宇宙人東京に現わる(1956年)監督 島耕二 主演 川崎敬三(日本)

大映製作のSF特撮映画で、日本初の本格的SFカラー特撮映画。本作では友好的な宇宙人、パイラ人が登場する。1951年公開のアメリカ映画「地球の静止する日」に同様の宇宙人が登場しているし、地球への天体衝突は同じく1951年公開の「地球最後の日」で描かれている。本作はこの2作品のテイストを合わせたような映画となっているのが特徴。
昔見た時も、特に見せ場のようなものがなく、宇宙人の意表を突いたデザインだけが印象に残ったが、今回見ても変わりはなく、ひどく不器用な作品という印象が残った。

とてもSF映画とは思えないオープニング


映画は、どこにでもありそうな昭和の下町にある、鉄道の駅から始まる。駅に降りた東京城北天文台長の小村芳雄は、旧知の新聞記者に声を掛けられ、馴染みの飲み屋「宇宙軒」へ2人で赴き一杯ひっかけるという、昭和あるある。世間では円盤騒ぎが起きていて、記者も円盤を報じた早刷りの新聞を見せる。
この新聞記者は、いかにも活躍しそうに登場するが、その後フェードアウトする。そしてこの「宇宙軒」も何らかの役割を果たすこともなく、こちらもフェードアウト。
その頃、小村所長の娘多恵子は小林の従兄妹で物理学者の松田英輔に誘われ、彼の家で夕食を御馳走になっていた。ここの食事はワインを飲む等洋風でこの対比は面白い。天文台では小村の助手を務める磯辺徹が複数の流星に似た物体が飛んで行くのが見えた。その頃各地で正体不明の怪物の目撃情報が寄せられ、徹の父で生物学者の磯辺直太郎は怪物が目撃された岸壁に来ると、何かが這い上がった痕跡を発見する。

南部彰三、山形勲、見明凡太朗と出演者は重厚かつ豪華


その頃円盤の中でパイラ人たちが会議を開いていた。地球に新天体アールが迫っていてそれを伝えようとするのだが、地球人はパイラ人を怖がって逃げてしまう。そこで人間に変身して危機を伝えようとする。
このパイラ人のデザインは芸術家・岡本太郎が担当。ヒトデ型で真ん中に巨大な目があるという、クトゥルフ神話に出てくるヨグ=ソトースと言っても遜色ないようなよく言えば前衛的なデザイン。さすが“芸術は爆発だ“。
パイラ人が化けたのが、人気歌手の青空ひかり。昭和の歌姫美空ひばりに引っ掛けているのは一目瞭然。
3博士が家族を連れて遠出した時、湖に浮かび記憶喪失を装うと、天野銀子と名付けられ松田博士宅に引き取られる。一刻を争うはずなのに、この辺り回りくどい方法を取っている。松田博士が研究していた、ウリュウム元素101の方程式を一目で見破ると、彼女は自分がパイラ人であることと、地球の危機を伝え世界中の核ミサイルで爆破するように提言する。

もっと性格付けがなされていれば魅力的になったんだが


歌手の青空ひかりに化けた、パイラ人を演じたのは苅田とよみ。SKD出身で草創期のプロ野球選手の苅田久徳の娘で大映専属の女優。21歳で本作デビュー。その後3年にわたって活躍し計11本出演したが、1958年大映退社。そのまま芸能界を引退した。
最初は相手にしなかった世界会議だったが、アールが姿を現すと核ミサイル発射を決定。しかしアールはびくともしない。ここで、松田博士が研究しているウリュウム元素101に期待が集まるが、その頃博士は発明で一儲けしようとする男たちに拉致されていた。


ストーリーは、被爆国である日本の核兵器廃絶の理想が描かれているが、結局危機を脱したのが核を上回る超兵器という事で、中盤にかけて色濃く残った反核のメッセージと矛盾が生じている。それに核ミサイルでアールを破壊せよというのは、原子力の軍事利用を肯定したことに繋がる。このパイラ人の主張は内部にとてつもない矛盾をはらんでいるが、作り手の方でそれに気づいている節はない。

数少ない特撮の見せ場。


冒頭のいかにも、昭和の庶民の生活感を前面に出した演出は、それはそれで悪くないが、それなら「E.T.」的な、庶民と宇宙人との交流を描いた話にすればよかったと思う。中盤あたりから、地球の危機という重大事件が発生しているのに、政府関係者の対策会議を開くシーンがなく、基本的に天文台の中だけで話が進むので、スケール感をうまく出せないでいる。また見せ場になるはずの核ミサイルを一斉に発射するシーンは割愛され、ただ着弾が望遠鏡越しに見えるだけというのは手抜きにしか思えない。
宇宙人が化けた銀子は描き方によっては、かなり魅力的なキャラになったはずだが、没個性的な描写しかされず、かといって地球側にも特にキャラが立っている人物もいないので、スケールが大きい割に起伏に乏しい物語になってしまった。地球側は松田博士に焦点を当て、この役を川崎敬三にやらせ、苅田とよみの宇宙人とのラブストーリーを軸にすれば面白くなったと思うのだが。
余談だが、本作に関して巨大化したパイラ人が、東京駅周辺に出現し、また、逃げ惑う人々の間を超低空で飛ぶ円盤のスチール写真があるが、本作にはそんなシーンは全くない。しかし、そっちの方向にした方が盛り上がったのではないだろうか?

いや、本編何度も見ても、こんなシーンないんですが...