荒鷲の要塞(1968年)監督 ブライアン・G・ハットン 主演 リチャード・バートン(アメリカ・イギリス)

 

イギリス情報部・ターナー大佐の命令により、“鷲の城”の名で恐れられるドイツ軍の要塞に向かったジョン・スミスら6人のイギリス軍とアメリカのレンジャー部隊員・シェイファー。だが捕虜救出という任務の一方ジョンはひとりで女性諜報部員と連絡を取り…。

アルプス上空を飛ぶJu-52。この冒頭で引き付けられる

 

冒険小説家、アリステア・マクリーンが自身のベストセラーを脚本化。監督のブライアン・G・ハットンは元々俳優で「OK牧場の決闘」等に出演していたが、65年に監督に転身。本作以外では「戦略大作戦」が有名。

映画の冒頭で重々しいドラムに合わせて、曇天の山岳地帯を低空で飛ぶユンカースJu-52。戦後もフランスやスペインでCASA 352/3Mとして1952年までライセンス生産され、1960年代までヨーロッパの定期航路を飛び続けた。現在でも一部で観光飛行を続けているが、2018年8月4日、スイス南東部グラウビュンデン州にて遊覧飛行中の同機が墜落、乗客乗員20人全員が死亡した事故が起きた。この時の機体は本作で登場した機体と同一だという。

空挺降下したのはスミス少佐を指揮官とする連合国軍の特殊部隊。英軍がほとんどだが、米軍からシェイファー中尉が参加していた。ドイツ軍に捕らわれているアメリカ軍の将軍を救出するため、派遣されたのだったが、一人の兵士が殺され先行きに暗雲が立ち込める。

ベルギー人の某名探偵ばりになぞ解きをするスミス。さすがミステリーの国!

 

スリリングな展開と後半のド派手なアクションで、戦争映画ファンを魅了した伝説的な名作。二転三転するストーリーは、今なお多くのファンを魅了している。

スミスにリチャード・バートン。シェイファーにクリント・イーストウッドの二人がダブル主演を務めるなど、出演者も豪華。

様々なトラブルに見舞われながらも一行は協力者がいる麓のビアホールにたどり着く。協力者はハイジという若い女。別にヤギや足の悪い女の子を連れているわけではない。彼女と渡りをつけたスミスは、もう一人の協力者としてメリーを要塞に潜り込ませる。

こんな美女と仕事できるなら...いや、やっぱりいいや

 

ヒロイン、メリーを演じるメアリー・ユーアは、スコットランド出身の英国女優で、アルコール依存症から1975年に42歳の若さで亡くなってしまう。

もう一人のヒロイン、ハイジを演じるイングリッド・ピットは、ドイツ人の父とユダヤ系ポーランド人の母のもとにポーランドで生まれ、ナチスに占領されると家族とともに強制収容所に収容された。本作出演後に英国に渡り、ハマー・プロが制作した「バンパイア・ラヴァーズ」やエリザベス・バートリーをモデルにした「鮮血の処女狩り」に主演し、ホラークイーンとして大ブレイクする。ブログで以前紹介した「ヴィッカーマン」にも出演している。

一行は、ビアホールでドイツ軍に捕らえられるのだが、この時を含め本作にはドイツ軍トラックとして、大量のオペルプリッツが登場している。元気に動いていたので、終戦から20年以上たっているのに、これだけ順調に動くのに驚きだが、戦後もブランデンブルク工場で生産されたほか、ソ連軍が設備を接収したので東欧でも生産され、田舎に行くと今でも動くものを見かけるらしい。護送中に、スミスとシェイファーは無事脱出して、鷲の城へ潜入に成功する。

あの名作のバックに映る「荒鷲の要塞」

 

