タイトル 怪談昇り竜

公開年

1970年

監督

石井輝男

脚本

石井輝男 曽根義忠

主演

梶芽衣子

制作国

日本

 

本作は、怪談と任侠映画を強引に融合させ、更にエロチシズムを加えたいかにも石井輝男らしい怪作映画だが、タイトルの「怪談~」がついているものの、あくまで主人公が化け猫の呪いと思い込んでいるだけで、ホラー要素はなく純然たる任侠映画だ。日活のドル箱シリーズだった女剣客による「昇り龍シリーズ」の1本として企画されたが、翌年にはロマンポルノ路線を始めているので、その過渡期の映画と言える。それだけにエログロ色は濃いめだが、本作を見るとそうした要素はほとんど記憶に残らなかった。

憎たらしい悪役が18番の安倍徹

 

本来「昇り龍シリーズ」の主役扇ひろこで撮られる予定だったが、スキャンダルの為降板。その代わり抜擢されたのが、梶芽衣子だったが、本作で最も印象に残るのは、その梶芽衣子。立ち廻りには未熟さを感じるし、ところどころ目をつぶって刀を振るっているシーンもあるが、それがささいな事に思える程、本作の梶芽衣子は輝いている。

 

映画は、豪雨の中関東立花一家二代目、立花明美が出入りの最中に剛田組組長・加原武門の妹の目を斬り盲目するところから始まる。この出入りのシーンの迫力と映像美は見事。梶を始め立花一家のメンツが並ぶと、刺青が竜になっている演出はむっちゃカッコいい。

その時、妹の血を舐める黒猫の姿が刑務所でも忘れられない明美。刑期を終えて出所した明美は、山高帽の兄が縄張りを荒らすことに苦慮していたが、流れ者のやくざ谷が現れその場は収まった。実は山高帽を操っているのは土橋組組長だった。そんなある日、盲目の女剣客、剛田藍子が山高組に客人として迎えられた。

だいたいの観客が察している通り、藍子は明美が盲目にした加原の妹。明美に復讐の機会をうかがって土橋に近づくが、彼らの悪辣さに次第に嫌気がさすことになる。

藍子を演じているのがホキ徳田。本来ピアニストで歌手だが女優もこなしていた。もっともホキ徳田で一番有名なのはアメリカの作家、ヘンリー・ミラーの8番目の妻としてだろう。

山高帽を演じているのが内田良平。上半身は山高帽以下、洋装で決めているのに下半身は赤フン1枚という一度見たら忘れられないいでたち。しかもふんどしは履きっぱなしなのか、相当匂うらしい。内田のキャリアで、ここまで奇妙な恰好なのは他にないのではないか?

内田良平の艶姿?この頃の役者は大変だ

 

刑務所仲間の女囚たちが明美を慕ってやってくる。彼女らは全員で一続きになる龍の彫り物を入れていた。冒頭で披露された彫り物をそっくりまねたわけだ。

土橋は明美の腹心の達も仲間に引き込み、あの手この手で明美を揺さぶる。尋常な手段では動じない彼女だが、猫の呪いに引っ掛けたような揺さぶりにはもろく、土橋の策略で阿片密売の疑いをかけられ、ついに組を解散して土橋にシマを乗っ取られてしまった。

そんな中、明美の叔父の丈太郎は娘の恵と谷から、阿片の件は土橋の仕込みと知らされ、明美に伝えようとするが、恵を達らに誘拐されさらに殺されてしまう。

丈太郎を演じているのが名優加藤嘉。本来は嵐寛寿郎を予定していたが、病気の為の交代。最後はかなり笑える死にざまをさらすが、この頃の俳優さんは大変だ。

すべてを知った明美は、谷を始め生き残った刑務所仲間とともに土橋の許へ急ぐのだった。というのが大まかな粗筋。

喜怒哀楽と、どの表情も魅力的。本作は梶芽衣子を愛でる映画

 

前述の通り制作前からトラブルに見舞われた本作だが、いかにも石井輝男らしいカルト臭漂う任侠映画の怪作に仕上がった。前年に石井は「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」を撮っており次第にカルト、そしてポルノへ傾倒する過渡期の映画と言って良いと思う。そうしたカルト要素ばかりでなく、凝りに凝った構図や。ラストのホキ徳田との一騎打ちで梶の背後に渦巻き模様の雲が浮かぶところなど、映像美も見逃せない。その一方で、ストーリはノリで突っ走っているところもあるが、石井輝男の映画からノリを取ったらつまらなくなるので、細かいところは気にしちゃいけない。横一列に並ぶと刺青が竜になるところなど、一歩間違えるとギャグになりかねないが、それをかっこよく撮れるのがこの頃の石井輝男だ。そして、梶芽衣子様の美しさはもう語り尽くせない。どのカットを見ても絵になるのだから、ファンにとってはたまらない。公開時で23歳だから、撮影時は二十歳そこそこだったはず。その若さであの目力にあの演技がやれるのだから、この頃の日本映画界の層の厚さは恐ろしい。Amazonプライムの見放題にある様なのでぜひとも映画を見てほしい。

思いを寄せる相手は...

 

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