元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件(2020年)監督 ミカエル・マルシメーン 主演  アリソン・ウィリアムズ(スウェーデン・アメリカ)

友人の結婚式のため、小型飛行機でインド洋に浮かぶ南の孤島へ向かうことになったサラ。かつての恋人で今は気まずい関係のジャクソンが偶然乗りあわせるが、目の前に広がる美しい海に心弾ませ、空の旅は始まった。ところが、離陸直後にパイロットが急死し…。

ミカエル・マルシメーン監督がスリリングなサバイバル劇を演出。絶体絶命の状況に追い込まれる主人公をアリソン・ウィリアムズとアレクサンダー・ドレイマンが好演。
なおwikiでは「大海原の上でパイロットが急死して小型飛行機内に取り残された元恋人同士の気まずい2人のサバイバルを描いている」と書かれているが、後述の通り二人は最初こそやや気まずかったが、事が起きた後は終始関係は良好で、励ましあいながら協力して事態に対処している。
タイトルが悪目立ちしているが、当初、邦題は「元カレとセスナに乗ったらパイロットが死んじゃった話」だったが、その後「予告編に登場する飛行機はセスナ機ではない」と指摘する声が挙がっていた事から、タイトルを変更することになったとか。まあ、どっちもライトノベルみたいな酷いタイトルで、勘違いして見る人もいるだろうが、逆に敬遠する人の方が多いのではないかな。
なお、原題は「Horizon Line」。意味は「地平線」もしくは「水平線」だが、これもあまりセンスがない。

終始冷静に協力している二人。グダグダ感がないから落ち着いてみられる


主人公のサラは、ダイビングのインストラクターをするジャクソンと出会い、恋愛関係になるがロンドンで就職する予定。ジャクソンをロンドンに誘うがその気がなく、トイレに行っていた好きに立ち去ってしまう。1年後に友人がモーリシャスで上げる結婚式に出席するため現地に行くと、そこでジャクソンと再会。気まずいながらも、一夜を共にしてしまう。翌日船に乗り遅れたサラは、ジャクソンを置いて知人のワイマンの飛行機に乗せてもらうが、ジャクソンも同乗してしまう。現地で調達した「ロケット燃料にもなる」というラム酒とともに、二人は飛行機に乗るがここでワイマンが心臓発作で急死。
自動操縦が動かず、多少の経験があるサラが操縦桿を握るが離着陸ができる程ではない。更に、嵐を突っ切ることになるが、パニックを起こし雲の上に出てしまう。最初の方で、ワイマンから「高度20000ft(6000m)を超えてはいけない」と言われていたが、ジャンボ機等旅客機と違い小型機は気圧の調整が行われない為「高度障害(所謂高山病)」を発症して失神する。第2次大戦中も、高度が6000mを超えるときは、酸素マスクを付けていたから、いかに空を飛ぶ事が危険かよくわかる。ちなみにB-29は、乗員が行動する部分は与圧がしてある、贅沢な作りだった。

何気に凄いアクションをやる普通の二人。いかにアクションヒーローが人間離れしているかよくわかる


ジャクソンの助けもあって何とか乗り切ったら、続いてコンパスがイカレるが、積んでいたラム酒に針を浮かべて即席のコンパスを作ることで難を逃れる。嵐を抜けると燃料タンクのバルブが破損。ジャクソンが機外に出てバルブにテープを張り、応急修理をという「ミッション:インポッシブル」並みの芸当をやって修理しようとする。「無茶すんな~」と思ったが、なんとジャクソンは何とかやってのける。いや、凄い!高所恐怖症の自分なら絶対にできない。と、同時にこの手の事を涼しい顔でやるトム・クルーズが、いかに人間離れしているかよくわかる。
「余計な荷物落とした方が良くね?」という事になり、座席をはじめ荷物を次々と落とす。そしてワイマンの遺体も。ここはちょっとウルっときた。荷物を落とした下を、ちょうど漁船が通っていたので、何かあるかと思ったら...。
更に一難去ってまた一難で、燃料が足りない。ここで、散々伏線張りまくっていたラム酒が大活躍?しかし給油口は翼の上。更に頼りになるジャクソンは、さっきのスタントで怪我をしてしまった。
やるっきゃない!という事で、サラが翼のヘリをつかんで給油口に行き、操縦席からジャクソンが渡すラム酒を注入。ミシェル・ヨーかよ!もっともあちらは還暦過ぎてもアクションキレッキレだが..。
この時ジャクソンが島を発見して、迷った挙句そこに向かう事に。本作の中で、この手の映画にありがちな“愚かな行為“と呼べるのは唯一ここだといえるが、そのまま進んでも陸地があるかどうかわからないし、そもそもラム酒の燃料でどれだけ飛べるかわからないから一概に”愚かな行為”とも呼べない。


トラブルはあったものの、何とか島に上陸に成功。実はこの時、一瞬だけサメの影が横切ったので「お!ラスボスは鮫か!」と思ったら、出番はそこだけなので、何故出したのかよくわからん。本作は「ロスト・バケーション」のジャウム・コレット=セラが制作を務めているので、同じようになるのを避けたのかもしれないが、それなら影も出すべきじゃなかったと思う。

いや実際ここまではほぼ完璧と言って良いほど面白かったが、エンドロール以外にラスト10分余りを残して失速気味なのは何とももったいない。あのまままっすぐに進んで、燃料切れで慣性飛行を続け、「もうだめか」というところで陸地が見え、何とか不時着させるという展開だったら、ものすごく盛り上がったし、あのラストなら、最後に駆けつけてきた漁船が飛行機から不要な荷物を落とした時、下を通っていたのと同じ漁船で異変を察知して探してくれていたというラストでもよかった。ただ、この手の映画にありがちな、登場人物の”愚かな行為”は最小限にとどまり、これもこの手の映画にありがちな、二人が言い争っている部分もほぼないし、襲い掛かるトラブルも二人で協力して切り抜けているから、見ていて二人を応援したくなる。
ふたりのキャラも魅力があるし、力を合わせて危機を乗り切っていこうという姿勢に、共感できる。それだけに最後に不満が残ったが、それ以外は大満足の出来だし、ふざけた邦題に惑わされずAmazonprimeの見放題で見ることができるので、見てほしい作品。

途中で遭遇した船と、ラストの船。形は似ているが色が違う。まさかレンタルミスじゃないよね?