鶴田浩二が出ているが、どうも場違いな印象が強い。

どう見ても長年裏世界にいた凄腕調達屋に見えないんだが

 

前作は興行的には大成功と言えなかったが、どういう訳は東映は主演を千葉真一に変更。ハードボイルドなスナイパー物から、熱血空手アクションへ変更させて再チャレンジとなった。興行成績は不明だが、余り好評とは言えなかったようだ。それもそのはず、本作は前作に負けじ劣らず突っ込み所だらけ。中盤では刑事に追われたゴルゴが、香港の町中を香港名物2階建てバスに飛び乗り、窓から外に出て屋根に這い上がったかと思えば、交通標識に飛びつくなどゴルゴらしさのかけらもない。原作は熟読していたわけではないが、こうした場合ゴルゴはおとなしく捕まるはず。原作だと、ごく限られた人しか彼の存在を知らず、一切の証拠を残さないから国際指名手配はされていない。したがって捕まっても、釈放するしかない。本作を見ると、前作以上に「ゴルゴ13」からかけ離れ、完全に千葉真一空手映画になっている。

似てるっちゃ似てるが、似てないっちゃ似てない

 

ちなみにさいとうたかをは、主演の千葉真一について「ハードなアクションのため日々トレーニングを欠かさない姿勢は、テリトリーこそ違え、常に狙撃のために訓練をするゴルゴが持つ高い職業意識と深い共通性をみた」と絶賛するも、映画に関してはほとんど言及していない。その後、「ゴルゴ13」の実写化が途絶えたところを見ると、もうこりごりというのが本音だろう。