スピーシーズ 種の起源(1995年)監督  ロジャー・ドナルドソン 主演 マイケル・マドセン (アメリカ)

 

宇宙からの信号に基づくDNA操作実験によって生まれた、“新たな種”の恐怖を描くSFホラー。エロティシズムの強調と、ベテラン勢が結集したSFXが見もの。

とある研究施設のガラスに覆われた、小さな施設に入れられた一人のかわいい少女。言うまでもないが、彼女は宇宙人が送ったDNA情報と有毒ガスが投入され、絶命したかと思われたが、驚異的な力でガラスを破り脱走してしまう。

この施設だが、広い部屋の中央にガラスでおおわれて衆人環視のもとになり、全くプライバシーがない状態。こんな施設に置かれては、まともな性格に育つとは思えない。しかし彼女は邪魔する者は冷酷に殺すが、親切にしてくれた人には笑顔を見せるなど、それ相応の感情はある様子。

本作の成功はナターシャ・ヘンストリッジなしにありえない

 

焦った研究所は後始末屋のプレスを始め4人の専門家を集め、シルの追跡を図る。途中でホームレスの親父とサナギを見られた車掌を殺した以外は平穏にロスに到着。彼女の目的は繁殖。安モーテルに宿を取ったシルは男あさりに精を出す。最初の男は糖尿病だったので取りやめ、次の男は追手が迫ってきたのでこちらも果たせず。二人とも殺されるが、最初の男は深追いしなければ生きていられたし、2番目はアクシデントで殺されたっぽいから、関わったものすべて殺すような残酷さはない様子。追手がうざくなったシルは、一人の女を拉致して指1本を切り落とし、自分も指を切ると、わざと追っての前に現れ女を身代わりにして自分は死んだと思わせようとする。この試みはまんまと成功し追っ手は警戒を緩め、シルは変装して追っ手たちがとまっているホテルに現れ、交尾の相手を探す。最初はプレスを狙っていたが、分子生物学者のローラと交尾?中だったので、人類学者のスティーブンに標的を変え女好きの彼と見事合体に成功。その直後、ようやく気付いたスティーブンを殺して逃走する。最後にあんないい女とやれたんだから、とはならないか。

カーチェイスも本格的

 

そのあと地下に潜ったシルと追っ手たちのスリリングな追跡劇。果たして彼らはジルを阻止できるのか!

リアルで見たときは、トンデモB級エログロホラーと思っていたし、シル役のナターシャ・ヘンストリッジの印象しか残っていなかった。その後、似て非なる邦題詐欺作品を多数見たこともあって、そうした印象が強くなってしまったが、いま改めて見るとよく設定が練り込まれていることに驚かされる。

宇宙人たちはまず無限エネルギーに繋がる情報を送り、安心させて遺伝子情報も送り、シルを誕生させる。シルに与えられたのはひたすら繁殖すること。彼女の行動原理はそれ以外なく、後半になると直接的な攻撃より知略を用いた戦いも行えるようになるが、最初は阻むものは容赦なく排除する。ただ、ここで疑問なのは仮にシルが繁殖に成功したとして、それが宇宙人たちにどんな利益があるのか?という事だ。彼らは地球にやって来る能力はないようなので、地球侵略の前に混乱させるという事はなさそう。しかもシルは胎生で一度に何百個も卵を産む様な繁殖はしないようなので、人類滅亡するには相当時間がかかりそうだし、そうやって人類滅亡させたとして、彼らにどんな利益があるのかは不明。ひょっとしたか彼らは滅亡に瀕していて、自分たちの遺伝子を宇宙のどこかに残そうと思ってやったのかもしれない。あるいは彼らにしてみれば、ちょっとした悪戯だったのかもしれない。それにシルのDNAの半分は人類となっている。果たして彼女の残虐性はどちらの遺伝なのだろうか?

主人公のプレスを演じる、マイケル・マドセンは厳つい風貌と、掠れた声から悪役をやることが多く、初登場時の雰囲気からそう思わせておいて、実はタフガイのヒーローというミスリードが楽しい。

抜群のプロポーションだが、映画初出演とは思えないほど演技力も高い

 

 

 

ヒロインの分子生物学者ローラは、テレビドラマ「CSI:科学捜査班」で人気を博したマーグ・ヘルゲンバーガー。後半プレスといい関係になり、ヌードも披露しているが上には上がいたので本作ではあまり話題にならず。

霊能力者のダンのフォレスト・ウィテカーは、「バード」でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞した実力派。

そして研究所所長のベン・キングズレーは「ガンジー」でアカデミー主演男優賞を受賞している。

演技派で固められたキャストだが、忘れてならないのがシルを演じた、ナターシャ・ヘンストリッジ。カナダ出身で元々モデルで、本作で映画デビューを果たし“映画史上もっとも美しいエイリアン”と絶賛され、その後世界観の異なる第4作目以外のすべてのシリーズに出演した。ヌードばかり話題になりがちだが、上品な雰囲気があるところも好感度高い部分。それに本格的な演技は初というが、意外とちゃんとした演技力がある。

変身後のシル。後頭部にエイリアンとの共通点が垣間見える

 

その"シル"の変身後のデザインは、エイリアンをデザインしたH・R・ギーガーが手がけている。頭頂部が後ろに大きく張り出しているところなど、エイリアンとの共通点が多い。

大ヒットしたことから続編が3本作られたが、第3作の「スピーシーズ3 禁断の種」でシリーズは完結となった。次回作の「スピーシーズ4 新種覚醒」は前作と繋がっておらず、独立した世界観に基づくオリジナルストーリーとなっている。そのため、ヘンストリッジは第4作には出演していない。

ラストに意味ありげに登場するが、続編では完全に無視されたかわいそうなネズミ君

 

また、「スピーシーズX 美しき寄生獣」「スピーシーズXX 寄生獣の誘惑」「スピーシーズXXX 寄生獣の甘い罠」といった作品も存在するが、シリーズとは無関係な所謂「邦題詐欺」。

本格的なSFとして見ても見どころが多い本作だが、当時はエロばかり目立ったため、正当な評価が下されにくかった本作。そのおかげで大ヒットしたのだから、それはそれで販売戦略成功となるんだろうが、中盤から後半にかけては、モンスターパニック映画の金字塔「放射能x」を彷彿とさせる部分もあり、娯楽映画としても完成度は高い。

キャストに演技派をそろえているのも魅力の一つ