あの胸にもういちど(1968年)監督 ジャック・カーディフ 主演 マリアンヌ・フェイスフル(イギリス・フランス)

アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグの小説「オートバイ」を原作に、バイカーである人妻の不倫の恋と破滅を斬新なタッチで描いた、サスペンスタッチのラブストーリー。若干だが、カルト的な要素もあるしエロチックさもある。
平穏で退屈な暮らしを嫌った若妻のレベッカが、黒革のジャンプスーツを全裸の上にまとい、大型バイクにまたがるシーンが注目を集め、エロティックかつサイケデリックな演出で、当時の海外のクリエイターはもちろん、日本のアーティストたちにも多大な影響を与えた。

やはり美男美女は絵になる


なお、主演に歌手として活躍していたマリアンヌ・フェイスフルが起用されたが、当初主演は別のドイツ人女優で彼女が麻薬で急死したための代役起用であった。またその恰好から峰不二子のモデルの一人とされることが多い。
また、原作者・マンディアルグによると、主人公レベッカのモデルとなったのは、原作者の友人だったドイツのモーターサイクル・ジャーナリスト、アンケ=イヴ・ゴールドマンで、彼女は革のワンピース・レーシングスーツを着た最初の女性ライダーと言われている。
主演はアラン・ドロンとされているが、彼の出番は非常に少なく、実質的な主役はマリアンヌ・フェイスフルで、彼女は冒頭からラストシーンまでほぼ出ずっぱり。その間、回想シーンを除いて黒い革のバイクスーツしか着ていない事から、ひどく妄想を掻き立てられた。

峰不二子の原型と言われているが?

レベッカのモデル、アンケ=イヴ・ゴールドマン。つまり峰不二子のおばあちゃん?


映画は早朝レベッカが目を覚ますと、隣に寝ている夫のレイモンドを放って置いて、全裸のまま起き上がり黒い革のバイクスーツを着て、大きなバイクに乗り込んで不倫相手のダニエルの住むドイツ、ハイデルベルグに向かいところから始まる。途中回想や彼女の想像は入るものの、ここからひたすらハイデルベルクへのバイク、それもほぼ身一つの旅を映画は描いていく。
バイクの走行シーンはアップの場面はマリアンヌがやっているが、中距離から遠距離ではダブルが使われている。ダブルを務めたのは、イギリスの GP チャンピオンで元世界チャンピオンのモーターサイクリストであるビル・アイビー。当時女性ライダーは少なかったので男の彼が演じることになった。なお、アップのシーンは出来るだけ合成は使っていないようだが、回想シーンでアラン・ドロンと二人乗りするシーンはもれなく合成が使われている。
ここから4ヵ月前、レベッカはレイモンドとの婚約旅行でスキーに出かけるが、そこにダニエルを見かけた。ダニエルは、レベッカの父が経営する本屋の常連客の大学教授。その夜、レイモンドはレベッカの部屋に入ってきたが、彼女は寝たふりでやり過ごす。しばらくすると、バルコニーから一人の男が入ってきてふたりは体を重ねる。レベッカは、その男がダニエルであることを知っていたのだ。

カメラマン出身の監督だけに、構図に拘りを感じる


帰った後で、ダニエルはオートバイに乗り本屋を訪れ、口実を付けてレベッカを連れだすと、郊外の小屋の外で二人は再び愛し合う。ダニエルはレベッカにバイクの乗り方を教え、彼女は次第とオートバイに魅せられていく。レベッカはレイモンドと結婚するが既に心はレイモンドを離れダニエルに夢中になっていた。そんな彼女にダニエルは大型バイクを贈る。それは今、レベッカが乗っているバイクだった。
本作は映画そのものよりも、主演のマリアンヌ・フェイスフルの、コケティッシュさが話題となり人気が出た映画で、アラン・ドロン出演作の中で一番彼の存在感が薄い映画と言って差し支えないだろう。当時31歳で若さとともに落ち着きを感じさせる年代で、冷徹なサディストという、これ以上ない位のおいしい役なのに全く目立っていない。それぐらいマリアンヌが光り輝いていたし、その魅力が詰まっていた。

時折差し込まれるサイケな映像が時代を感じさせる


監督がカメラマン出身という事もあってか、ぴったりとしたレザーが張り付いたマリアンヌの体へのフェティシズム的な目線がたまらなく良い。セリフは回想シーンのみで、バイクにまたがっているところでは、モノローグが挿入されているだけでセリフはなく、表情だけで演じなくてはいけないし演じるのは難しかっただろうが、演技経験がほとんどないにもかかわらず見事にやり切っている。表情がやや大げさになるところもあったが、許容範囲だろう。時々サイケな画像がアップされるのは、今見ると苦笑ものだが当時はあんなのが流行っていたんだろうなと、温かく見守って欲しい
最初から悲惨なラストが予想されるし、事実その通りなのだが、彼女の最も輝いていた時を切り取ったような映画なので、それだけで見る価値はあると思う。
実は今回初見だと思っていたが、あるシーンで昔見た事を想いだした。それはアラン・ドロンの家にある東屋に入ったマリアンヌのレザーのバイクスーツのジッパーを、アラン・ドロンが引き下ろし彼女の白い肌が露になるシーン。他はすっかり忘れていたのに、そこだけはしっかりと覚えていた。これだから男ってのは…。

このシーンで昔見た事を想いだした


監督のジャック・カーディフは5年後に「悪魔の植物人間」という、ホラー映画を撮ってその作風の違いに仰天したが、今見直すとエロティックなカルト映画という事で共通点はあるように思える。