タイトル 食人族 4Kリマスター無修正完全版

公開年

1980年

監督

ルッジェロ・デオダート

脚本

ジャンフランコ・クレリチ

主演

ロバート・カーマン

制作国

イタリア

 

イタリアの鬼才ルッジェロ・デオダートが、食人族の恐怖をモキュメンタリー形式で描いたホラー映画。焼却を命じられたフィルムが流出されたという、この手の映画にありがちな設定で、ドキュメンタリー映画調に構成されたフィクション、所謂モキュメンタリー映画である。

本作を見たマカロニ・ウェスタンの巨匠セルジオ・レオーネは「この作品でデオダートは間違いなく名声を得るが、同時にさまざまなトラブルに巻き込まれるだろう」と語った。その予言は的中し、配給側が意図的にスナッフフィルムのように宣伝したため、実際に起こった事件だと誤解する観客が続出し、後で関係者にさまざまな影響を与えることになった。特に監督のデオダートは「カニバル監督」と有り難くない呼称で呼ばれることになる。

ちなみに原題は「Cannibal Holocaust(人食いホロコースト)」と、非常にわかりやすいタイトル。

かつてリアルで見て以来、VHSも円盤も手にすることはなく、個人的に封印していた作品だ。そして私にカニバリズム映画への、強烈なトラウマを与えた映画でもある。今でも作り物と分かっていてもカニバリズム映画は苦手で、「グリーン・インフェルノ」も後半は顔をそむけることが多かった。約40年ぶりの鑑賞となったが、割と普通に見る事が出来たのは意外だった。それと同時に、本作の前半から中盤にかけては、すっかり忘れていた事に気が付いた。

今回は結末まで描いている。冒頭で撮影隊の末路は描かれているから問題ないと判断したからだが、気になる方はブラウザバックして欲しい。

スナッフフィルムという噂が立ったが、半分は事実で動物は本当に殺している

無修正だから当然男も...

 

本作の構成は3部に分かれている。まず、ニューヨーク大学のモンロー教授がアランを始め行方不明となった撮影隊のクルーの捜索するパート。

チャコとミゲル、そしてガイドの原住民が協力するが、ここで何とかヤクモ族と接触できるが、撮影隊の事で彼らからは激しい敵意を向けられる。このパートは、教授らの努力で少しずつ彼らの信頼を勝ち得て、フィルムの回収に成功するまでが描かれている。原住民から向けられる敵意が描かれるが、一方で人食いの原住民も、誰彼構わず襲うような野蛮人でなく、逆に臆病で繊細な事が描かれるから、何をしたらあのような悲惨な最期になるのかという、問いかけとなっている。

モンロー教授を演じるロバート・カーマンはアメリカの俳優。当初はポルノ映画が主だったが、70年代末から80年代にかけては、イタリアのホラー映画に出演していた。本作もそうした流れで出演したもの。

フィルムを再生すると、驚愕の映像が

 

次は、ニューヨークに戻った教授が、テレビ局でフィルムの再生作業に立ち会う部分。

教授は、回収したフィルムを放送する番組の司会を依頼される。快諾するも、事前にフィルムを見せるように要求。その中でアラン達は実は過激な映像を撮るため、やらせを乱発していた事を知る。そしてアランを知る人は、彼の事を口汚くののしり、かなり問題児であることも判明する。

やりたい放題の撮影隊。果たして文明人の定義とは

 

終盤は、いよいよ再生されたフィルムを教授やテレビ局スタッフが鑑賞するパートだ。

そして予告編で散々流れた映像は、ここからとなるが、その中にも教授とテレビ局員とのやり取りが途中で挟まり、あの映像はかなり短い事が分かる。かの有名な立ったままの出産や、串刺しにされた女の映像はすべてここに集約されている。ちなみに立ったままの出産は、原住民の妊婦を立たせ、カメラがパンしたすきに素早く人形が出されると言うもの。また、口から杭を出した串刺しにされた女は、杭に自転車のサドルを乗せて女を座らせ、発泡スチロールの杭を銜えていると言うもの。種を明かせば他愛ないが、それをリアリティあるシーンに作り上げたのはデオダートの手腕以外何者でもない。ちなみに串刺し女はコロンビア人の衣装係という事だ。よくやってくれたな。一応全裸だったぜ。

これらの悪行は「原住民の奇妙な習慣」として紹介されているが、彼らがやった可能性が暗示され、更に少女をかわるがわるレイプし、原住民を小屋に押し込め火を放つなどやりたい放題。遂に原住民の怒りが爆発し、撮影隊に襲い掛かり一人、また一人と虐殺される。これを見ると、彼らの悲惨な最期も当然と思わされるほど、撮影隊の所業は酷い。

撮影クルーの紅一点フェイを演じたのは、イタリアの女優フランチェスカ・チアルディ。本作では豪快なヌードを披露しているが、彼女を含めて撮影クルーたちはNYのアクターズスクールに通う無名の俳優の卵たち。この映画がスナッフムービーであるという噂を煽るため、彼らは1年間メディアに登場しない契約を結んでいた事から、監督が殺人罪で逮捕される騒動となっている。ちなみに彼女が採用された理由は、イタリア人だが英語が完璧だからだそうだ。彼らは無名だが、演技自体はそれほど悪くなく、みんなその後も細々とだが活躍している。

すべてを見終わったテレビ局員は、フィルムを破棄するようにする。テレビ局を出た教授は「食人族は誰なんだ」とつぶやく。というのが大まかな粗筋。

終盤で思わず「もっとやれ!」と原住民を応援していた

 

今回見て驚いたのは、昔の記憶だと、ほとんどがスプラッターで占められているように思っていたのだが、意外と残酷シーンが少ないこと。それと社会風刺や文明批判もあって下品な作品ではない。それに、「ブレアウィッチ~」に代表される最近のモキュメンタリーと比較すると、構図やカメラ割りなどが丁寧で見やすい。その分、今見ると明らかにフェイクとわかるが、そもそも本当に殺人シーンが映画で公開されるはずないのだから、そこは割り切ってみるべき。とは言え、今でも見る人を選ぶ映画であることは間違いないが。

本作で食人族の異様な風習よりも、撮影クルーの悪行の酷さに嫌悪感を抱く。本当に「食人族は誰なんだ」と思いたくなるが、そこはフェイクで本当にこんなことするはずないと思いたいところだ。ただ、昨今のジャニーズ事務所にまつわる騒動で、完全にマスコミが他人事のように報道するのを見ると、程度の問題でマスコミはクズが多いという話は本当なのかもしれない。