サスペリア(1977年)監督 ダリオ・アルジェント 主演 ジェシカ・ハーパー (イタリア)

 

スージーはバレエ学校に入学するが、日々のハードなレッスンがたたり、ある日倒れてしまう。そんな時、彼女は友人・サラから奇異な話を聞かされる。以前から何人もが行方不明になっており、消灯後に教師たちがどこかに集まっているというのだ。

イギリスの評論家トマス・ド・クインシーの1845年の小説「深き淵よりの嘆息」をモチーフに、ダリオ・アルジェントとダリア・ニコロディが脚本化し、ドイツのバレエ名門校に入学した若い娘を襲う恐怖を描いている。監督はイタリアン・ホラーの巨匠、ダリオ・アルジェント。アルジェントによる「魔女3部作」の1作目とされている。ちなみに他は「インフェルノ」とかなり間隔をあけて作られた「サスペリア・テルザ 最後の魔女」。なお「サスペリア2」は、「サスペリア」以前に撮られたものでいわゆる邦題詐欺に当たる。

リアルで見た世代は公開時の、「決して、ひとりでは見ないでください」というキャッチフレーズを覚えているはず。当時大流行し、その後さまざまな亜流とパロディを生む事になった。

ドイツにあるバレエの名門校に入学するために、ニューヨークからやって来た主人公のスージーが、大嵐の中、空港でようやく拾うことができたタクシーに乗って学校に向かう。このタクシーの中で、運転手の背中に幽霊が映っているという都市伝説がまことしやかに流れているが、アルジェントの仕込みという説もあるが、よく見るとこのタクシーは運転席と後部座席との間に透明な仕切りがあるから、カメラマンが映ったという説が有力だ。

左下に男の顔。カメラマンと言われているが真相やいかに?

 

学校にたどり着いたスージーは性とのパットが扉越しに室内に「秘密のドア、アイリス、青いの……」と叫ぶのを目撃する。その後でインターフォン越しに取り次ごうとするが、相手は塩対応で追い返されてしまう。その後、パットは友人のアパートに逃げ込むが、何とここでパットと友人は惨殺されてしまう。この時の殺し方とその後の遺体の見せ方は、グロと鮮やかな色彩、そして巧みな構図に彩られ、いかにもイタリアン・ホラーといった感じ。

翌日ようやく入校できたスージーだが、ここで友達となったサラから、昨日塩対応をしたのは自分だと告白される。パットと学園の謎について、玄関付近で話し合っていて、突然スージーが来たので驚きパットは飛び出し自分もあんな対応をしたのだと告げられた。

その後、授業でしごかれ鼻血を出して卒倒。医師の勧めで食後にワインを飲むように言われるが、このワインを飲むと彼女は激しい眠気に襲われてしまう。誰が見ても、ワインに何か入っていると思うところだが、そのまま終盤まで飲み続ける。

主人公のスージーを演じるのはアメリカの女優ジェシカ・ハーパー。公開当時28歳ぐらいなので「美少女」とは言い難いが、透明感があり幼い雰囲気なので、二十歳ぐらいに見える。映画に合わせ、イタリア語をマスターしたという頑張り屋さん。当初は、脚本を執筆しアルジェントのパートナーでもあったダリア・ニコロディが主役の予定だったが、米国の配給業者が「アメリカ人の俳優を使った方がアメリカで売れるで~」と言い出しジェシカ・ハーパーとなり、ニコロディにはスージーの友人サラ役が回されたが本人は拒否したという。

映像の美しさや構図は見事

 

盲導犬が暴れたとの理由で盲目のピアニストは学園を追い出され、その後盲導犬にかみ殺されるというショッキングな展開。ちなみにこの殺害現場はケーニヒス広場。ナチスの党本部があった褐色館のすぐ近くにある。ナチスはオカルトに傾倒していたことは有名なので、なかなか壺を得た演出。その後サラもいなくなり学校への不信感を募らせたスージーはサラの友人の精神科医フランクを訪ねて相談。フランクは学院の歴史と魔女についての話をしより詳しいミリウス教授を紹介する。

このフランクを演じているのがウド・キア。怪しい作品で怪しい役をさせると、右に出るものはない名優。

終盤ようやくワインを飲むのをやめ、消灯後に消える教師たちの後を追う。この時、冒頭のパットの言葉から秘密の部屋の入り口を見つける。果たして中には何があるのか?そして学園の秘密は?

アルジェントは原色に近い鮮やかな色彩と、遠近を巧みに使った構図。そしてエロティックさとグロテスクさが織り込んだ作風が特徴。本作でもその特徴が存分に描かれている。まあ、エロの方は、本作ではバレエの授業での少女たちのレオタード姿や、ノーブラによる衣装越しのムネポッチぐらいと控えめ。それ以外はなかなかすごく、最初のパットとその友達の殺害シーンは、巧みな構図と真っ赤な鮮血が鮮やかに描かれて見どころとなっている。

その一方で、ストーリーは二の次になっているのもアルジェントらしい。冒頭の殺害シーンだけでなく、それ以降もだれがどのようにやって殺しているのか、劇中では全く描かれていない。多分、魔女の使い魔がやったんだろうが、劇中で何ら描写されていないから、見ている時は、鮮血と巧みな構図であまり追及する気は起きないが、落ち着くと「あれは何だったのだ?」となってしまう。冒頭の惨劇だけでなく、天井を埋め尽くす蛆虫のグロテスクさ。ピアニストが惨殺される場面。サラが針金地獄に絡めとられる場面。すべてが残酷さと美しさが対比される構成となっている。だからあまりストーリーのあやなど気にせずに、美しくも残酷な映像を楽しむべき。逆に言うと、ストーリー重視の人には向かない映画といえるだろう。