タイトル T-34 ナチスが恐れた最強戦車

公開年

2018年

監督

キム・ドゥルーチニン

脚本

アンドレー・ナザロフ

主演

アンドレイ・メルズリキン

制作国

ロシア

 

本作は、第2次世界大戦で圧倒的な強さを誇ったソ連の主力戦車T-34を巡る攻防を描いた戦争アクション。映画の冒頭で「実話を基にする」という、訳ありな書き方がされている通り、1940年4月と5月にハリコフの工場から、モスクワまでの2000キロメートルの走行試験を行って、クレムリンの指導者たちに披露した。その後フィンランドのマンネルハイム線まで行ったものの、既に冬戦争は終わっていたので、ミンスクとキエフを経由してハリコフに戻った話が、一応ベースとなっている。この平凡なエピソードに、山にこもる盗賊団やロシア国内で跋扈するドイツのスパイ。そして事情を知らない赤軍の阻止行動など、様々なフィクションを盛りに盛って、痛快なアクション映画を作る当りロシア映画界の実力は侮れない。昔からだが、ロシアはプロパガンダ映画を作るのがうまい。それもプロパガンダと感じさせない様に作るのが。

なお本文中のウクライナの地名は、当時の表記に従っている。

ノモンハン事件のシーン。

 

映画の冒頭はノモンハン事件。おびただしいソ連のBT戦車の残骸が横たわる中、ジューコフが戦車の装甲のなさを嘆いている。かつてノモンハン事件は日本の大惨敗という評価だったが、ソ連邦崩壊後の極秘文書の公開でソ連軍の損害が日本軍を上回っている事が明らかとなった。特に日本の対戦車兵器はこの頃はそれなりに有効だったようだ。だからと言って日本が勝ったというのは言い過ぎで、引き分けと言った辺りが正しいだろう。

翌1940年、ハリコフの戦車工場で完成した新型戦車を、モスクワで開催される軍事パレードで披露しようとしていたが、突然鉄道輸送が取りやめられる。鉄道が駄目なら自走ならいいだろうという訳で、コーシュキンはジューコフに掛け合い、許可をもらう。

コーシュキンの他設計にあたった技師たちと、政治将校のピョートルが同行するが、装甲の技術者リディアだけは女だからという理由で同行が許されない。特にピョートルは猛反対するが、実は彼女に惚れていて危険な目にあわせたくないというのが本音。最近の政治将校は人間臭く描かれることが多い。

なんやかんやあって出発するが、破壊工作の手は伸びていてそれを見つけたのは黙ってついて来ていたリディア。おかげでトラックが爆散し、彼女は他の一人とともに残されてしまう。

そのあと山に潜む盗賊団に襲われ、リディアが人質にされて捕らえられてしまう。この盗賊団がハリコフからモスクワまでの幹線道路沿いに、スターリン治世下で生き延びられた理由が知りたい。そこにドイツの工作員による襲撃があるが、戦車を動かして何とか撃退。燃料補給をする事が出来て、モスクワへ急ぐ。予備の燃料タンクに空いた弾痕をありあわせの物で塞いでいる所が、いかにもロシアらしい。

一目会ったその日から、恋の花咲くこともある

 

工作員が全滅したので、新たな部隊を投入するドイツ軍。この頃のロシアには、そこら中ドイツの工作員だらけだったのだろうか。しかし、作業中に事情を知らない赤軍に包囲され。あわやのところで去っていく工作員。その後、対戦車砲を跳ね返してT-34はモスクワへ向かう。このシーンはよく見ると、側面から撃っているので当時の対戦車砲でも、貫通すると思うのだが...?果たして彼らは無事期日までにモスクワに到達出来るのだろうか。というのが大まかな粗筋だが、実はナチスの工作員や盗賊団以外のトラブルは、すべてジューコフが仕組んだもの、という落ちがある。これを利用して新型戦車の実戦試験もしようと企んでいたようだ。流石ジューコフ。腹黒い。

本作の主人公ミハイル・コーシュキンは実在で、本当にT-34戦車の主任設計士として活躍。映画の舞台となった頃は42歳とまだ若かったが、激務がたたったのか同年9月に病死している。最近ロシア戦車に対する信頼は地に落ちているが、このT-34はガチで優秀。バルバロッサ作戦でT-34の事が伝わると、ドイツ機甲部隊の父グデーリアンは「そんな戦車を露助どもが作れるはずない」と容易に信じようとしなかったが、捕獲した実物が運ばれると絶句したと伝わっている。

無事モスクワに到着。真ん中の口髭の男は...言うまでもないか

 

その優秀さと生産性の高さから、ドイツはフルコピーしようとしたが、搭載しているディーゼルエンジンがどうしても作れず、断念したという。「ナチスの科学は世界一チイイイイ!!」と信じて疑わない御仁には聴きたくない話だろうが。

また操縦は簡単で、実際に工場からの運搬は、女子工員が操縦していた。流石にティーガーには勝てなかったが、43年以降は改良されパンター程度なら十分に闘えた。ただ、やはり乗員の練度もあって、苦戦することが多かったようだ。またこれはソ連系の戦車全般に言えるのだが、俯角と仰角に制限があり、起伏のある地形だと苦戦したようだ。

こうしたサービスカットを欠かさないのもロシア映画のいいところ?

 

本作は、ゴリゴリのプロパガンダ映画になるところを、政治将校のピョートル中尉(字幕だと少尉になっていたが、正しくは中尉)と装甲の技術者リディアとのラヴ・ストーリと、内部にいる裏切り者の正体など、見せ場を用意してエンターテインメントとして見どころもちゃんと用意している。また、みんな大好き東欧美女のサービスカットもある。こうした細かな心遣いが出来るところは、ロシア映画界は侮れない。軍隊も少しはこの細心さを見習えば、あれほど苦戦することもなかっただろうに。もっともこれはトップの横やりのせいかもしれないが。