妖怪百物語(1968年)監督 安田公義 主演 藤巻潤(日本)

 

江戸の豪商・但馬屋利右衛門は、寺社奉行・堀田豊前守と結託して岡場所を作る計画を強行しはじめた。ある夜、利右衛門は、町内の権力者たちを招き、怪談の会、百物語を催した。

しかし、利右衛門は百物語の最後にしなければならないおまじないをしなかったため、妖怪たちが続々と出現、果たして怪異が生じはじめた。

右から若き日の平泉成。左端が後に「連想ゲーム」で人気を博した坪内ミキ子

 

1968年1月から放送されたテレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」は、子供たちの間で空前の妖怪ブームを巻き起こすことになり、その流れに乗るべき制作されたのが本作。「ガメラ対宇宙怪獣バイラス」と春休み興行として併映された本作は好評を博し、また社内での注目度も高く、大映側はこの新しい「妖怪もの」を同年暮れの冬休み興行に組み込み、次回作「妖怪大戦争」へとシリーズ化することとなった。

監督は「座頭市シリーズ」や「赤胴鈴之助シリーズ」の安田公義。主演の藤巻潤は「大魔神」やテレビドラマ「ザ・ガードマン」で人気を博していた。ヒロインの高田美和は当時大映の清純派女優として高い人気を誇っていたし、もう一人のヒロイン坪内ミキ子は、当時は珍しい大卒の女優だったことから、”学士女優”と呼ばれ、女優以外も多彩な活躍で人気を集めることになる。出演者の中で目を引くのは、まだ無名だった平泉成(当時は平泉征)が出演していた事だ。

映画の冒頭は、長屋で浜村淳が演じる伍平が3年前、美濃の山の中で自分が本当に経験した怪談を全員に話し終える。そして付き物払いの御まじないをするが、ここは”百物語”の手順の説明といったところ。その後で、但馬屋利右衛門の番頭藤兵衛と重助がやってきてお社と長屋を取り壊すから出て行けと迫る。実は大家の甚兵衛は、亡くなった妻の薬代として、但馬屋には30両の借金があった。時代劇の定番だが、話がバブル期の地上げ屋っぽくて、こうしたやり口は昔からあったのだなと思わされる。重助を演じる吉田義夫の、やせぎすなのに強面がこうした役には凄みを増す。この頃はこうした、一目で役柄がわかる役者が、いっぱいいたな。

ユーモラスな中に不気味さを感じさせる林家彦六師匠の名調子

 

ある晩、利右衛門は豊前守を始め、有力者を招いて百物語を開催する。ここで八代目林家正蔵(のちの林家彦六)が登場する。これには理由があって、「百物語」は、江戸時代の落語家である初代林家正蔵が盛んにしたものとされているから。そこで劇中で、その初代林家正蔵の役を八代目林家正蔵が演じた。彦六の独特の節回しは、後に林家木久扇の物まねの十八番となるが、本作でもユーモラスな中にもある種の不気味さが感じられ、作風とよく合っている。ここで語られるのは有名な「置いてけ堀」。釣りをして呪われる浪人を、時代劇の悪役で有名な伊達三郎と結城市朗(当時は山本一郎)が演じている。そしてろくろっ首になる妻の毛利郁子は、当時グラマー女優と呼ばれ人気を博したが、妻子持ちの男性との不倫の末、男を刺殺し服役することになる。なかなか波乱万丈の人生だ。

本来なら、付き物落としの御まじないをやらなければいけないが、利右衛門は鼻で笑い「私のやり方でおまじないをやる」といって、みんなに小判を配る。いやあ時代劇だね~。「越後屋。おぬしも悪よの~」

しかしこの会にいつの間にか、藤巻潤演ずる浪人大木安太郎が紛れ込み、ちゃっかり小判をせしめるかと思ったら、そうは問屋が卸さず見破られ、あわや、と思ったら逃げることに成功。それで甚兵衛の借金を返させるが、敵もさるもの、途中で口封じされる。そして地上げ屋たちが社を引き倒し、次は長屋だ!となったところで異変が起きる。ここから妖怪たちの大活躍が始まる。

本作は、本格的な時代劇として作られている。悪代官と結託する悪徳商人。貧乏長屋の庶民は人情に厚く助け合って生きている。そこに住む謎めいた浪人。大家の可憐な娘は悪代官に差し出され、それを助ける謎の浪人。更に長屋などのセットや、百物語で使われる幽霊画。著名な落語家のカメオ出演等、時代劇としてのセオリーは踏んでいる。それだけに当時の子供にちょっと難しいように思えるが、そこは同時上映の「ガメラ対宇宙怪獣バイラス」に譲り、本作はもう少し高学年をねらったのだろうか。ただ、やはり反省点はあったようで、次回作「妖怪大戦争」は子供向きにシフトすることになる。

怪談の定番。「それはこんな顔だったかい?」

 

映画の中盤辺りで、利右衛門の息子で、少し頭が足りない新吉と、唐傘お化けとのユーモラスな掛け合いが描かれているが、新吉を演じるルーキー新一は、当時の人気芸人。本作の公開直後に女風呂をのぞいたり、一般男性への恐喝が発覚し芸能界を追われ、若山富三郎が救いの手を差し伸べるも浮揚に至らず、44歳の若さで没することになる。本作は彼の絶頂期の姿を見ることができる、貴重な作品となっている。

全てが終わった後で、妖怪たちが豊前守の屋敷から繰り出す、いわゆる百鬼夜行。ここは子供の頃見た時からトラウマになるほど、強烈な印象が残っている。妖怪たちは3つの棺桶をまるで神輿の様に担ぎ、練り歩くが、ここはユーモラスであるとともに、ファンタジックであり、かつ恐ろしくもある。この3つの棺桶に誰が入っているのか言うまでもないだろう。やはり妖怪たちは、悪人を退治したのだ。

本作のアイドル的存在の唐笠お化け

 

恐ろしくもあり、おかしくもある妖怪たち。もし「妖怪映画」というジャンルがあれば、本作は間違いなく最高峰に位置するはず。手作り感満載の映像はCG全盛の現代のデジタルな映像よりも“妖怪”という題材にマッチしているように感じる。

クライマックスの妖怪大集合

悪者退治をした妖怪たちによる百鬼夜行