X エックス(2022年)監督 タイ・ウェスト 主演 ミア・ゴス (アメリカ)

 

最近意気軒高なA24が製作したホラー映画。7~80年代のホラー映画へのオマージュが随所に盛り込まれ、史上最高齢の殺人鬼夫婦が住む屋敷に足を踏み入れてしまった3組のカップルの運命を描いている。これ、6人の若者ではなく3組のカップルになっているところが重要で、犯人の老夫婦もこれまたカップル。4組のカップルが織りなす、それぞれの愛を描いているとも言える。

本作を、ホラー界の重鎮スティーヴン・キングが絶賛したとか、A24作品初の3部作構想とで、本作はその第1作目とか、何かと評判が良く、同年中に第2作目「Pearl」が作られるあたり、さすがフットワークが軽い。ただ、本作はA24作品らしく、考察泣かせの仕様となっている。

史上最高齢の殺人鬼と言われているが、史上最も若い人が演じた老婆かも?

 

映画は田舎の一軒家に保安官が到着し、家の中を見て回りその惨状に「なんだ、これは」と茫然自失となるところから始まる。その後「24時間前」のテロップとともに、麻薬を吸うミア・ゴスが演じるマキシーンに、恋人兼ポルノ映画プロデューサーのマーティン・ヘンダーソンが演じるウェインが軽く窘めるシーンへと続く。ここで分かるのは恐らくこの二人が冒頭の惨劇に会うであろうという事と、その惨劇は隠蔽されていないという事。つまり犯人は行方をくらませたか、被害者の逆襲で退治されたかどちらかという事。二人は撮影クルーのカップルと、主演の男女カップルと合流し、撮影場所の田舎の古びた農家に出かける。その離れを借りて、ポルノ映画の撮影をしようというのだ。

家主のハワードとちょっとトラブルになるが、とりあえず撮影は開始。このトラブルのところ、ラストの伏線となっているが、本作はあちこちに伏線が貼られ気が抜けない仕様となっている。この農家はハワードと妻のパールが住んでいるが、二人とも特にパールはちょっと尋常でない様子。マキシーンがパールに招かれレモネードをご馳走されるという、なんでもないはずのシーンの緊張感は半端ない。また農家に隣接した湖に、ワニが住んでいるのがさらりと表現されたり、複線張りに余念がない。その分、1時間46分余りの上映時間で、最初の殺人が始まるまで約1時間と冒頭の惨劇が起きるまでひどく長くなり、中だるみとなるのだが、そこをポルノの撮影で補う仕様。ポルノ女優役の二人の脱ぎっぷりがいいから、そこは補えているし、二人とも演技力は確かだから、後半のホラー展開にもしっかり対応できている。

ホラーあるある。「志村後ろ!」

 

やがて老夫婦にも彼らがポルノの撮影をしていることがばれるのだが、特に何か言われるでもなく黙認されている様子。夜になり、撮影助手のロレインが二人の影響を受け、撮影に参加したいと言い出しジャクソンとの絡みを撮影するが、そのことに腹を立てた監督兼カメラマンのRJが怒り、車で飛び出そうとするが、その前にパールが出現し、彼を惨殺する。かくして人里離れた夜の農家を舞台に、恐ろしい惨劇が始まる。

A24制作という時点で、大半の人は身構えてみるだろう。普通のB級ホラーを期待した人は、長く感じたと思うが、割と人間のドラマが濃密に描かれているので退屈はしなかった。普通なら前半のワニの場面で、一人は殺されているだろうから、なかなか始まらない惨劇にイライラするかもしれないが、逆に言えばワニをスルーした時点で、惨劇控えめかなと思った人は、終盤怒涛の展開に度肝を抜かれるはず。

エロにグロ!見たい要素てんこ盛りなのに喜べないのは何故?

 

本編で何度も挿入される、テレビのキリスト教福音派の伝道師の演説や、キリストの磔刑ぽく殺されたRJとか、宗教的な要素が見受けられるが、それは装飾であり本質ではないと考えている。描きたかったのはB級ホラー、それも7~80年代のホラー映画とポルノが融合した作品。あの伝道師の件は「シックスセンス」的な衝撃のラストを狙ったものだと考えている。

本作は、年老いた老婆が、ひょっこりやってきた若者の若さやセックスを見て、忘れていた情熱を思い出すとともに、若さへの嫉妬が生まれ次々と若者を惨殺。亭主も手伝い、それにより一時若い情熱を取り戻すが、終われば元の年寄りに逆戻り。そこで離れを貸す広告を出して、また若者を呼び寄せ一時の情熱を取り戻そうという、とんでもないB級映画。というのが私の考察。この辺が顕著に出ているのがキャストで、パールは主人公を演じるミア・ゴスの一人二役であること。これは、若さを失った老婆と、若い女性の対比する意図があるのだろう。

なお、ハワードを演じたスティーヴン・ユーレも、まだ60台で、顔や体の皴はミア・ゴス同様特殊メイクで表現している。彼は、オーストラリアの俳優で、「ロード・オブ・ザ・リングシリーズで」オークの隊長グリシュナッハ。「ホビットシリーズ」ではこれもオークのフィンブルを演じている。今回も老人メイク姿だし、つくづく特殊メイクに縁のある人だ。

この手の映画はスラッシャーを“風紀委員”と呼ぶように、性に淫らなものは殺されるが、本作で真っ先に殺されたのは、一番良識があるRJなのは、従来のスラッシャー映画へのアンチテーゼとも取れるが、これは単に彼がパールの誘いを断ったから。ラストの保安官のセリフからもうかがえる通り、本作は、ポルノとホラーを融合させた、とんでもないB級の、一粒で二度おいしい映画。あまり複雑に考えずに、楽しんでみるのがいいのでは。もちろん深く考察するのもよし。

A24作品は感想を書くのが本当にめんどくさい。その分相手の裏をかいてみる面白さはあるけど…