燃える戦場(1970年)監督 ロバート・アルドリッチ 主演 クリフ・ロバートソン (アメリカ・イギリス)

 

太平洋戦争下の南太平洋上ニューヘブリデス島。膠着状態にある戦局を打開すべく、連合軍は、日本語のできる将校をイギリス軍に派遣し通信所を破壊、逆無線を利用し日本語の分かる者から偽の連絡を出して日本軍を混乱させそのすきに米輸送船団を通過させる作戦を立てた。アメリカ軍のローソン中尉、イギリス軍ホーンスビー大尉といったメンバー成る工作隊は犠牲者を出しながらも任務を遂行。しかし兵たちの軋轢は絶えず、さらに日本軍の追跡隊も彼らを動揺させる……。

現地の英軍には厭戦気分が蔓延していた

 

第二次大戦下の南太平洋のある島で、日本軍とイギリス軍の激しい死闘を描いた戦争映画。日本を代表する大スター高倉健のハリウッドデビュー作。

上記のあらすじの通り戦局の打開を狙った特殊部隊による奇襲作戦だが、肝心の兵士たちがよく言えばリアル。悪く言えばやる気がない。まず主人公のクリフ・ロバートソン演じるローソン中尉は冒頭から浜辺で日光浴に興じるような奴で、ヘンリー・フォンダ演じるノーラン大佐に命じられしぶしぶニューヘブリデス島へ向かう。ここは日本軍と英軍が半分ずつを占領しあい、その境界に銃器の射程外のだだっ広い平原が広がっている場所。そこに駐屯する英軍も厭戦気分が蔓延してやる気がない。デンホルム・エリオットが演じる特殊部隊指揮官ホーンスビー大尉は張り切っているが、最初の日本軍との遭遇戦では、有利な状況なのに布陣の悪さから同士討ちを誘い数名の死傷者を出してしまう。マイケル・ケイン演じるハーン衛生兵はそのことを追求すると大尉は逆切れ。その後も通信兵が逆無線用の無電器を壊すなど災難続き。このため、大尉は破壊する前に日本軍の無電機を使おうとする。無線通信所を見つけ、夜陰に乗じ首尾よく通信所を占拠するが、ローソン中尉は意地を張っていこうとせず、日本軍と銃撃戦になり多くの兵士が戦死。大尉はローソンの目の前まで戻り、そこで命を落とす。

死の原因を作ったローソンを睨みながら息絶えるホーンスビー

 

帰還中に生き残った兵士たちは、偽装された日本軍の飛行場を発見。このままだと輸送船団は攻撃を受ける。彼らに追い打ちをかけるように、ジャングル各所に設置された拡声器から、高倉健が演じる山口少佐が巧みに心理戦を仕掛け、生き残った特殊部隊を分断していく。

「特攻大作戦」、「飛べフェニックス」、「北国の帝王」など多くの作品を世に出した名監督・アルドリッチの作品。映画の冒頭で星条旗、ユニオンジャック、そして旭日旗が最初は勢いよくはためいているが、だんだんとボロボロになっていく様は、アウトローを描くアルドリッチらしい。ただ本作は「攻撃」や「特攻大作戦」程、強烈な反軍思想は感じられず、人間同士のぶつかり合いに力点を置いている。また、本作は「特攻大作戦」のスピンオフと紹介されることが多いが、「ならず者たちが活躍する」こと以外直接的なつながりはない。

巧みな心理戦でローソン達を分断する山口少佐。

 

ただ、本作が傑作かと言われれば少々微妙で、重要任務なのにまともな兵士がほぼいないというのは大問題。これでましな方なら、日本軍はあっさり島を占領できるのではと思ってしまう。また。他のいわゆる「特殊部隊モノ」と共通するが、作戦が、回りくどくてわかりにくい。通信所を爆破して、後方から偽通信を出しても良かったはず。最初は厭戦気分の塊だったクリフ・ロバートソンが大尉が死ぬと、急に取りつかれたようにやる気を出し、他の兵士と確執を起こすのもどうかと思う。

映画のOP。次第とボロボロになる日米英の旗が印象的

 

一方、日本軍の描写は当時のハリウッド映画の中では、異例なほど良い。

日本人として気になるのは本作でハリウッドデビューを果たした健さんだが、珍しく冷静沈着で知的な日本陸軍将校を演じている。学生の頃から英語が堪能だったらしく、この映画でも完璧に英語の相当な長セリフをこなしている。投降させるべく捕虜の殺害すると脅すが、偽装で実際には殺さない等人間味のある部分も描かれている。また、スーツアクターとしても有名なきくち英一が、山口少佐の部下の日本兵を演じている等、日本兵たちもセリフがある役は日本人が演じていてちゃんと日本語をしゃべっているのも特徴で、米英の兵が酷いだけに、相対的に日本兵が良く見えている。

残念ながら本作は、興行的に成功といい難かった。しかし、アルドリッチは本作で健さんに惚れ込み、その後健さんとリー・マーヴィンのW主演で「ザ・ヤクザ」を撮ろうとしが、映画会社の意向でロバート・ミッチャムに替えられたことに激怒。それが原因で監督を降板し、シドニー・ポラックが撮ることになったという。こちらは興行的にも、批評の成功し高倉健の名前を世界に響かせることになった。

ふたりは生きて帰ることができるのか!

 

本作は健さんのハリウッドデビュー作にもかかわらず、日本であまり知られていないように感じる。Wikiの解説もあっさりとしているし、熱狂的な高倉健ファンの友人も知らなかったので、当時持っていたVHSを貸したところ、いたく感謝された。確かに色々突っ込み所はあるが、もう少し日本で評価されてもいいんじゃないだろうか。でも現時点で円盤は発売されていないし、U-NEXT、Amazonプライムで配信もされていない。ツタヤディスカスにはあったから、これで見ることはできるぐらい。ちなみに私が持っているのもレンタル落ちのDVD。「世界に飛び出した高倉健」というタイトルで、他の海外進出作と一緒にDVDボックスを出せば売れると思うんだが?権利関係が面倒かな。

将校用の防暑衣に軍刀の柄に汗除けの白い布を巻いている等芸が細かい

七分袖の防暑襦袢に弾薬盒と当時の南方戦線の日本兵の典型

九九式狙撃銃かと思ったら、スコープが違う?別のを引っ付けたみたいだ

消炎器がないから九六式軽機関銃と思うが、九九式でもついていないのがあるからどうだろうか

十四年式拳銃。将校ならブローニング1910か九四式のはずだが、日本軍の拳銃といえば十四年式のイメージだから?

日本軍爆撃機としてT34練習機が登場。

英軍といえばこれ。ヴィッカース重機関銃