エイリアン: コヴェナント(2017年)監督 リドリー・スコット 主演 マイケル・ファスベンダー (アメリカ)

 

リドリー・スコット監督が自身の傑作SF「エイリアン」の前日譚を描いた「プロメテウス」の続編で、1979年公開の「エイリアン」の前日譚として製作されたシリーズの2作目となる。

2104年、植民船コヴェナント号は、滅びゆく地球から脱出し、船を管理するアンドロイドのウォルター、冷凍休眠中の乗組員15人と2千人の入植者、1千体以上の人間の胎芽を乗せ、惑星「オリガエ6」に向けて航行中、突如発生したニュートリノの衝撃波を受け、甚大な被害を被ることになるところから始まる。

神になろうと髪を切るwwデヴィッド

 

冒頭で早くも突っ込みどころが出現。全ての原点の「エイリアン」でリプリーがエイリアンに遭遇した時は2122年とされ、続いて「エイリアン2」はその57年後とされているが、宇宙に植民星を作らねばならないほどやばいという状況は描写されていない。特に「エイリアン2」では地球にリプリーは戻って普通に暮らしている。何か劇的な技術が完成して、地球の危機は回避されたのだろうか?エイリアンの前日譚のはずが、もう整合性をとる気もなくなりパラレルな世界となっている。

このトラブルで、主役のキャサリン・ウォーターストンが演じるダニエルズの夫、コヴェナント号の船長ジェイコブが人工冬眠装置の故障で死亡。確かにトラブルはあったが、この程度で炎に包まれる人工冬眠装置ってやばくないか?トラブルの修理中に、近くに惑星を発見。船長代理となったオラムは行き先を変更。乗組員たちは「もう睡眠装置に戻りたくない」とこれに賛同し、唯一ダニエルズだけ「10年掛けてオリエガ-6を見つけ、入念な準備をしてきた。急に出現した星が理想的だなんて、出来すぎている」と、至って合理的に反対。しかし船は未知の新惑星に向かうことになる。

エンジニアに生物兵器を散布。「汚物は消毒だ~~」

 

かくして未知の惑星に降り立つわけだが、宇宙服なしで過ごせるという事で全員普通の服装で外へ出るが、あまりにも不用意に感じる。未知の惑星だぜ!宇宙服はいらなくても、ガスマスクや防護服を着るべきだろう。コロナの時の医療従事者の格好を思うと、ノー天気過ぎる。かくして彼らは、未知の微生物の危険性を全く考慮せず、色んな場所へ行って色んな物を触りまくり、煙草を吸うものすら現れる始末。この辺り。前作の「プロメテウス」の登場人物たち同様にバカすぎる。

前作での神秘性は微塵もなく無残に殺されるエンジニアたち

 

その後で男の具合が悪くなり、ようやく緊張感が走るが今度は逆の意味でパニックに陥り冷静な判断が出来なくなる。だから、せめてその中間ぐらいにしてくれ。しかしこのシャトルは、可燃性のボンベを無造作に積んでいて、1発の銃弾で大爆発。その前もエイリアンの頭突きで隔離室のガラスが壊れたり、ポンコツ過ぎる。

その後生き残った一行は、ネオモーフと呼ばれるエイリアンに襲われ危機に陥るが、突然現れたフードをかぶった男に救われる。男は前作のラストで、ショウとともに脱出したアンドロイドデヴィッドだった。おびただしい死体が転がる中、彼の住処にたどり着いた一向に「ここは安全だ」というデヴィッド。それを完全に信じ切ってしまうおバカな一同。誰一人、目の前に転がる死体について気にする気配もない。そしてショウは死んだと伝えウォルターを連れショウの墓を見せ「私はショウを愛していた。君がダニエルズを愛しているように」という。前作を知っている観客はこの時点で「こいつやばい」と警戒するが、そんなこと知らない一同は、コヴェナントとの交信に熱中する。その後、デヴィッドは髪を切りウォルターと同じ容貌になり、ウォルターはネオモーフに襲われ、手首をなくしている事だけしか区別がつかず、この時点で観客はラストの予想がつくだろう。

この死体の山を見て平気でいられる神経は、ある意味凄い

 

何より呆れたのは、そもそもこのシリーズは「人類の誕生の秘密を暴く」だったはずなのに、デヴィッドは人類の始祖たるエンジニアたちを、意図的に滅ぼしたこと。そしてエンジニアたちは、自分たちが作り上げた生物兵器で、あっさり滅ぼされてしまった。前作では多少はあったエンジニアの神秘性や崇高さは、本作では微塵も感じられず、サメ映画の餌枠並みに成り下がってしまっている。更に終盤にはショウまでエイリアン創造の為、モルモットにされて殺されたことが判明する。これから「プロメテウス」で、奮闘しているショウを見ても「ああ、可愛そうに」としか思えなくなってしまう。

前の方で「主役のキャサリン・ウォーターストン」と書いたが、彼女は主役ではあるが、最初の惑星立ち寄りに反対した事と、最終版以外ほとんど活躍らしい活躍はなく、主人公ではない。さすがにまずいと思ったのか、終盤でエイリアンがシャトルに張り付いてきた船外に出て戦うが、ここは宇宙に飛び出したら空気もなく死ぬだろう。少なくとも「旧エイリアンシリーズ」ではそのように描写されていた。それでも、中に入って来られる構造なら、宇宙船の設計に根本的な欠陥があるとしか言いようがない。そういえばこのシャトルも、エイリアンの頭突きでコクピットのガラスにひびが入るほどポンコツ。というか、そのまま宇宙に上がったら、空気漏れで全滅じゃないか?

リドリー・スコット監督が自身の傑作SF「エイリアン」の前日譚を描いた「プロメテウス」の続編。前作ではほぼ空気だったエイリアンの出番が増えているが、本作でも脅威はエイリアンではなくアンドロイドとなっている。本作の粗筋を一言でいえば、「デヴィッドという狂ったアンドロイドがダニエルズたちを騙し、恐ろしい計画を実行に移す」という内容である。AIが人を騙す事ができるのかという事は置いておいて、その恐ろしい計画というのはどうやらエイリアンの創造主となること。どんなプログラムをしたらそんな事を考えるAIになるのか?ウェイラント社の技術者に狂った奴がいたとしか思えない。少なくとも「プロメテウス」ではデヴィッドの行動は、ウェイラント社長の命令を優先させた結果だったが、本作では自ら神になろうとしている様に見え、その結果本作は、神を巡る宗教的な要素が前面に出てしまい、「アンドロイドが神になろうとしてエイリアンを生み出した」という話になってしまい、もはやエイリアンは単なる化け物に成り下がった。

前作は、お世辞にも好評と呼べなかったのだから、本作では「エイリアン5」を作るべきだったと思う。ちなみに続編の企画は一時とん挫したと伝えられたが、リドリーが頑張って復活させたという報道もある。頼むから作るなら「エイリアン5」を作って欲しい。