タイトル 透明人間と蝿男

公開年

1957年

監督

村山三男

主演

北原義郎

制作国

日本

 

大映が1949年の「透明人間現る」に続いて制作した、透明人間モノの第2弾。前作から8年も経過しその間前作で特撮を担当した円谷英二は東宝に復帰したため、本作で特撮は後に「ウルトラマンシリーズ」などを手掛ける的場徹が担当。ただ本格的な特撮だった前作とべると、本作の特撮は“トリック撮影”に近いものだ。

映画は旅客機の機内で一人の男が殺されるが、密室状態だったにもかかわらず誰も目撃者がいないことから事件は暗礁に乗り上げる。東京ではこれ以外にも原因不明の怪死事件が頻発していた。事件を捜査していた若林捜査一課長は、友人の科学者月岡博士の元を訪ねた。月岡の恩師早川博士が、変死が起きた旅客機に偶然乗っていたことから事情を聴くためだったが、ここで月岡が透明光線の研究をしていることを知る。

普通に考えたら、この透明光線で生まれた透明人間が犯行を重ねていると思うから、「早くもネタバレか!」と色めき立つところだが、本作ではそうはならない。

若林刑事を演じているのが、「刑事部屋」等で刑事役が多かった北原義郎。その友人の月岡博士は品川隆二が演じている。品川と言えば大ヒットドラマ「素浪人花山大吉」のコミカルな博徒焼津の半次役が有名だが、本作のプロデューサー永田秀雅は大映社長の永田雅一の長男。彼と恋敵になったことから冷遇され、2年後に第二東映に移籍している。そこで時代劇スターとして人気となるから人生分からない。

この頃の特撮映画は、民家の地下にこんな研究所があっても平気

 

やがて南米帰りの実業家楠木が、太平洋戦争終結後、南方の島から旧日本軍の秘密兵器、体を小さくする魔薬を持って帰ったことが判明する。彼の部下の山田はこの麻薬中毒となり、彼に操られるまま蠅男となって凶行を繰り返していた。やがて楠木は透明光線の事を聞き付け、山田に奪うように命じるのだった。

最初の蠅男山田を演じるのは、後に温厚な紳士役を数多く演じる中条静夫。本作では狂気をはらんだ殺人鬼を演じている。一番の見どころは蠅男となった中条静夫が、毛利郁子が演じるセクシーなナイトクラブの歌手でダンサーの肢体によじ登り、胸の谷間を散策したりするシーン。ある意味“男の夢”だが、これをやっているのが若き日の中条静夫というのが面白い。

品川隆二(左)はその後数奇な運命を経てテレビでブレイクする

 

透明人間は、宇宙線研究の過程で発見された透明光線によって透明となり、元に戻す方法はあるものの、その光線を浴びると全身が癌となりすぐに死んでしまうという危険極まりないもの。ただ、光線だから透明人間となっても服を着ていることができるから便利だ。もっともこれは、ラストの為どうしても必要だったからだが。

一方蠅男の方は、旧日本軍の開発した薬品により蠅の大きさになると言うもので、米映画の「ハエ男の恐怖」のように、人間と蠅が合体したものではない。ただ小さくなるのはわかるが、空を飛べるようになる理由は劇中で説明されていないし、小さくなってどうやって人を殺すのか説明されていない。更に忍び込めるにしても、どうやって透明光線を発する機械を持ちだすのか、全く説明されていない。これは逆にして、透明人間が犯行を繰り返し、それを追うため小さくなって犯人のアジトに潜入する方が自然に思えるが。

若き頃の中条静夫。狂気を感じさせる演技で、強烈な印象を残す

 

ダンサーの毛利郁子は当時グラマー女優として有名だったが、本作のヒロイン、早川博士の娘で月岡博士の恋人章子を演じる叶順子は大映では京マチ子、山本富士子、若尾文子に次ぐほどの人気の看板女優だったが、当時の照明で目を悪くしたため、人気の絶頂期に若くして引退したのは残念。

半裸のダンサーに体によじ登る中条さん。若かったんだな~

 

透明人間になるのは北原義郎だと思っていたが、品川隆二が透明光線を浴びいったんは犯人を追い詰めるが、楠木はハエ男となって逃げてしまう。そのあと彼は都心の鉄道を爆破し自分の力を示し、透明光線を要求する。この辺りもハエサイズに小さくなったのに、それほど威力のある爆弾を警戒厳重な中仕掛けられるのは全く説明がない。どうも本作は、こうした細かい設定がずさんで脚本に穴が多くて、当時ならともかく今見ると映画にのめりこめない。

最終決戦の場も、何とも釈然としない終わり方でなんだかもやもや感が残った。

クライマックスの見せ場となる数寄屋橋、西銀座界隈はロケではなく、大掛かりなセットを組んでの撮影で、この頃の日本映画界のパワーを感じさせる。

本作の特撮はトリックが多いが、急にこんな本格的なミニュチュアが出てきたりする

 

大映は前年に「宇宙人東京に現る」と制作し、怪獣路線の東宝に対しSFスリラー路線で特撮映画にアプローチしていたが、両方とも脚本の出来があまりよくなくて折角の題材を生かし切っていないように感じる。後に大映は「大怪獣ガメラ」や「大魔神」、「妖怪百物語」等特撮映画の名作を連発するようになるが、それはこれらの作品の反省を踏まえているのかもしれない。それらの作品に思いをはせて本作を楽しむのもいいと思う。