ゾンビ特急"地獄"行き(1972年)監督 ユージニオ・マーティン 主演 クリストファー・リー(イギリス・スペイン)

 

満州でミイラが続々と発見され、列車で運搬するのだが、そんなミイラたちが車内で次々に蘇生し、乗客を襲い始めた。恐怖は連鎖型に広がっていき、連続殺人事件が発生。さらに恐るべき宇宙人までもが出現して……。

クリストファー・リーにピーター・カッシングの共演だから、てっきりハマー・フィルムの映画化と思ったら、スペインのグラナダ・フィルムとイギリスのベンマー・プロダクションが製作したスペイン・イギリスの合作映画。日本では劇場未公開で、ビデオスルー作品として各社からビデオソフトが販売されたという事だが、なんともったいない。あの二人の共演に、テリー・サバラスが出ているんだぞ!もっとも、サバラスが大ブレイクする「刑事コジャック」は翌73年の事で、この頃はイタリアのマカロニウエスタンやヨーロッパロケのB級映画にばかり出ていた頃だけど。

映画は、クリストファー・リー演じる、英国地質学会中国探検隊を率いるサクストン教授が、満州の雪深い秘境で200万年前と思われる類人猿のミイラを発見し、シベリアへとミイラを持ち帰ろうと列車に乗り込もうとするところから始まる。予約していたのに、賄賂を欲しがる駅員のせいでトラブルになるが、この辺はだらだらとしていて余計に思える。それと並行して荷物のミイラを盗もうとした泥棒が目玉が白色化した死体で発見され、サクストンと旧知の仲であるピーター・カッシング演ずるウェルズ医師が、密かにミイラの調査を命じた荷物係も同じように目玉が白色化した無惨な死体と化して発見される。ウェルズが解剖すると、脳の皴がなくなっていた。実はミイラは生きていて!?、荷物係がカギを開けた時逃げ出し、そのあと列車内で惨劇が起きるが、ミロフ警部により射殺され一件落着かと思いきや、その後も惨劇は続く。そんなもの、人が乗ってる列車で運ぶなよ!

実はこのミイラは、太古に地球に来た宇宙人が乗り移っていて、宿主が死んでも別の宿主に乗り移り、永遠に生き続けることができると言うもの。殺された相手の知識は目を通してすべて宇宙人に吸収され、目は真っ白となり、脳の皴もなくなってしまう。これが正しいかどうかは、医学は専門外なので詳しく説明できないが、昔よく言われていた頭のいい人は脳の皴が多いと言うのは完全に俗説。新生児の時点ですでに、脳の機能は完成しているとのこと。そのあと車内はウォーリーを探せ!ならぬ、宇宙人に乗っ取られているのを探せとなる。まあ、70年代の映画だし、細かいところは気にしてはいけない。

本作にはいわゆるゾンビは登場しない。すでに「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は公開されていたものの、ゾンビの設定を世界規模でリニューアルさせる「ゾンビ」の公開は78年だから、この時点でロメロゾンビはまだ一般的ではないし、終盤にゾンビらしきものが登場するが、所謂操られる系で、噛まれてもゾンビにはならない。原題は「Horror Express」だから、そもそも論としてゾンビは全く関係ない。

後半になると、コサック兵の隊長としてテリー・サバラスが登場。これが絵にかいたようなステレオタイプの野蛮で野卑なコサック。ただ事態を悪化させるでもなく、かといって収めるでもない微妙な役で、終盤のゾンビ要員のために出てきたかのよう。

他の出演者は、ミロフ警部のフリオ・ペーニャはスペインの俳優で、ラスプーチンにクリソツ(確実にモデルにしていたと思われるが)のプジャルドフ神父のアルベルト・デ・メンドーサはアルゼンチン人。その他もほとんどスペイン語圏の俳優ばかりで、英語のセリフはほぼ他の俳優により吹き替えられていた。コミュをどうしたのか気になるが、リーはスペイン語が話せたし、サバラスもスペインで活動することが多かったから、日本人が心配するほど、問題にならなかったのかもしれない。

アルベルト・デ・メンドーサが演じるプジャルドフ神父。モデルは一目瞭然

 

本作は、1972年の映画「パンチョ・ヴィラ(日本未公開でテリー・サバラスがメキシコの英雄パンチョ・ヴィラを演じた)」でマーティンと協力したアメリカの脚本家/プロデューサーのバーナード・ゴードンによって共同制作された。マーティンは、アメリカの映画プロヂューサー、フィリップ・ヨーダンとの5作の映画を製作する契約を結び、その一環として本作を作る事になり、その縁でサバラスは本作に出演することになったもの。1971年から72年の間にマドリードで撮影され、300万ドルという低予算で制作されたことから、本作で使われている妙に豪華な列車のセットは「ニコライとアレクサンドラ」のセットの流用との噂があったが、ゴードンにより「パンチョ・ヴィラ」のセットを使ったと表明されることで打ち消されたが、どっちにしろ流用なんだが。ただ、列車のミニュチュアの出来は、一部は実写化と見まがうほど良かった。

ごちゃごちゃした印象がするものの、割とテンポよく話が進むし、出し惜しみせずモンスターを見せてくれ、目や鼻から流血するゴアシーンもちゃんと描いている。何よりリーとカッシングの存在感で物語に重厚さも醸し出している。B級映画としてそれなりに見ごたえのある作品と言って良いと思う。ただ、amazon primeの日本語字幕は相当ひどいので、アマプラで見るときはご覚悟召されよ。