エクス・マキナ(2015年)監督 アレックス・ガーランド 主演 アリシア・ヴィキャンデル(イギリス)

 

巨大検索エンジンを運営する企業でプログラマーとして働くケイレブ。人前には滅多に姿を現さないCEO・ネイサンの別荘に1週間滞在する機会を得た彼は、美しい女性型ロボット・エヴァに搭載された人工知能のテストに協力することになるが…。

アレックス・ガーランドの監督デビュー作であり、第88回アカデミー賞視覚効果賞受賞作品。美しい女性の姿をした人工知能とプログラマーの心理戦を描いたSFスリラー。

主人公のケイレブが抽選で、滅多な事で人前に姿を現さない、社長ネイサンの自宅を訪問する権利を得るところから始まる。ここから、同僚から「おめでとう」的な祝福を受けるシーンを含め、ヘリの中まで台詞なし。家(というより壁?)に到着したケイレブが、玄関でカードキーを受け取り中に入ると、筋トレ中のネイサンから歓迎を受ける。この家、ヘリで行かないとたどり着けないほどの、風光明媚で自然に囲まれたところにあるのだが、ヘリポートもガレージもないから、こっちから出かけることは出来ないという超不便。

ネイサンはここでAIの研究をしていて、彼にチューリング・テストを行うよう依頼。そして美少女アンドロイドエヴァと引き合わされる。一目で彼女に惹かれたケイレブは、やがてエヴァに言われるままに動くようになる。と言うもの。

チューニングテストとは、イギリスの数学者アラン・チューリングが提案した、「機械は思考できるのか?」という問題意識から提案した質疑応答式のテスト。人間の審査員が、1人の人間と1つのプログラムに対し会話をして、審査員が人間とプログラムを区別することができなければ、そのプログラムは合格。つまり「人間並みの知能を持っている」とみなせると言うもの。本来審査員に人間か、AIかは伏せられているのだが、本作ではそれが明らかにされた状態で審査員と会話に臨むという禁じ手を使っていて、ネイサンの自信がうかがえる。ただ、映画を見るだけだと、ネイサンがエヴァを作った理由がよくわからない。まさか社員を揶揄うためだけに作ったわけではないだろう。自分の言いなりになる女なら、もう手に入れているし。多分ガーランドは最初からそんなことは、どうでもよかったんだろうけど。

主人公エヴァを演じているのがアリシア・ヴィキャンデル「トゥームレイダー ファースト・ミッション」では、ララ・クラフトを演じ人気となった。バレエをやっていただけにスタイルがよく、本作では最後にその美しい姿態を披露する大サービス。

もう一人の本作の主人公、ケイレブを演じたドーナル・グリーソンは「スター・ウォーズ」シークエル・トリロジーシリーズでファースト・オーダーのハックス将軍を演じ、ネイサンは同シリーズでレジスタンスのポー・ダメロンを演じたオスカー・アイザックが演じている。なんだ、ファースト・オーダーとレジスタンスの代理戦争か?

もう一人の、ある意味陰の主役と言って良いハウスメイドのキョウコ。会社の情報が漏れないように英語が話せない人を雇ったという設定。彼女の正体は途中で察しがついたが、終始無言な上、強い目力もあって登場当初からミステリアスな魅力を放っていた。演じているのはソノヤ・ミズホという東京生まれの日系イギリス人。彼女もアリシア・ヴィキャンデル同様バレエ出身。無表情でキレッキレのダイスを踊る姿が、場違い感があって面白かった。あそこで、彼女の正体に確信が持てたんだけど。

中盤あたりで、ネイサンが検索エンジンを使って、人間の好みや人間とは何かという様々なデータを集めて、AIを作ったという説明するシーンがあったが、YouTubeなどでも自分の好みに合わせたCMが流れてくるのは、Google先生の判定でそうなっていることから、結構リアルな話。多分GoogleやMicrosoftなどには、そうした情報が集められ、販売戦略などに活用されているはず。そして国家レベルでも収集されているだろう。実際中国では、独自の検索エンジンを使わせているから、日夜人民を管理するために情報収集に精を出しているというし。そのデータを使い、更にAIを進化させる試みは、すでになされているかもしれない。

映画は、「人間と人工知能の境目は?」とか、「人間とは何か?」とか、お決まりの話になるが、そもそもメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」の現代版とも評されているほど類似点が多事から、現代版リブートといったところだろうか。ただし、フランケンシュタインの怪物は、造物主から愛されることを願っていたのに対し、エヴァは「親離れ」しようとしているなどメンタルは大きく異なる。この辺りはいかにも現代版といった感じがする。

タイトル「エクス・マキナ」は演劇用語のデウス・エクス・マキナからとられたという。これは、解決困難な話を神(デウス)を登場させることで解決したもので、転じて強引なハッピーエンドの事を指すが、本作が“ハッピーエンド“かは意見が分かれるだろう。

ファーストオーダー対レジスタンス。その勝敗の行方は?

 

一見難解に思えるけど、あまり難しく考えずに、美しい映像美と(好みは分かれるだろうが)心地よい音楽に酔いしれて、ゆったりとみるのがいいと思う。ラストには、大サービスシーンもあるし。