タイトル 美女と野獣(2014年フランス版)

公開年

2014年

監督

クリストフ・ガンズ

脚本

クリストフ・ガンズ サンドラ・ヴォ=アン

主演

ヴァンサン・カッセル

制作国

フランス

 

本作は、ディズニーアニメで広く知られる恋愛ファンタジーの名作「美女と野獣」を、本国フランスで実写映画化したもの。映画の説明を読むと、「1740年に初めて書かれたビルヌーヴ夫人版の物語をもとにフランスで実写映画化」と書かれている事が多いが、登場人物が簡素化され、また野獣になった経緯がほぼオリジナルストーリーである点など、ボーモン版を準拠しているほかに、1991年のディズニーによるアニメ版の影響もみられる。

クリストフ・ガンズ監督は宮崎駿から影響を受けたと告白し、ラストは「大魔神怒る」の影響を受けるなど日本映画との親和性が高い。そのせいもあってか、日本でフランス映画としては異例の10億円を超えるヒットを記録し、「金曜ロードSHOW!」等地上波のテレビでも放送された。

映画の冒頭は、母親が3人の子供たちを寝かしつけるために物語を読み聞かせるところから始まる。以下は、母親が語った物語。勘のいい人は、ここで母親の正体は察することが出来るだろう。

前半はほぼ、原作と同じでディズニー版との違いは、兄が3人と双子の姉がいること。一番下の兄を除き、兄弟姉妹はいずれも程度の違いはあれど浪費家。そこから一転貧乏暮らしが始まり不平不満だらけの兄たちと違い、ベルはせっせと働く。

その後諦めていた船が1隻見つかり喜び勇んで港に出かけるが、なんやかんやあって借金の方で抑えられ、長男のマキシムが借金していたペルデュカスに脅され這う這うの体で逃げ、野獣の城に逃げ込むが、一凛のバラを手折ったことから殺されそうになるが、家族との別れに1日やるという野獣の暖かい思いやり?に家まで帰れたが、ベルは父の身代わりになる為古城に向かうのという展開や、古城に着いたベルの前に、野獣は何ら危害を加えず、贅沢三昧に暮らさせるというとこなど、ここまではほぼボーモン版と一緒。ただここからオリジナル要素が入ってくる。なお、本作ではディズニー版の様に燭台やポットが動いたり喋ったりはしない。その代わり鳥やミンクに似た小動物が登場し、ベルの相手をするが喋ったりはしない。

話の合間でまだ野獣が人間だった事の物語が挿入される

 

その夜ベルは夢の中で、古城の主だった王子と婚約者の妃の夢を見る。そして妃の墓を見る。ここから王子が野獣になった理由が、ベルの夢という形で挿入されるようになる。

翌日、ベルは、そこで夢の中で見た妃の墓を見つけたベルは、正夢であることを確信。夢の真相と野獣の正体に興味が湧き次第に野獣に惹かれていく。一方の野獣もベルの優しさに好意を抱くようになる。そんなある日、ベルは野獣に「家族に一目会いたい」と懇願し、1日だけ家族の元に戻る許可を与え、万が一のためとして魔法の水を持たせる。

個性派なのでベル(美人)という役は合わない気がしたが、見事なまでのはまりっぷり

 

家では父が病に侵されていた。献身的に看護するベルをよそに、マキシムとバチストはベルがつけていた高価な宝石に目がくらみ、途中で遭遇したペルデュカスと野獣の古城を襲う計画を立てる。古城を急襲した一行は、宝石や豪華な調度品を強奪する。

看護するベルは、再び野獣の夢を見る。野獣が王子だったころ、借りで見事な雌鹿を射止めるが、それは妃だった。妃は元々森の精の娘だったが、王子に恋をして人間に姿を変えてもらったのだった。その為、狩り好きの王子に「雌鹿だけは殺さないで」と頼み、王子も受け入れていたが、この日は鹿の見事さにすっかり忘れていたのだった。悲しみに暮れる王子を、父親の森の精が罰を下し彼を野獣に変えたのだった。

流石フランス映画。こうしたサービスは欠かさない

 

目を覚ましたベルは野獣が持たせた魔法の水を思い出し、父に飲ませるとあっという間に病気が快癒する。姉たちと喜ぶベルだったが、唯一姦計に加わらなかったトリスタンがベルに野獣の危機を知らせ、二人で古城へ向かう。

略奪を終え意気揚々と引き返す一行だったが、ついに野獣の怒りが爆発。巨大な石像に変えられたかつての衛兵たちを蘇らせると、一行を襲う。突然出現する巨大石像にパニックに陥る一行は我先に逃げ出し、石造の矛先はベルの二人の兄にも向けられるのだった。というのが大まかな粗筋。これも今更ネタバレもなく、この後で瀕死の重傷を負い、命が尽きようとした野獣にベルは「愛している」と告白。大団円を迎えることになる。最後に、冒頭の母親の正体がベルである事が明かされ、その後の王子と父親が平和に過ごしている事が明かされラストを迎える。なお、終盤の見せ場、巨大石像の襲撃は前述の通り「大魔神」にインスパイアされて描かれている。

このシーンの元ネタはアニメ版「ジャイアント・ロボ」ではないだろうか?

 

これまでベルに焦点が当てられ、余り深堀されなかった野獣にスポットを当てたのが本作。何か悪事を働いて罰で野獣にされたと思われがちだが、本作の野獣は狩りで得物を取る事以外特に悪い事はしてないし、妃の事も真剣に愛し、妃を死に至らしめたのも不可抗力だ。

ただ、娘の死を嘆き、殺した王子に罰を与えようという森の精の気持ちも分からなくはない。いわば、双方に正義がある状態。ここで悪役はいない。ただそれだけでは盛り上がらないので、ベルの二人の兄とペルデュカスが設定された。特にペルデュカスがディズニー版のガストンに相当するキャラで、本作の悪事を一手に行き受けるのだが、ヴィランとしては線が細くて、極悪非道さが足りない様に感じた。もっと太々しさを出すべきだったと思う。

大魔神、怒る!

 

ベルにレア・セドゥというのは、見る前はちょっと違うように感じたが、いったん映画に入るとベルにしか見えないほどドはまりっぷり。彼女の演技力なしに、本作のベルは生を受けなかっただろう。

野獣役のヴァンサン・カッセルは、過去の野獣役で最も長い間素顔を出した俳優(多分)。それだけに彼の持つ演技力と、スターとしての華やかさはぜひとも必須だった。

ディズニー版を意識しすぎたのか、ちょっと疑問を感じるシーンもなくはない。特に中盤でベルが、野獣の正体を知る展開は一応原作通りなのだが、それだとベルが本当に野獣の内面に惹かれたのか疑問が残る。ただ、いくら内面が良くてもあんな化け物を、本気で愛せる女性がいるとは思えないので、これは良しとすべきなのかもしれない。これからも分かるとおり、本作はディズニー版の影響を受けつつも、ほぼ完ぺきな原作の映画化となる。キャラはいずれも魅力的だし、俳優たちの演技もハマり切っている。何よりフランス語でのセリフは心地いい。ディズニー版もいいけど、こちらも引けを取らない名作だと思う。