タイトル レンフィールド

公開年

2023年

監督

クリス・マッケイ

脚本

ライアン・リドリー

主演

ニコラス・ホルト

制作国

アメリカ

 

本作は、ブラム・ストーカーの1897年の小説「吸血鬼ドラキュラ」の登場人物・レンフィールドをフィーチャーしたロバート・カークマンのオリジナルのアイデアに基づいて、ライアン・リドリー脚本、クリス・マッケイが監督するホラーコメディ映画だ。

主人公のレンフィールドは原作の中盤あたりから登場し、ジャック・セワードが院長を務める精神病院の患者。蝿、蜘蛛、鳥などを食べ、ドラキュラ伯爵の下僕となって暗躍する人物だ。原作で重要な役割を果たしているのだが、映像化作品だと扱いが悪く、他の人物に置き換えられたり、丸ごとカットされている事も多い不憫なキャラ。それをメインに据え、さらにドラキュラ伯爵との関係をパワハラ、モラハラ、DVなどになぞらえて、今流行りの多様性にも配慮し、そのすべてをギャクで包み込むといった神業的な映画だ。

90年前の映画に違和感なくなじむニコラス・ケイジ

 

映画の冒頭で主人公のレンフィールドがDV被害者のセラピーで、他の被害者の話を神妙に聞いているところから始まる。その後、レンフィールドの回想に移り、ドラキュラ伯爵との出会いから、日光に当たったことから大やけどを負った伯爵を助ける為に、レンフィールドが食糧調達(つまり人さらい)をしながらアメリカのニュー・オーリンズに流れ着くまでが描かれる。ちなみに本作での人物設定は「魔人ドラキュラ」が踏襲され、レンフィールドは原作の冒頭部分のジョナサン・ハーカーとレンフィールドの、二人の設定が組み合わされている。

初登場時のドラキュラ伯爵。”深き者ども”と言われても違和感ない

 

伯爵の為食料到達にいそしむレンフィールドだが、良心がとがめる為セラピーに参加しているDV被害者の相手を食料に選ぶが、善良な人でないと傷の直りが悪いので伯爵はお冠。「幸せな夫婦、少しの修道女、バス1台分のチア・ガールがいれば、傷などすぐ治る」とのことだ。仕方なくレストランにまた調達に出向くが、そこには「幸せな夫婦、少しの修道女、バス1台分のチア・ガール」がいるというお約束の展開。だがレンフィールドが行動を起こす前に、交通巡査のレベッカがやって来る。彼女の父は有名な刑事だったが、地元のマフィア・ロボ・ファミリーに殺され復讐心に燃えていて、何度かロボ・ファミリーを捕らえてもその都度証拠不十分で釈放されてしまい嫌気がさしている。ボスの息子テディを捕らえたが、釈放され何とか証拠を得ようとここにやって来たのだ。そこにテディが仕返しの為にやってきてレベッカを捕らえ、射殺しようとした刹那、レンフィールドが虫を食べて覚醒。レベッカを救う。

原作でもレンフィールドは、虫を食べるという設定だったが、本作では一歩進めて虫を食べると、超人的な力が出ることになっている。この辺りも今何かと話題の昆虫食を絡めたのかは不明。

虫を食べれば百人力!

 

テディは這う這うの体で逃げ出すが、この件でレンフィールドとレベッカに好意を寄せあう様になる。そしてレンフィールドの中に伯爵への反抗が芽生え、別に部屋を借り距離を置こうと考える。

テディはレンフィールドの住処を見つけ部下を率いて急襲するが、当然ながらそこにいたのはドラキュラ伯爵。一瞬で部下たちを皆殺しにするが、テディがファミリーボスの息子だと知り、世界征服の為手を組むことにする。またレンフィールドの裏切りを知り、手始めにセラピー参加者を皆殺しにし、その罪をレンフィールドに着せる。警察首脳がロボ・ファミリーとずぶずぶであることも判明し、レベッカにも魔の手が伸びるのだった。というのが大まかな粗筋。

イケオジになってみカッコいい!

 

パワハラ、モラハラなど現在社会問題となっている要素を、ドラキュラと下僕の関係になぞらえているのが本作の特徴で、だからといって社会派を気取る気などさらさらなく、笑いとグロで包み込んでいる生粋のエンタメ映画。ヒロインをアジア系にすることで一応多様性にも配慮している。

しかし、なんといっても本作最大の魅力は、ニコラス・ケイジが演じるドラキュラ伯爵。下僕が自分に従うことは当然と考え、ちょっとでも逆らうと怒り狂う。冒頭のシーンを含め、かなりベラ・ルゴシを意識して演じているのがよくわかり、エキセントリックなしぐさでパワハラ伯爵を見事に演じている。正直言って、(一応)主役二人のぎこちない恋の道行きなんてさらさら興味がなく、ドラキュラ伯爵とギャングの母子だけ思いっきり没入してしまった。冒頭の伏線をラストで回収するのもいい。ただし、この映画も最近のニコラス・ケイジ主演作の例に漏れず爆死したようだ。そのせいか、日本では劇場公開されず円盤スルーとなった。観客からは好評だったので見た人は面白かったが、興味を示す人が少なかったのだろうか。それともニコラス・ケイジと聞いただけで興味を無くすようになっているのか。最近の彼の主演作は結構良作が多いだけにちょっと残念。