タイトル サンゲリア

公開年

1979年

監督

ルチオ・フルチ

脚本

エリザ・ブリガンティ

主演

イアン・マカロック

制作国

イタリア

 

本作はジョージ・A・ロメロ監督作「ゾンビ」の大ヒットを受けて製作されたゾンビ亜流映画の一つ。邦題の「サンゲリア」は流血を意味するイタリア語Sangueと当時大ヒットしたサスペンス・ホラー映画「サスペリア」を合わせた造語で、配給の東宝東和がつけたモノ。ちなみに原題は「ZOMBIE」あるいは「ZOMBIE2」で「ゾンビ」の国際タイトルから流用している。この件で「ゾンビ」の製作にかかわったダリオ・アルジェントから苦言が呈されたが、意にかえさなかったという。

1988年に「サンゲリア2(原題ZOMBIE3)」という映画が作られているが、本作の続編ではないどころか、一応フルチが監督とクレジットされているものの、本人はロケ地のフィリピンが合わなかったらしく病を得て降板。ヴィンセント・ドーンが完成させたがフルチは気に入らず「あれは俺のじゃない」と言い続けていたとか。ちなみにヴィンセント・ドーンは本名ブルーノ・マッテイ。多数の名義で様々なB級映画を撮っている事で有名。

酷く肥満体のゾンビ。いったい誰だったのだろう

 

映画の冒頭で暗がりの中、白い布で包まれた遺体らしきものの頭を、拳銃でズドンとするメナード医師。その後舞台はニューヨークに移り、1隻のヨットが漂着。警官が乗り込み調査すると、船内は散乱していて食べ物は腐敗している。突然船室の奥から大柄のゾンビが出現し、一人の警官を食い殺しもう一人に襲い掛かるが銃で撃たれ、海に転げ落ちた。しかし、頭を撃っていないから多分生きて?いるはず。

クルーザーの持ち主ボールズの娘アンは、行方不明となっていた父の行方を探すため、クルーザーに侵入し新聞記者のピーターと出会い、父がカリブ海に浮かぶマトゥール島にいることが判明。二人で現地に飛ぶが現地ではマトゥール島は忌み嫌われ、誰も連れて行ってくれない。たまたま近くをクルージングする予定のブライアンとスーザンの乗る船に便乗させてもらうことに成功。

ここでスーザン演じるアウレッタ・ゲイが、トップレスの上極小のヒモパン一丁で海に潜り、ゾンビと遭遇する有名なシーンがあるが、彼女は本当は泳げないのだとか。

リアルで見た時、ゾンビの出現よりドキドキした

 

この時鮫にぶつかったことから故障し、クルーザーは何とかマトゥール島にたどり着くが、そこは異様な現象が起こっていた。島の唯一の医師メナードによると島では奇怪な伝染病が広がり多くの島民が命を落としていたが、この病気は死んだ数時間後に生き返り人肉を求めて動き出すというのだ。助手のルーカスに看護師のミッセイとともに原因究明に取り組んでいたが、いまだ何の成果もなく唯一の対処法は、動き出す時銃で頭を撃つことだった。更に島内には、ブードゥー教徒が叩く楽器の音が響き渡っている。

劇中でこのブードゥーの音楽が、ゾンビを生み出しているのか沈めようとしているのかは不明だが、時系列から考えて最初の死者が蘇る現象は疫病。それを沈めようとブードゥーに縋った結果、さらに古い死者まで蘇ったという解釈も成り立つ。

半信半疑の一行だったが、メナード医師の家でゾンビに襲われた妻のポーラが殺され、その肉を貪り食われている姿を目撃。診療所に帰る途中で、ゾンビをはねた事から車は大破。途中で遭遇した400年前のスペイン人達の墓場で、腐敗し体中にミミズを這わせたおぞましい死体が蘇る姿を見ることになる。

ポーラを演じているオルガ・カルラトスはギリシャ出身の女優。1985年に再びフルチとタッグを組み「マーダロック」に主演することになる。本作でも見事なヌードを披露しているが、「マーダロック」でもアラフォーとは思えない見事な肢体を披露している。なお、本人は既に女優を辞めバミューダで弁護士として働いているという。本作で生きたままとげが目に突き刺さるシーンは、その後多数の映画で亜流を生むことになる。

途中でスーザンを失いながらも診療所のたどり着いた一行。しかしそこは既に大勢のゾンビに取り囲まれていた。というのが大まかな粗筋。

目を刺されるシーンはその後、様々な亜流を生むことに

 

本作の特徴とは、登場するゾンビの造形にある。「ゾンビ」「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」のように顔色や目つきが悪いだけでなく、特殊メイクでリアルに醜く腐乱し蛆虫やミミズがのたうつ薄気味悪さを描写。それが、コアなファンの心に刺さることになる。本作で特殊メイクを担当したデ・ロッシは名声を高め、その後、「地獄の門」「ビヨンド」「墓地裏の家」等でフルチと主に仕事を続ける事になる。

やったもん勝ちとばかりに、これでもかとゴア描写を詰め込み、かつエロ要素もある本作だが、この後フルチは分けて描くようになる。「ビヨンド」「地獄の門」「墓場裏の家」等では、ゴアのてんこ盛りだが、エロ要素が多い「マーダロック」「イノセント・ドール虜」ではゴア描写は控えめとなる。この心境の変化の理由は不明だが、その後のホラー映画は「13日の金曜日」等で両者が切っても切れない関係になっていくのと好対照なのは面白い。

色々な意味で、その後のフルチの活躍を決定づけたと言ってもいい本作だが、前年にマカロニウェスタンの良作「シルバー・サドル 新・復讐の用心棒」を撮っているから、守備範囲はとてつもなく広かったといえる。他のジャンルに挑戦していれば、違った意味で映画史の名を残せたと思う。それが良かったのかは分からないが。