13日の金曜日1980年版(1980年)監督 ショーン・S・カニンガム 主演 エイドリアン・キング(アメリカ)

 

1957年の夏、クリスタルレイクのキャンプ場でジェイソンという名の少年が湖で溺れた上、行方不明になる事件が起きた。以来、長きに渡ってキャンプ場は閉鎖されていたが、1980年に再開することとなり、指導員となる若い男女がやって来るのだが…。

ショーン・S・カニンガムが製作と監督を務めた。当時大ヒットしたジョン・カーペンター監督の「ハロウィン」に影響を受けたカニンガムは、衝撃的で、視覚的に美しく、「座席から飛び出したくなる」作品にしたいと考えていた。また、『より「ジェットコースターのような作品」にしたいと考えていた。当初のタイトルは「A Long Night at Camp Blood(キャンプ・ブラッドでの長い夜)」と言うものだったが、カニンガムが「13日の金曜日」にした。しかしシンプルで普遍的なものだったので、他に権利を主張されることを恐れて、ニューヨークの広告代理店に調査してもらったという。かすりそうなタイトルの映画はあったものの、一応解決したとされる。

1957年の13日の金曜日、クリスタルレイクのキャンプ場で少年が行方不明となり、翌年キャンプ場の若い監視員の男女が殺される事件が発生する。そのあとキャンプ場は閉鎖されるが、1980年映画の冒頭で殺されるバカップルは、翌年の事件を描いたもの。そして行方不明となった少年がは、間もなく全世界に知らぬ者はいないほどの超有名スラッシャーヒーローになるわけだが、この頃はカニンガムすら予想出来てはいない。

1980年になってキャンプ場は再開され8人の若者がその作業に集まってくる。そのうちの1人、アニーだけが遅れていたが、現地の店でキャンプ場にまつわる不穏な空気を知るが、トラックの運転手に途中まで載せていってもらう。この運ちゃん、彼女を乗せるときお尻で押し込んだ以外特に何もせず、途中でバイバイ。現地まで連れて行けばと思うが、どうやらここは現地で忌み地となっている様子。しかしそこに通りかかった車に乗せてもらうが、キャンプ場を通り過ぎるなど不審な行動をとったので、途中で脱出。逃げてる最中に襲われ命を落とす。ちなみに日本語吹き替え版だとアニーの声は、ガンダムのフラゥ・ボウ役で有名な鵜飼るみ子さんが勤めていた。ちなみに主人公の、エイドリアン・キングの声は小山茉美さん。フラゥとキシリア様と言うある意味豪華な共演に、少し得をした気分になる。

キャンプ場には7人の若者が集まっている。事情を知ってる老人が「祟りじゃあ~~」と言って現れたり、イチャイチャしているバカップルが犠牲になったりお約束の展開。バカップルの片割れは、デビュー間もないケヴィン・ベーコン!後に「フットルース」でブレイクすることになるなど、この頃知る由もない。ちなみに彼が殺される、上から血が滴ってきてそれに注意を向けたところ下から屋で喉を突き刺されるシーンは、頭をベッドの下から出し、体はダミーというマジックでよくあるネタの応用。ダミーの体を矢が、突き抜けるとポンプから血が噴き出る仕組みだったが、ポンプが外れたので「ゾンビ」特殊効果で知られるトム・サヴィーニが、ホースをくわえて血を噴出した労作。アナログな頃のこうした苦労話は結構面白い。なお、あの血は「血糊」ではなく本物の羊の血だったとか。感染症とか大丈夫だったのだろうか?

それと訳知りの老人やエッチするカップル死亡の法則は、この頃は確立しておらず、本作が本格的に広めたと言って過言ではない。この「尻軽女は命を落とし、道徳的な女は助かる」と言う現代にも残るお約束から、スラッシャーを風紀委員と呼ばれるがが、それを確立させたのは本作と言える。厳密に言うと、「ハロウィン」からあったんだけど、ジョン・カーペンターは特に意識していなかったらしい。

映画は佳境を迎え、次々と若者が犯人の毒牙にかかり、ついに“ジェイソン”は主人公エイドリアン・キング演じるアリスと対決する。

で、これは超有名なのであえてネタバレするが、、「スクリーム」等でも取り上げるとおり、本作の殺人鬼はジェイソンではない。ジェイソンの母親、ベッツィ・パーマー演じるパメラが正体。彼女は最愛の息子ジェイソンがキャンプ場監視員の不注意から溺死したと思い込み、次々と彼らを毒牙にかけていたのだ。本作は、単純なスラッシャー映画と言うより、息子を殺された(と思っている)母の復讐劇と言う面もある。またスラッシャー描写も控えめで、ホラーと言うより「サイコ」的なサスペンス映画の要素が強くなっているのも特徴。

ジェイソンと言うキャラが独り歩きしている現代、初めて本作を見ると「ホッケーマスクをかぶった大男に、なんでみんな警戒心もなく近寄っていくんだ」と思うかもしれないが、本作はパメラが登場するまで殺人鬼の姿を全く映していない。この辺りの巧みなミスリードも本作のうまいところ。ベッツィ・パーマーは50年代から、映画やテレビでヘンリー・フォンダ、ジャック・レモン、ジョーン・クロフォード、タイロン・パワーといった大スターと共演していた。一時引退していたが、本作をもって復帰しただけに、まさか殺人鬼を演じるとはだれも思わない、観客の盲点を突いたキャストと言える。ただ本人は本作に出ることを嫌がり、「フレディVSジェイソン」で同じ役でオファーされたが断った。それじゃあなぜ出演したかと言えば、愛車のベンツが廃車になったため、代車のシロッコを買うためだったとか。

ヒロインの、エイドリアン・キングは本作をきっかけに人気となり、次回作のオファーを受けていた。本人も乗り気で、彼女とジェイソンとの戦いを中心に描かれる予定だったが、ストーカーにつけ狙われ命の危険も感じたので、彼女の要望で「13日の金曜日PART2」の冒頭で殺されることになった。実現して欲しかったなあ。

ちなみに当初の脚本では、最後ジェイソンが湖からアリスを襲うシーンはなく、監督のカニンガムが「もう少しインパクトが欲しい」という事で追加された。そしてサヴァーニの発案で、あのような醜い容貌になったが、脚本のヴィクター・ミラーは、ジェイソンを被害者と捉えていたので、彼を怪物的な容貌にすることは反対していたが、あのラストのインパクトが決め手となり、インディーズ系映画にもかかわらず国内配給はパラマウント・ピクチャーズ、海外配給はワーナー・ブラザースが獲得することになり、大々的に公開された結果空前の大ヒットとなる。ちなみにインディーズ系映画が、メジャースタジオで配給されたのは本作が初めて。1980年は「ザ・フォッグ」「シャイニング」「プロムナイト」「殺しのドレス」と言ったそうそうたるラインナップが公開された中、弱小インディーズ映画にすぎない本作が大ヒットできたのは、メジャーに配給されたことが大きいが、それをもたらしたのはあのラストのインパクトにあった。

さらにそこから、続編ではジェイソンが顔を隠す必要が生まれ、第3作「13日の金曜日 PART3」でホッケーマスクを被り、彼のトレードマークとなり、21世紀になってもいまだに通用するアイコンとなる。ほんとうに映画は、何が幸いするかわからない。

このシーンの裏にはスタッフの苦労があった。