世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す(1956年)監督 フレッド・F・シアーズ 主演 ヒュー・マーロウ(アメリカ)

空飛ぶ円盤が地球を大挙襲撃、迫りくる危機に敢然と立ち向かう科学者の姿を描いたSF映画。元海兵隊少佐でUFO研究家であるドナルド・キーホーの著述を元にアメリカのSF作家カート・シオドマクがストーリーを書き卸し、ジョージ・ワーシング・イエーツとレイモンド・T・マーカスが共同脚色した。その為原作者としてカート・シオドマクがクレジットされている。
元々モノクロ映画だったが、近年カラーライズ版が作られ、両方を同時収録したDVDもリリースされている。両方とも見たことがあるが、カラー版はいかにも50年代っぽい色合いで、本当に当時のカラー映画を見ているような気がした。

振り向けば円盤が...。ここは「未知との遭遇」の元ネタとなっている

 

映画は世界中で円盤の目撃情報が寄せられ、米銀が迎撃命令を出すところから始まる。相手の実力も分からないのに、武力行使を決定するあたり、さすがこの頃の米軍のやる気は違う。幕末に攘夷を実行して、欧米列強艦隊にボコられた薩長並みだ。案の定、この後アメリカはボコられることになる。
そんなある日、前日に結婚したばかりのマービン博士と妻のキャロルは、いちゃつきながら車でロケット打ち上げ基地に向かっていた。キャロルが運転し博士が助手席というのがいかにもアメリカらしい。この頃日本の男女合わせた運転免許保持者は、アメリカの女性運転免許保持者より少なかっただろう。多分…。
博士がテープレコーダーでその日の打ち上げについて口述筆記を始めたら、異様な音とともにどこからともなく円盤が出現。博士の車の周囲を飛ぶと、垂直に上昇して消えてしまった。
気を取り直し基地に到着、人工衛星打ち上げの準備の最中、夫の口述をタイプ打ちしていたキャロルは、そこに円盤の発した音が録音されている事に気が付く。
その頃基地に、キャロルの父親ハンリー将軍が到着して、打ち上げの中止を要請するが既に地生ら中止できない状態になっていた。いや、それなら電話しろよと言いたくなる。

階級章を見ると星二つだから少将のはず


ちなみにハンリー将軍だが、日本語版では「元帥」と訳されているが、音声を聞く限り「General」と発音していて「Marshal」とは言っていない。本人の階級章を見ると少将なので誤訳だと思うが詳細は不明。
人工衛星は無事打ち上げられるが、最近頻繁に人工衛星との連絡が取れなくなっていた。ハンリー将軍はパナマに落下した物体の調査のため出向いていたのだが、落下したのは行方不明となっている人工衛星と判明し、その為打ち上げの中止を要請したのだった。だから、そんな重要な事は電話で連絡しろよって。その時さっき打ち上げら人工衛星とも連絡が途絶えたという報告が入る。
翌日も再度打ち上げをしようと基地で待機する二人。一方将軍は外で見学。この待遇の差は何だ?その時ゲートに円盤が出現したとの報告が入る。直ちに警備兵が出動し防御シールドの外に出た宇宙人にボフォース機関砲で攻撃し一人は倒すが、円盤はバリアーで守られ効果がない。逆に宇宙人が放つビームで一瞬で消えてしまった。一人殺され怒り心頭になったのか、円盤は倒れていた将軍を運び入れ上昇し、次々と基地を攻撃。深層部にいたマービン夫妻以外は死んでしまう。

無力感漂う秀逸なカット


救出された夫妻は、テープに録音した音をスロー再生すると声になることが分かり、その事を軍に訴えるが相手にされない。失意の二人だったが再び宇宙人から連絡が入り、指定された場所に博士が出かける。心配になったキャロルは、監視役のハグリン少佐とともに後を追い、途中でスピード違反の取り締まりをやっていた白バイ警官まで巻き込み、海岸に到着すると、そこには円盤がいた。一同が乗り込むと、そこには、宇宙人から記憶を抜き出されて抜け殻となったハンリー将軍がいた。更に白バイ警官も同じ目にあい、残った3人は戻され56日の猶予が与えられ降伏するように求められる。


博士から事の次第を聞いた軍首脳は驚き、新兵器の開発や市民に避難を命令する。散々警告を発していたのに、無視した挙句の無茶ぶりには失笑を禁じえない。それと、仮にも合衆国の将官が、宇宙人の手に落ちたのに、どういうわけか、誰もハンリー将軍の事を気にしていないのが面白い。その程度の人材だったのか?
新兵器の開発を行うマービン博士は紆余曲折の末、電磁波で円盤の磁気フィールドを攪乱する兵器が完成。急いで試作品をワシントンに届けようとするが、その前に円盤が出現する。果たして新兵器は間に合うのだろうか?というのが大まかな粗筋。
似たタイトルの日本映画で「空飛ぶ円盤恐怖の襲撃」というのがあるが、長らく原版が不明となっていた。2010年に16ミリフィルムが発見され、ネットオークションに出品され210万円で落札。DVD化に向けて修復作業が行われていることが、映画雑誌2011年12月号の「映画秘宝」などで報じられたが、現在まで動きがない。


本作のハリー・ハウゼンの特撮は素晴らしく、ストップモーションで表現された円盤は、独特のカクカクした動きから恐怖を盛り上げ、マービン博士夫妻を襲う冒頭から、クライマックスのワシントン襲来まで、画面せましと暴れまくっている。更に墜落した円盤がビルと衝突するシーンは、破片一つ一つをアニメで表現したというから、もう凄いとしか言いようがない。ただ、最終決戦が電磁砲との戦いだけで単調になった嫌いはある。通常兵器は効果が無いのは仕方ないにしても、円盤を誘導するとか何らかの使いようはあったはずだ。また、人間ドラマが、盛り上がりに欠けてしまったのがなんとも残念。
本多、円谷コンビだったら、ハンリー将軍が最後まで捕えられていて、その救出作戦を宇宙人との戦いと並行して描いて、特撮とドラマ双方で盛り上げるようにしたはずだ。事実、「地球防衛軍」ではそうした構成で作られている。そう考えると、この頃の日本の特撮映画のレベルの異常なまでの高さが分かる。そして日本の特撮も本作から貪欲に吸収している。「モスラ」の原子熱戦砲や「怪獣大戦争の」Aサイクル光線砲は終盤登場した電磁砲がルーツだと良くわかる。海外の作品からも良い点を積極的に取り入れて、自己のスキルアップを図っていった日本の特撮。それが世界に冠たる円谷特撮を生んだのだが、現在の日本の映画界で、そんな気概を持っている人はどのくらいいるだろうか?

このメカが日本特撮映画に与えた影響は計り知れない。最終決戦のBGMは「宇宙大戦争マーチ」にしてほしい