ちなみに、「鷲の城」の撮影はオーストリア中部のザルツブルクの南ザルツァッハ渓谷にある町、ヴェルフェンを見下ろす絶壁に位置する中世の城、ホーヘンヴェルフェン城で行われた。ここはジュリー・アンドリュース主演の「サウンド・オブ・ミュージック」で、「ドレミの歌」を歌うバックに映っている。

ベルリンから来たロゼマイヤー将軍を交え、要塞指揮官のクラマーSS大佐がカーナビ―将軍を尋問中にスミスらが現れ、それまで同行していたシェイファー中尉を拘束。自分はドイツ側のスパイだと告白し、カーナビ―将軍は実は偽物で、本当は俳優であることを告げる。ここから息も尽かせぬ展開で、怒涛のクライマックスへと雪崩れ込むことになる。

要塞司令官の、クラマーSS大佐を演じたのはアントン・ディフリング。「暁の7人」のハイドリヒなど、ナチスの軍服がよく似合った事からナチスの将校を得意としたが、彼もユダヤ系ドイツ人で大戦中は迫害をのがれ、カナダに移住していた。またロゼマイヤー将軍を演じたファーディ・メインも、マインツ生まれでユダヤ系。更に母親はイギリス人だったことから、英国に逃れ大戦中はMI-5に情報を提供していた。

いかにもナチの軍人という雰囲気を醸し出す二人

 

この二人から醸し出される、いかにもナチスの軍人という雰囲気に比べると、バートンやイーストウッドはどう見てもドイツ軍人に見えないのは如何なものか。

一方、ゲシュタポのフォン・ハッペン少佐を演じた、ダーレン・ネスビットの怪しい雰囲気は、これぞゲシュタポといった感じだが、彼は生粋の英国人。伝説のカルト番組「プリズナーNo.6」の第10話にNo.2の役でゲスト出演している。

女たらしのように見えて、実はかなりの切れ者。ただヒトラーへの忠誠心が仇となった

 

英国情報部のローランド提督を演じたマイケル・ホーダーンは、戦争中空母「イラストリアス」に乗艦していた経験を持つ。「ビスマルク号撃沈せよ」や「巨大なる戦場」など戦争映画にも数多く出演し、1983年にナイトの称号を授与されている。

ストーリーの面白さだけではなく、軍事考証の正確さでも高い評価を得ている本作だが、ロゼマイヤー将軍を乗せてきたH-13ヘリだけは「あれさえなければ」酷評されている。Fi 156シュトルヒ連絡機かフレットナー Fl 282という設定なのだろうが、前者は短いとはいえ滑走路がいるし、後者はまだ機械的な信頼性に欠け、再現するのは難しいからだろう。

後半の1時間をかけて鷲の城からの脱出劇となり、飛行場までアクションシーンの連続。通信室横の廊下での銃撃戦では、イーストウッドがMP40を2丁拳銃よろしく打ちまくる有名なシーンがある。この頃、イーストウッドはマカロニウエスタンで大成功をおさめ、ハリウッドに凱旋したころだから、それを意識したのだろう。ロープウェイのゴンドラ屋上の死闘に除雪機を付けたバスでの強硬脱出など、見せ場の連続。脱出組は奪ったMP-40を撃ちまくる。MP-40は拳銃弾を使っているから、せいぜい射程は50mだぞ、とかいう野暮なツッコミは言いっこなし。そして無事脱出できたと思ったら、飛行機の中でも最後の逆転劇が待っている。すべてが終わった後、イーストウッドが「次はイギリスだけでやってくれ」と言い放つのが秀逸。

「次はお前たちだけでやってくれ」

 

サスペンスタッチの前半に、犯人は誰だ!的なミステリータッチの中盤。そして後半はアクションに次ぐアクションと見せ場に事欠かない、上質な戦争冒険アクション映画。無論突っ込み所はあるが、それを補って余りある面白さがある。後味もよく見終わったら大きな満足が得られるはず。

「これさえなければ」と言われたH-13ヘリ

MP40が大活躍!ただし連合軍側で