アフリカン・カンフー・ナチス(2021年)監督 セバスチャン・スタイン 主演 セバスチャン・スタイン ニンジャマン(ガーナ・ドイツ・日本)

 

第二次大戦を生き延びたヒトラーと東條英機は逃亡先のガーナを制圧すると、空手と魔術で人々をガーナ・アーリア人として洗脳し、世界侵略の拠点を築いていた。圧政のなか、恋人を奪われた心優しき青年・アデーは復讐を誓い、過酷なカンフーの修行に身を投じる。


潜水艦内で再起を誓う二人。なお、イタリアはハブられたとの事

 

スタイン監督が酔っ払って2時間で脚本を書き上げた怪作。第2次世界大戦後、ヒトラーと東条英機は脱出に成功。ひそかにガーナに潜入し世界征服を企むという奇想天外というよりも荒唐無稽なアイデアに基づくカンフー・アクション。ガーナ人俳優たちの驚異的な身体能力が生み出すハイレベルな格闘アクションは必見。

上記のあらすじを読んで眉間に皴が寄ったり、こめかみに青筋が立った方は本作をお勧めしない。というより、絶対に見ない方がいい。あと映画を芸術と捉えるような、自称高尚な方にもお勧めしない。なぜなら本作は究極のバカ映画だから。ただし、結果バカ映画になったのではなく、狙って作ったバカ映画だ。

ともかく設定がぶっ飛んでいる。ヒトラーと東条は第2次大戦後に脱出したことになっているが、現地ガーナの様子は誰がどう見ても、現代にしか見えない。するとヒトラーは130歳を超えているし、東条に至っては140歳近くになる。どうやって生きながらえていたのか?また何故年を取っていないのか?何ら言及はない。まさか、あの極悪茶番集団からAPTX4869を入手して幼児化してたわけでもあるまい。また魔術で洗脳されたガーナ・アーリア人はすべて顔が白くになるが、それも白粉を塗ったくったような粗雑なメイクに、失笑を禁じえない。

ヒトラーと東条以外にゲーリングが登場するが、演じているのはマルスエル・ホッペという黒人。ゲーリング、いつから黒人になったんや!と突っ込みたくなるが、現地に白人のキャストを確保できなかったからとか。ちなみに彼の吹替は天龍源一郎。これ絶対狙っているな!

DJを務める総統閣下

 

吹き替えと言えば、ガーナ人の吹替は何故か関西弁になっている。なんでやねん!と突っ込みたくなるが、これはスタインのアイデアで、何でもドイツに住んでいた頃、香港映画を見たら、1本だけバイエルン方言の映画があって、大爆笑したのがきっかけとのこと。確かに映画の雰囲気に会っているから不思議。

主人公アデーが武者修行するのは、酔拳使いの浮浪者。過酷?な修行を終えた彼は、酔拳使いの紹介であらたな師匠につき、その技もあっという間にマスターする。この辺り。ジャッキー・チェンの往年の名作「酔拳」へのオマージュを感じる。さらに、巫女によってヒトラーの洗脳を解く方法を伝授される。それは彼らが掲げる血染めの軍旗。

その後、ヒトラーが主催する武術大会に出場するアデー。この辺りも往年の香港映画っぽい。強敵?ひしめく中勝ち進み、ゲーリングを倒し、ついに東条英機と一騎打ち。意外な事にこのナチスたち、姑息な手段は用いず正々堂々と戦う。ドイツ民族の誇りというわけだろうか。

しかしこの東条英機は、体がぶよぶよしていてどう見ても空手の達人に見えない。彼が技を繰り出すと、「ドラゴンボール」のかめはめ波の様な特殊効果が入るが、これ絶対狙っているだろう。

本作のキャストは、セバスチャン・スタイン監督自らヒトラー役を演じたほか、スタインと交流のある一般人・秋元義人が東條英機を演じた。本人曰く「便利屋家業の一環」だとか。

アクションは本格的!鍵十字の向きはせめてもの配慮か?

 

髪を7・3分けにして前に垂らしちょび髭を付けるとだれでもヒトラーになるし、ハゲの中年男が丸眼鏡にちょび髭だと東条英機に見えるから不思議。特徴のある人に化けるのは、そんなに難しくないんだな

全編脱力するしかない中、一番まともな見どころは、ガーナ人俳優の俊敏なアクション。切れのある動きに微温湯に浸かって居た脳が、一気に覚醒した。どうやら、現地のアクションスターを揃えたらしく、ゆるさの中にキレッキレの動きが現れるので、ここはガツンとやられること請け合い。

ナチスを扱った映画はいまだにタブーが多いが、スタイン監督は「タブー視しちゃダメなんです。タブー視して見えなくすると、逆に興味をそそるから。でもバカにしてたら憧れる人もいなくなる。バカにして、ネタにしたほうがいいと思いますね」。う~~ん、正論じゃん。確かに本作はバカ映画だけど、監督が狙って作ったバカ映画。だから、後半のアクションシーンは悔しいが引き込まれるし、この手の映画にありがちな不快感は全く感じない。そもそもバカ映画を「不謹慎だ」と叩くのは無粋だろう。ギャグにはギャグで返すべきだ。

かめはめ波?